片恋。
努力するだけでは駄目だと知ったのはいつだっただろうか? 努力しても、叶わないことはあるのだと気づいた。 何かを成そうと思えば、誰かを蹴落とさなければならない。 それが当然だと思っていた。それは今も変わらない。 だが、 裏から相手を崩すことと 正面から戦い、勝ち得ることとは まったく違うのだということに気づいた。
あいつのおかげで、気づけた。
あいつの言葉一つ一つが俺の心に染み入り、俺を変えていった。
たとえどれほど情けなくても。 たとえどれほどみっともなくても。 たとえどれほど祈りが届かなくても。 努力し続け、あがき続け、戦い続けなければならない。 そういった世界に俺はいる。
俺は本当の自分がどれだけ格好悪いかを知っている。 渋沢のようなエリートじゃないし、藤代のような天才でもない。 水野のような技術を持ってるわけじゃないし、風祭のような人目を気にせずボールを追いかけるひたむきさを持ってるわけじゃない ただの凡人だった。 だから、少しでもあいつらのいる高みに近づきたくて、格好つけたし、自分を装いもした。
そんな俺の強がりを見抜いたあいつ。 格好悪い本当の俺を知って、それでもなお、「格好いい」と、「それでいい」と言ってくれた。 あいつの言葉が俺の見栄やプライドを綺麗に氷解させ、後に残ったのは恥ずかしいほどの「サッカーが好きだ」という一途な思い。 本当の自分を知っていて、そしてそれを肯定してくれる存在がいるという心強さ。 たったそれだけのことがかつてないほど、俺を強くしていた。 もう一度最初からやり直せると思った。 水野に負けたのなら、勝つまで戦い続ければいい。 藤代に前を歩かれているのなら、全てを投げ打ってでも先を走ればいい。
そう素直に思えた。
「・・・・・・・っ上」
「三上っ」
誰かに呼ばれて顔を上げると、そこにはがいた。
「なに寝てるの? もうとっくにHR終わってるよ? 渋沢が何度も呼んでたけど、起きないから部活に先行くって言ってたわよ」 今日はずーっとぼんやりしてるのね。
苦笑交じりの声でそう告げる。
俺がこいつに弱さを曝け出してから、一週間以上が経った。 その間、こいつの態度は常にいつもと一緒だった。 なんら変わることのない、俺たちの関係。 それは安堵すると同時に、かなり不満な関係だった。
こいつは誰にでも優しい。 どんな奴にでも同じように微笑みかけるし、手を差し伸べる。 あの時、俺に進むべき道を教えてくれたのは、俺のことが好きだからじゃない。 俺が傷付き、助けを必要としていたから。 決して俺への好意ではないのだと、事ある度に思い知らされる。
片思いというものはとても辛いものだということが初めて分かった。 の全てを俺のものにしたくて。 が誰かに笑いかける度に、どこかに閉じ込めたくなって。 には俺だけを見ていて欲しかった。 の言葉に癒されるのは俺だけがよかった。
「―。ちょっといいか?」
そんなことを思っている矢先にクラスの男がを呼んだ。 はうなずいて、俺の前から何のためらいも見せずに去ろうとした。 そんなの態度に俺はひどく傷つき、咄嗟にの腕を掴んでいた。
「っ」
俺の声は悲鳴に近かったかもしれない。
「お前が好きだ」
「俺以外の男に笑いかけないでくれ」
出てきた言葉はみっともない、情けないものだった。 まだほとんどの生徒が残っていた教室は一瞬にして静まり返り、俺とに注目していた。
は俺の突然の言葉に驚き、目を見開いて立ち竦んでいた。
「私は・・・・「いいっ。何も言うなっ!!」
永遠とも思える時間の後、は口を開いた。 だが俺は拒絶の言葉など聞きたくなくて、むりやり遮った。
そして俺は部活を口実にその場から逃げ出した。
恥ずかしい、みっともないと思い、いたたまれなかったが、それでも俺の心は軽くなっていた。
そして初めて、俺や渋沢に告白してくる女たちを強いと思った。 今までうざがっていた奴らが俺よりはるかに強いことを知った。 拒絶される恐ろしさ、変わってしまうかもしれない関係、己を曝け出す恥ずかしさ。 それら全てを乗り越え、あいつらは俺らに想いを伝えていた。 そんな奴らをうざいと思っていた俺は何を思い上がっていたのだろう。 告白の返事ひとつ聞くことが出来ず、その場を逃げ出した俺が。 彼女たちをバカに出来るはずが無かったのに・・・。
明日から変わってしまうかもしれない俺らの関係。 あいつが俺のことを想ってないのは分かってる。 だがあいつが教えてくれた。 最後まで諦めるなと。 願いが叶うまで努力し続けろと。 あいつが俺に惚れていないなら、惚れさせるまでだ。
覚悟しとけよ、。
脱へタレ計画失敗。 これもまたドリームになってないよなぁ。 これもまたすみません。の一言に尽きます。 よく考えればオチがないですね。 みかみんファンさんごめんなさい(平伏)
霽月蓮 離流 拝
俊宇 光 |