愛の麻薬
 

 

愛の麻薬

 

「グリーンって、あたしが求めるのをやめたら、そのままいなくなっちゃいそう」

彼の遠い後姿に、切なげに送った言葉。

「は?」
彼の後姿は、振り向いたことで、その形を変えた。

「…あたしが好きだって言って、あたしが抱きついて、あたしがあなたを求める」
座っていたソファーから、けだるげに立ち上がり、一歩、彼に近づく。
「…ブルー?」
あたしの状態の変化に、彼は少し、心配気にあたしを見た。
「…あたしが好きなの。あたしが欲しいの。あたしがあなたを、求めるの」
一歩進んで、また一歩、歩を進める。
「ブルー」
疑問じゃない、彼の名前を呼ぶ声。
「…でも、求めなくなったら、あなたはそれに、応える必要性もなくなる」
手を伸ばせば届きそうな距離なのに、まるでそこに、見えない壁があるように、それ以上進めなくなった。
「…」
そして、彼は、何も言わなくなった。
「そうしたら、あなたとはもう、一緒にいられなくなる」

あたしは、ずっとあなたを求め続けて、あなたの全てが欲しくて、あなたにどんどん溺れていった…。
そんな中で、あなたはあたしが欲しがるものに応え、返し、あたしを包み込む。
あたしが求め続けるから、応えてくれるその優しさ。
あたしはその優しさに甘え、どんどん溺れ、どんどん堕ちていく。

「…それは、おまえから俺を突き放すってことか?」
彼は、少し寂しげにあたしを見上げた。
「っ違う!!…違う…」

ありえない…。
そんなこと……。

「じゃあ、一緒にいられるだろう」
見えない壁を突き破り、彼の手があたしの手を捕らえる。
「っ」
あたしはそのまま引っ張られるように、彼の腕の中へと堕ちていった。
「…違うか?」
彼はぎゅっと、あたしを抱きしめる。
「…違うわ。あなたがあたしから離れていくの」
思わず泣いてしまいそうで、彼を泣きそうな目で見上げた。

彼の頬に触れれば、自分の手が冷たいのだと、感じられる…。

「…離れてない」
彼は冷たさのせいか、少ししかめっ面をした。
「あたしは全部が欲しいの。あなたの全て。そして、あなたに同じように、あたしを欲してほしい。望んだことに、応えてくれるんじゃなくて、あなたにあたしを、欲して欲しいの。あなたの望みを聞きたい。あなたに、独占されたい…」

ただ、あなただけを見ていたい。
それを、あなたに望まれたい。
あたしが欲しいんじゃなくて、あなたに欲しがられたい。
愛されたい…。

「…欲しいとは思ってるよ」
「思ってるだけじゃ嫌なのっ」

わがままになっていく。

恋は麻薬なの。
あたしにとってのあなたは、廃人になれるほどの強さを持った麻薬。
ひとつ手に入れれば、倍欲しくなる。
ひとつじゃ足らなくて、もっと、もっと欲しくなる。

だけど、あたしだけが、欲しいままなのは嫌なんだ。
同じように愛して、同じように、堕ちて欲しい。

「…ブルー」
彼の困った顔が、脳裏に焼きつく。

分かってる…。
分かってるの…。

あたしの狂気的すぎる、愛の重さは…。
だから、

「…あたしが求めることをやめたら、きっとあなたは、あたしの前からいなくなる…」

そんな気がするの。

好きでいてくれる以上、そうならないだろうとは、期待はするけれど。
でも、あなたに会ったり、抱きしめてくれたり、キスをくれたり、言葉をくれたり。
その頻度は、きっと、大幅に減るだろう。

「そんなことはない」
彼は真剣な目で、あたしを見下ろした。

分かってるけど、でも、あたしは、もっと、もっとあなたが欲しいの。
今以上の愛を、受け取りたい。

「…あなたに求められなきゃ、あたしはそばにいられなくなる」
「求めてるって」
「求められてるように感じないの。感じられないの…」

もう足りない。
与えられる麻薬が、足りない。

「……っ」
彼はまた、困ったように表情をゆがめた。
これ以上、どうしたらいいのか、彼自身も分からないのだろう…。

分かってるの。
無理難題を押し付けてること。

でも

「…ずっと、ずっと一緒にいたいの…」
「…いるよ」
彼はぎゅっと、あたしを力強く抱きしめる。
求めたこと、返すように…。

足りない…。

「…ずっと居るために、あたしだけが欲しがるんじゃなくて、あなたに欲しがられたい。あなたが欲してるから、一緒にいるんだって、思いたいの」
ずっと一緒にいるための、保険のように。
証拠のように。
「…っ…好きだけじゃ、駄目なのか?」
言葉が思いつかない彼。

言葉足らずで、口下手な彼。
知っている。
知ってて好きになって、知ってて付き合ってもらった。

それでも好きで、どうしようもなく好きで、手放せない、離れられない。

でも、足りないの…。

「…永遠なんか信じないくせに、求められることで、この先のあなたと一緒にいれる人生の保険にしようとしてる…」
永遠なんて、ありはしないと、あたしが一番、分かってるのに。
一緒にいたい想いのあまり、一緒にいる確証が持てないことが、不安になっていく。

愛の足りなさに、苦しさにもがく。

「…」
「…ごめんなさい…。きっと、あたしが求めなくなったほうが、あなたは幸せで、気ままに、自由に、自分の好きなように、生きていけるんだと思う」
でも、あたしは離れられない。
好きでいることも、やめられない。
やめてあげられない…。
「…そんなこと」
彼は苦しげに、表情をゆがめる。
「…あなたのために、あなたから離れて、この関係を長く維持して、いつか嫌われるのを待つよりも、あたしは、あなたを好きだと言い続けて、あなたに嫌われるほうを選びたい」
そっと、彼にキスをする。
「嫌わないよ」
彼は真剣に、あたしを見つめた。
「…うん」
信じないくせに、そう答えてキスを繰り返す。

何度も、何度もあなたを求めるようにキスをして、舌を絡ませる。

「…っはぁ…好き…グリーンが好き…」
苦しさに唇を離して、愛の言葉を送る。
「…好きだ」
彼も、言葉とキスを返してくれた。

あたしが求めて、あなたが応える。
このサイクルが、永遠に、彼から求められることがないことを、証明している。

それでも、辞められない、止められない。
あなたを好きでいること。
あなたをあたしが、求めることを。

「……っ」
「っつ!?」
首筋の痛みが、あたしの思考回路を止める。
「…おまえのその考え自体が違うんだよ」
「…え?」
くっきり残された首筋の痕。
今は見えないけれど、熱さと、密やかな痛みが、そう感じさせる。
「おまえが求めてるんじゃない。俺がおまえに、求めさせてんだ」
「っ!?」
あたしがするよりも、ずっと力強くて、荒々しいキス。
抱きしめられた腕の力が、いつもより痛い。
「…っはぁ…っグ…リーンっ」
息苦しさに逃げたくても、後頭部を抑えられて、逃げ出せない。
「…っ」
「…んっ……はぁ…っ」
体の力を、吸われていくようで、膝の力が抜けていく。
力強く抱きしめられてなきゃ、絶対その場に崩れ落ちていた。
「…分かるか?俺が欲しいんだよ」
俺を欲しがる、おまえを。そう、耳元で囁かれる。
「…っ」
ぞくりと体が震える声。
体中の熱が、高まっていく。

あぁ、そうか。
あたしがあなたを求めるのは、あなた自身が、麻薬だからなのね…。
あなたに堕ちて、あなたに溺れていくのは、そういうことか…。

「…好きだ…」
その後の記憶は、溺れすぎて、あまり覚えていない…。

溺れていく。
堕ちていく。
あたしの愛の麻薬に…。

 

2007年11月10日 Fin


あとがき

エロい!!!(笑)あたしにしては珍しい感じのエロさをかもし出してくれましたねぇ(笑)ほんとエロいなぁ。っていうか、ほんと珍しく長いしエロい。なんでしょうね…。まぁこれは、なりメでいろいろ悩んだ結果、ひとつの結果として導き出した話しが、うまい具合に小説内容になったので、そのまま使用したという代物です。でも私的少し気に入ってます。姉さんの完全なる狂気的愛を表現できた気がして、少しすっきりした気分です。そんな狂気的な愛すらも、兄さんはしっかりと受け止めて受け入れていく。その姿勢がすごくいいなぁと思うのです(笑)うちの姉さんはこんな人。うちの兄さんはきっと、このくらい愛してくれるようになったと信じたい。がんばってぇえ!!
昔これに似たタイトルのドリームを書きました。「恋はわがまま」ってやつだ。内容もそれにかぶりますが、堕ち方が半端ないです、こっちのが。姉さんはどこまでも、どこまでも兄さんに堕ちていく。頑張れ兄さん!!!(おーい!)

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