10 好きだよ、何があっても 「…もらったんだが、行くのか、ほんとに」 たまたまジムに邪魔しにきていたときだった。 「いや、べつにそういうわけじゃないが」 「…これなんだが」 「えぇええええええええええ!?」 すごい、すごい、すごすぎる! 「…わーい楽しみ!いつ行く?ねぇいつ行く?」 彼の顔は、悲痛にゆがみ、あたしを見ないように視線をそらした。 何だ? 「…グリーン?どうしたの?あたし、何か変なこと言った?」 どうしよう…。 何かあったの? 「…グリーン?」 嫌われる? 「おまえ、俺のどこが好きなんだよ…」 彼が、搾り出すような声でそう聞いてくる。 「…え?」 なんだいきなり… 「おまえも結局は、そういう風に俺を見るのか?」 苦痛に叫ぶ声…。 「……え?」 そういう風にって、何? 「俺と一緒にいたってなんもねーぞ?金があるのは俺じゃなくて俺のおじいちゃんだ!地位だって名声だって、俺のじゃなくておじいちゃんのものだ!!俺のじゃねーよ!!おまえも俺のおじいちゃんっていう、フィルターかけて俺を見るのかよ!!」 あぁ、わかった…。 「………グリーンっ」 「…あたしが欲しいのはグリーンよ?」 あなたを愛してる。 だから…疑わないで…。 「…ごめんね…無神経なこと言ってごめん…。でも…でも…大好きだから…」 「……ごめん…」 「…っ」 その日はずっと気恥ずかしかったのか、彼は、目が合うたびに視線をそらして、真っ赤な顔をしていた。 十分伝わったみたいで、安心したよ? 「…大好きよ」 大好きよ…。 2005年10月11日 Fin
自分自身はこっちから書きました。兄さんの内情を知るよりは、姉さんの愛を先に知ったほうが、兄さんはこう思ってたのかぁ、なるほどみたいに思えていいかもとか思いつつも、ほとんど書きながら兄さんはここでこう思うって思いながら書いてましたけど。
「………なんなの、その、さもあたしが無理矢理誘って、前日になってやっぱりやめないか、みたいな言葉は」
あたしが作ったお弁当を広げたお昼時間に、彼に煎れたコーヒーを手渡した瞬間だった。
彼がしかめっ面を浮かべて、ため息を吐く。
「…そんなに嫌ならまず誘わないことをお勧めするわ」
同じくため息で返してやった。
乱暴にコーヒーカップを置くのと同時に。
「…いやしかし、おじいちゃんが二人で行ってこいとせがむから…」
出た。またおじいちゃんだよ…。
「だったら素直に一緒に行かないかって誘えばいいでしょ!?そこまであたしと出かけるのは嫌か?!」
机ひっくり返すわよ?
「いや、おまえと出かけることというか、人の多い場所に行くのに気が乗らないだけだ…」
はぁと彼は再度ため息をついた。
「…人が多いって、いったい何を貰ったの?」
いったいあたしとどこ行こうっての?
そう言って渡されたペアチケット。
あたしはがたんっと椅子を、吹っ飛ばす勢いで立ち上がった。
「な、なんだ?!」
彼が驚いたように、身を引く。
「うわっ!すっごい!えぇ!?どうやって手に入れたのこれ!!」
「え、あ、知らない。おじいちゃんがなんか貰ったからって」
「すっごーい!!これめったに手に入らないプレミアものよ!?懸賞でも1組とかしか当たらないレアなやつよぉ!?すっごーい!さっすが天下のオーキド博士よねぇ。こんなすっごいもの貰えちゃうなんてすっごーい。今度いろいろお願いしちゃお〜うかなぁ〜」
一般人じゃまず手に入れることができない、つい最近できたばかりの超高級ホテルのディナー招待券!
予約は2年先までは埋まってるって噂。
そんなところでディナーがただで食べられるなんてしあわせぇ。
たまんないかも。
嬉しそうな笑顔で、彼の膝の上に乗る。
「……」
「…グリーン?」
あたしが膝の上に乗って、嫌だと思ったとかそんな次元じゃない。
ものすごく、何かで傷ついた顔だ…。
今あたしは何をした?
この人を傷つける何を、あたしはしただろうか…。
あたし何でこの人を傷つけてしまったんだろう。
グリーンが表情に出るくらい、弱ってるなんて珍しい。
あたしはそれに、追い討ちをかけてしまったの?
あたしが泣きそうな声になる。
そっと頬に触れる手ですら、震えてる気がした。
あたし…
なんのことを言ってるの?
どこでグリーンが傷ついたのか…。
何に悩んで、何に苦しんでるのか…。
そっと優しく、抱きしめる。
「っ!?」
彼の体が、こわばるのが分かった。
手を力強く握り、真剣な目で彼を見つめる。
「グリーン自身が欲しいの。今ここにいる、他の誰でもない、あなたが…」
「…」
彼が驚いたように、あたしを見返す。
「…お金なんかいらない。名声なんかいらない。地位なんかいらない…。おじいちゃんなんて関係ないっ。グリーンはグリーンでしょ?今ここで、あたしを、あなたの目に写してくれているのは、あなたでしょ?あたしはそれ以外、あなた以外…何もいらないよ…」
優しくまぶたに、触れるだけのキスをする。
「…っ」
彼がびくっと、震えた。
「好きだよ。何があっても…。ずっと、ずっと、あなただけを、グリーンだけを、グリーンを…愛してるの…」
あたしがさっき言った言葉で傷ついたなら、いくらでも謝るから…。
券を貰ったのを喜んだのが気に食わないなら、今ここでこの券を破り捨ててもいいよ。
あたしを疑わないで…。
あたしだけは、あなた自身を、ちゃんと見てるから…。
あなたを…心から…愛してるから…。
彼が、苦しそうな声だけど、でも、苦しそうじゃない声で、一言つぶやく…。
「…ありがとう…」
彼はぎゅっとあたしを抱きしめて、肩に顔を、うずめていた…。
「…気が済んだ?」
あたしの愛は伝わった?
「…悪い」
あたしを離し、視線をそらす。
「…グリーン顔真っ赤よ?」
「うるさいっ」
小さくつぶやく。
「…っ」
聞こえたのか、彼は耳まで真っ赤にしていた。
ずっとずっと大好きよ…。
何が…あっても…。
あとがき
なんでこういう形にしようとしたかは、別にネタがつきたからではなく、最後は、二人は、どんな形であれつながっているという意味であらわしたかったからなのです。少しでもそれが伝わればいいと思います。ほんとはシルブルも書こうとは思ったんですが、邪魔できませんでした(汗)
まぁこの話は、かなり兄さんが弱い話です。姉さんが愛しちゃってる話です。最初何も思い浮かばなくて、どうしよう、どうしよう。うーだうだーって感じで結構悩んだ話ではあります。でも、9のグリブルでのネタから、こうしようかなぁみたいな感じで話は進みました。でも全体的に話を決めたのは、オーキド博士からチケットを貰って、またオーキド博士にお願いをしちゃおう!とか書いた瞬間からでしたけどね。それまではどんな話にするつもりだったのかなぞですね(笑)
まぁ話もさることながら、さらに悩んだのオーキド博士から貰ったチケットでした。遊園地なんかの娯楽施設の無料招待券か、ケーキ食べ放題とか、なんか簡単に手に入りそうなものを考えていたんですが、書いてるうちに、なんだかすげーもんになってしまいました。なんでそんな高級ホテルのレストランの招待券になってしまったんだろう、18歳のガキがいくなってね。あはは。まぁオーキド博士が貰ってもおかしくないようなものにするにはそれしかなかったっていうか。最初はナナミさんにあげるつもりが忙しくてそれどころじゃないからと兄さんにまわってきたって感じで。でも人がいそうなとことか、そういうかしこまった場所が苦手そうな兄さんには、めんどくさいけど、せっかくのおじいちゃんの好意を無駄にはできないしなぁって感じで、最初の始まり方だったわけで。あの始まり方は好きです。グリブル編を見ればなんでそうなったか分かるからまたおもしろかったりね。はは。まぁとりあえず、姉さんの愛が分かればいいかなぁって感じで。姉さんは肩書きを愛してるんじゃなくて、グリーンを愛してるのよぉってことで。兄さんが嫌な人にならないよう、気をつけるのが大変でした。ただの弱い人だけでとどまってくれてよかった。
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