風の中の勇者〜想いの重さ〜
好きって思うことは簡単だと思う。
何も望みさえしなければ。
けれど好きになればなるほど同じだけ想いを返して欲しくて。
その人の全てを独占したくて。
私のことどう想ってるの?
少しは好きでいてくれてるの?
決して聴けない言葉。
だってその答えを聴きたくないから。
「じゃあ。また明日」
そう言って別れると絶対に振り向かない人。
いつもいつも私だけが名残惜しげに彼の背中を見送らなくちゃいけない。
なんだかこの様子が私たちの気持ちの差みたいでけっこう辛い・・・。
「嘘でももう少し一緒にいたいって言えないの?ティト」
もういない彼の背中につぶやいてみる。
「で?あんたは私にのろけたいわけ?」
次の日、私はエルナに話を聞いてもらっていた。
エルナはすっごく優しくて私の自慢の友達なの。
「違うって。本当はティトは私のことなんて何も想ってないんじゃないかなって。会いたいって言うのはいつも私だし。別れたくないって想うのも私だけみたいだし・・・。私だけが好きなんじゃないかって、思っちゃって」
うつむきながら続ける私にエルナの盛大なため息が落ちてきた。
「それ本気で言ってるの?私に言わせればあれだけ特別扱いされて何が不満なの?って感じなんだけど・・・」
特別扱い?
どこが?どうしてそういう風に見えるの?
私の言葉にならない言葉がエルナに伝わったらしい。
「ティトってさあ、あんまり表情が変わらないじゃない?でもねそれがフィーリーといるとすっごく優しい顔になるのよ」
そうなの?
それならすっごく嬉しいんだけど・・・。
私には変わらないと思うけど。
そしてエルナは意地悪な顔になった。
「フィーリーはさぁ、近すぎて分からないのかもね。一度離れてみたら?」
もうっ。そんなことできるわけないって知ってるくせに。
その日の帰り道いつものようにティトは私と別れようとした。
「じゃあ。また明日」
私はそのそっけない様子についつい言ってしまった。
「ティトは私のことをどう想ってるの?少しは好きでいてくれてるの?本当は私のことなんてなんとも想ってくれてないんじゃない?」
何言ってるの、私。違う。こんなことが言いたいんじゃなくて。
何か言わなくちゃ。ティトが困ってる。
「ティト。ゴメン。本当なんでもないの。気にしないで」
じゃーね。そう言って私は走ってその場を離れた。
少しでも早くティトの前からいなくなりたかった。
あんなことを言いたかったわけじゃないのに・・・。
ううん。ちがう。本当はずっと言いたかったの。
でも恐くて聞けなかった。
私はその夜涙が溢れて止まらなかった。
次の日、私はヒドイ顔をしていた。
目は泣き腫らし、隈ができていた。
こんな顔誰にも見せれないなぁ。
ぼうっと歩いていたら突然腕をつかまれ、引っ張られた。
「どうしたの?ティト」
ティトは何も話さず黙って歩いていた。私の腕を離さずに。
どこ行くの?この先は何もなくて野原が広がってるだけなのに。
ひとつだけある伝説があるけど・・・・ティトが知ってるはずがないからこんなところに何の用があるの・・・。
歩き始めたのと同じようにティトは突然立ち止まった。
慣性の法則で私は彼にぶつかった。
「昨日どうして突然お前があんなこと言ったのか分からなかった。お前には伝わってると思ってた。お前が優しいから俺はそれに甘えてたんだ」
ティトは私と目線を外したまま続けた。
「お前が好きだよ、フィーリー。お前が想ってくれるのと同じだけ。いや、それ以上に。お前の想いの重さと俺の想いに違いはない」
うそ・・・・。
「聞いたんだ。ここでキスをした恋人はずっと一緒にいれるって。だからフィーリーと来たかったんだ」
涙でグチャグチャの顔を見られるのが嫌でうつむいた私をティトは覗き込んだ。
「みないで。こんな顔。すっごく汚い」
「フィーリーはどんな顔しててもかわいいよ」
そう言って、ティトは私の顔を上に向けた。
私の目を見つめて優しく微笑んでくれた。
私の唇に彼のそれが優しく触れた!
私は恥ずかしくて、嬉しくて、幸せだった。
そうだね。私たちの想いに違いはないんだ。
もう大丈夫。もう迷わないから。
今日の日のことは一生忘れない。
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