10 好きだよ、何があっても 「さすがオーキド博士のお孫さんだ!」 やめろ… 「最年少ジムリーダー?あぁ、あのオーキド博士の孫だろ?」 やめろよ… 「ポケモンリーグ2位の成績ですって。おじいさんは優勝者だったって話よ?」 やめろって言ってるだろっ!!! 俺は…俺は…オーキド博士の孫っていう…名前じゃない…。 「グリーン!お弁当作ってきたよ!」 いきなりだった。 「…グリーン?」 あぁそういえば、おじいちゃんからあれ貰ったんだ。 「はい、グリーン」 「えぇええええええええええ!?」 何かが、崩れる音がした…。 こいつもか? 「…わーい楽しみ!いつ行く?ねぇいつ行く?」 そんな笑顔で俺を見るなよ…。 おまえも、あいつらと一緒なのかよ…。 「…グリーン?」 「……グリーン?どうしたの?あたし、何か変なこと言った?」 「…グリーン?」 そっと触れられた手が、少し震えてる気がした。 結局、おまえもあいつらと一緒なのか? なんでだ…なんでなんだ…。 おまえも…ほんとにあいつらと一緒なのか? 「おまえ、俺のどこが好きなんだよ…」 情けない、醜態を曝してる。 「…え?」 見るなよ… 「おまえも結局は、そういう風に俺を見るのか?」 「……え?」 おまえが好きだって言った俺は、どんな俺なんだよ…。 俺のもんじゃねーよ。 全部、全部俺のもんじゃない。 「………グリーンっ」 ぬくもりが…心を乱す。 「あたしが欲しいのはグリーンよ?」 手を力強く握られる。 「グリーン自身が欲しいの。今ここにいる、他の誰でもない、あなたが…」 声が、俺を乱す…。 「…」 おまえだって、一緒なんだろ? そう、心じゃ否定を繰り返した。 でも、俺は彼女の目から、視線がそらせなかった。 「…お金なんかいらない。名声なんかいらない。地位なんかいらない…。おじいちゃんなんて関係ないっ。グリーンはグリーンでしょ?今ここで、あたしを、あなたの目に写してくれているのは、あなたでしょ?あたしはそれ以外、あなた以外…何もいらないよ…」 優しい表情。 心が…揺らぐ…。 「…っ」 「好きだよ。何があっても…。ずっと、ずっと、あなただけを、グリーンだけを、グリーンを……愛してるの…」 一言一言が、耳に、心に、染み渡っていく…。 そらすことなく、見つめられたその青い瞳。 全て、全てに不安が取り除かれていく気がした…。 「…ごめんね…無神経なこと言ってごめん…。でも…でも…大好きだから…」 「……ごめん…」 申し訳ないと思った。 「…ありがとう…」 ごめん… 弱くてごめん…。 でも、好きだと思った。 もう、本当に何があっても、俺はこいつが好きだ。 「…っ」 2005年10月11日 Fin
ブルグリ編のあとがきでだいぶ語ってしまったのであまり語ることはないですが。まぁなんていうか、ほんと兄さんがただ弱いだけで嫌な人じゃないってことを表現できれば満足です。あまりいろいろ言うとただの八つ当たりしたいやな人になっちゃうので。弱いけど、強くあろうとするプライドの高さがいろいろ邪魔をしてたり、でも負けるときもあって。っていうか、姉さんにさえも、愛していた人にさえもそう思われていたのかっていうショックをこう表せればいいかなぁって思って。そういうのに敏感だっただけなんだよってことで。そんな中で、本当に弱ったときでこそ、支えられると、やっぱり、自分には彼女が必要だなぁって思えると嬉しいと思います。っていうか、きっと兄さんはこの後姉さんや仲間以外の女はみんな自分の肩書きや金目当てだとか思う卑屈になりそうな気がする。でもそうじゃないよぉ!って頑張って姉さんが心を開かせてあげるといいなぁって思います。へたをすると、兄さんが一番心閉じてる人なんじゃないかなぁって思うんですよね。お互いがお互いを求めて、世界に順応できる、個人になっていけるよう。お互いを高めあってる存在だといいなぁと思います。半分と半分で、二人一緒になってはじめて1個になれる。みたいな関係だと、私はいいなと思うんですよ。未熟と未熟を足すと完熟になれたりとか。無理ですけど、それに近い状態には、一人よりは二人のほうがなれるような気がするんですよね。そんな希望であり、力であり、未来である。そんな二人であることを願って。 ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
「っ!?」
いきなりジムに入ってきたかと思えば、そんなことを言い出して…。
「……おまえはあいかわらずだな…」
こいつといると、自分の悩んでることを一瞬忘れる…。
「何よそれ…」
「なんでもないさ…」
はぁとため息をつく。
「わけわかんないし〜。あ、給湯室借りるね〜」
そう言って、彼女はぱたぱたと、給湯室へと向かった。
どうすっかな。
めんどくさいなぁ。
でも貰って無駄にするのもなぁ…。
でもめんどくさい…
いつのまにか戻ってきた彼女が、俺にコーヒーを差し出している。
「…もらったんだが、行くのか、ほんとに」
俺はそれを受け取らずに、自己完結した言葉を、彼女に投げかけた。
「………なんなの、その、さもあたしが無理矢理誘って、前日になってやっぱりやめないか、みたいな言葉は」
「いや、べつにそういうわけじゃないが」
そんなつもりで言ったわけじゃないのだが、あまりのめんどくささに、ため息が出た。
「…そんなに嫌ならまず誘わないことをお勧めするわ」
思いっきり嫌味のようにコーヒーカップを乱暴に置かれ、ため息をつかれる。
「…いやしかし、おじいちゃんが二人で行ってこいとせがむから…」
これを無駄にするのももったいないかと思って、とりあえず話を出すだけ。
「だったら素直に一緒に行かないかって誘えばいいでしょ!?そこまであたしと出かけるのは嫌か?!」
めんどくさいんだからしょうがないだろう、という言葉は、逆鱗に触れそうなので飲み込んだ。
それに、
「いや、おまえと出かけることというか、人の多い場所に行くのに気が乗らないだけだ…」
なわけだから…。
考えただけでも再度ため息が出た。
「…人が多いって、いったい何を貰ったの?」
あぁ、そういえば、根本的な話をしていなかったな。
「…これなんだが」
そう言って、貰った紙切れを、彼女に渡した…。
「な、なんだ?!」
椅子を吹っ飛ばす勢いで立ち上がった彼女に、俺は驚きを隠せず、身を引いた。
「うわっ!すっごい!えぇ!?どうやって手に入れたのこれ!!」
ちょっ、ちょっと待て、そんな顔を近づけるな。
「え、あ、知らない。おじいちゃんがなんか貰ったからって」
そんな詳しいことなんか知るか。
いきなり渡されたんだ。
「すっごーい!!これめったに手に入らないプレミアものよ!?懸賞でも1組とかしか当たらないレアなやつよぉ!?すっごーい!さっすが天下のオーキド博士よねぇ。こんなすっごいもの貰えちゃうなんてすっごーい。今度いろいろお願いしちゃお〜うかなぁ〜」
こいつもなのか?
「……」
嬉しそうな笑顔で、俺の膝の上に乗る彼女。
そんな嬉しそうに俺を見るなよ…。
不思議そうに、彼女が俺の顔をのぞく。
俺は、彼女の表情を見たくなくて、視線をそらした。
心配そうに、俺に声をかけてくる。
声が、泣きそうな気がした。
どうせ俺を、おじいちゃんの孫としてしか見てないのか?
擦れそうな声が出る。
何をしているんだ…俺は…。
彼女は不思議そうに、俺の顔を見上げてくる。
俺をおじいちゃんの孫としてなんか見るなよっ
やめろ…っ…これ以上、醜態を曝すなっ
「俺と一緒にいたってなんもねーぞ?金があるのは俺じゃなくて俺のおじいちゃんだ!地位だって名声だって、俺のじゃなくておじいちゃんのものだ!!俺のじゃねーよ!!おまえも俺のおじいちゃんっていう、フィルターかけて俺を見るのかよ!!」
金持ちの俺か?
地位のある俺か?
名声のある俺か?
全部おじいちゃんのもんだ…。
俺のじゃねーよっ!!
「っ!?」
優しく抱きしめられる。
彼女の深い青い目に、吸い込まれる。
何を言ってるんだよ?
こいつは今、何を言ってるんだよ…。
あいつらと、一緒の考えしてんだろ?
優しい声。
優しいぬくもり。
まぶたに触れるだけの優しいキスが、俺の黒い池に、白い絵の具を落としていく。
優しく触れる、その小さな手。
つむがれる、安心できるその言葉。
いくら自分が、不安定な状態だったからって、八つ当たりした。
汚い部分を曝け出して、そのはけ口にした。
最悪だ…。
謝って許されるかわからないけど、でも、それでもこれだけは言わせて欲しい。
ぎゅっと、力強く彼女を抱きしめる。
…ごめんな…。
おまえの気持ちを疑ってごめん。
ちゃんと応えてやれなくてごめん…。
本当に、好きだと思った。
本当に…必要だと思ったんだ…。
そう思った…。
力強く抱きしめたまま、肩に顔をうずめた…。
あとがき
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