英士ドリーム「距離」
 

 

距離

 

いつも一緒にいたいと思うけど、君は…いつも先にいっちゃうんだね。

一日の授業が終る頃、そんなダークな考えを持つのは、
彼女には自分とはぜんぜん違う最上級レベル?の幼馴染が居る。
幼馴染の名前は郭英士。

名前を出せばサッカー関係の者なら大体知っているU−14で、学校内でも格好よいと評判だ。
小さい頃はよく一緒に遊んだけど、サッカーを始めてからは休みの日もサッカーサッカー。
サッカーに嫉妬するくらいに英士はサッカーまみれ。

そんな姿も、は好きだけど。

 

…つまり、は英士の事が好き。
彼の何が好きなのか?そう聞かれれば、すべて。と答えるだろう。

サッカーが好きな人と一緒にやっている時は、幼馴染のでもなかなか見れないくらい笑顔。
だからこそまたサッカーに嫉妬…。

こういう風に凄い人だから、英士に追いつこうといくらが頑張っても、
彼はの前をスタスタと歩いて、今では遠い…。

しかも英士の生活は、サッカー・キムチ・睡眠。
みたいな状態だから、多分眼中や思考の中に、女の子はいない。
おそらく、幼馴染と言う称号を持つ私さえも視界の外だと思う。

好きだとか、思ったりするんだろうか?
そんな思いで英士を見つめる。

さっきも言ったけど、は英士が好き。
だからちゃんと英士が好きだと言える。もちろん、likeではなくloveの方で。
だけど、英士との距離をこれ以上ひろげたくないは、
好きだと言うことが出来ず、するどい英士にばれない様に平然と過ごすしかないのだが、
そんなに最近ある男の子が付きまとっている(と言っちゃあ付きまとっている)。

―英士は気づいてないんだろうな〜。結構迷惑なんだよね。あの人。そろそろ好きな人がいるって言わなきゃ…―

と帰りのSHRを過ぎてしばらくたってから考え、一人で帰途に着こうすると…

 

ガシッ
急に腕をつかまれ、振り返ると、そこには例の男の子が…
「え」
さん。」
「…ごめんなさい。私、忙しいから。」

「どうしてさんはいつも俺の事を避けるわけ?」
「ずっといおうと思っていたけど、私、好きな人が居るの。
 それはあなたじゃないから、もうやめてください。それじゃあ。」

しかしにアタックを続ける人はの腕を握り締めたまま。

 

「ちょっと」
嫌がっているんだから、離してくれてもいいじゃない。
「誰?」
その声に多少の恐怖を感じる。
「誰でもいいじゃない!や!」
―郭英士!―

ぐいっ
「ゎっ」
力強いが、に負担をかけないように、後ろから伸びてきた手はをその男の子から開放する。
「俺のになにしてるわけ?」
その声があの人だって信じられなくて…でも見上げると、そこには本当にあの人が…郭英士がいた。
「か、郭…お、おまえのってどういうことだよ。」
って呼ぶな。言ったとおりだよ。は俺の。わかった?ならもう二度と手を出さないの。」
彼がそう言うと、男の子は去っていった。

―俺の?(・_・)―
―もしかして英士も?(^-^)―
―ううん。ありえないや。(―.―)―

「何百面相してるの?」

うぇ?

「あ、なんでもない。ありがとう。助けてくれて。」
「別にいいけど、なんであんなのに引っかかるわけ?」
見てすぐ機嫌が悪い事に気づき、はさっさと謝る事にする(に非はないけれど。)
「ご、ごめんなさい。今日、練習は?」
「ない。」
「珍しいねぇ。でも若菜くんとか真田くんとかと練習するんでしょ?」
「するつもりだったけどやめる。」

 

やめる?英士が?

 

がちょっと混乱している間に英士は電話をかける。
「もしもし?…あー。今日いけなくなったから。…あー。悪い…じゃな。」
ブチ

切り方がどことなく乱暴である。
「ど、どうしたの?」
「別に。」
「…別にって言われたって…そんなこと信じらんないよ。郭くん」
ジロ!
少々冷たい視線が向けられる。

「?」
「…」
「あ゛」

しまった…
なんでよりによって機嫌の悪いときに……

「ご、ごめんなさい…」
「…で?」
「ご…ごめんなさい……え、、、え・・・いし。」

 

きゃ〜久しぶりだから緊張する。名前呼び。

 

「…」
とりあえず昔からの約束の名前呼びにあらためただったが、
英士は機嫌が悪いまま。

昔、英士は、が「郭くん」と呼び始めた事にひどく腹をたてて、
英士と呼ぶことを約束させた。
ちなみにこれが昔からの約束。

「どうしたの?」
「…」

は気づいた。その原因は私だと。
私が居なくなれば…いいんだ。

「ごめんなさぃ。」

そう言って立ち去ろうとしたが、

がしっ。

という効果音のおかげで去ることは出来なかった。
まぁ効果音だけではなくて、の手を英士が掴んでいるからなんだけど。

「なんでが謝るの?」
「…だって、え・英士、私といると怒るんだもの。」

私といるから・・でしょう?

が…悪いわけじゃないよ。」
「え」
「俺がイラついてるのは」

英士は一度目を閉じて、そしてあける。
「…。」
英士にまっすぐ見詰められる
極限の緊張状態の中で聴いた言葉。

「俺に対してだよ。」
「え?!」

英士はそう言って、再び目をとじる。

「サッカーは大好きだよ。
 俺はサッカーが好きだって、言える。
 だけど、サッカーに夢中になっていたら、
 知らないうちに変な虫がついていた。」

―私?―

「ごめん。」
今度は英士があやまってくれた。

 

…やだなぁ。

は涙を流す。

「え??」
「ごめ…」
「え?俺何かひどいこと言った?」

私のことは結構するどいのに、自分の事となると…にぶいんだから。

「ギャク。」
「え?」
「逆だよ。だって・・えぃし、サッカーばっかじゃなくて
 私のこと、気遣ってくれて…ありがとう。英士。」
「…っ別に。」
「あ〜照れてる〜。」
!」
「あはっ。とりあえず、帰ろうか?ってか練習…本当にいいの?」
「いいよ。じゃ、帰ろうか。」
「うんっ。」

とても久しぶりに隣を歩く。
そして気づく事実。
「あれ?英士…背伸びた?」
「そう?が小さくなったんじゃないの?」
「私だって伸びてるよ?0.5cmくらい。」
「…」
「それは伸びたって言わないんじゃないの?って顔しないの。」
「(笑)ごめん。」

 

久しぶりに隣を歩けた事に幸せを感じるけれど…隣、なんかじゃない。

近いのに、、遠いよ。英士。

 

最近二人で帰ってなかったせいか、話題は尽きない。
話しているうちに、家についてしまった。
「久しぶりに話せてよかった。じゃあまたね。」
そう挨拶。
次に歩けるのはいつだろう?
「…あ。」
呼び止められて振り向く。
「うん?」
「…なんでもない。じゃあね。」
そう言って英士は自分の家のほうに体の向きをかえた。
「うん。」

そしてはドアに手をかけて、ひいた。

ガチャ?
「あれ?」

ふいに声を出してしまう。
「どうしたの?」
「わっ!」
振り向くとそこにはやっぱり、さっきまで居た顔。

「びっくりした〜。帰ったのかと思ってたから。」
「どうでもいいから、どうしたの?」
「あ。うん。扉が開かない。」
「は?」

「ん〜〜。」
は唖然とした顔の英士を無視して、思い当たるふしを思い浮かべる。

「あ!」

「え?」
「そうだ!今日お母さんいつもよりちょっと遅くなるって言ってたんだ。
 うん。そういえば鍵を持って行けといわれた気がする。」
「・・・。で、鍵は?」
「な〜に言ってるのよ。中にあるに決まっているじゃない。」
「…」
英士の顔は、そんな当たりまえのことみたいに言わないの。という顔をしていた。

「で、どうするの?」
「どうしよぅ・・・」

やばい。本当にどうしよう。。
そう思っていたとき・・・
「ウチにくる?」

「え」
突然の英士からの誘いにびっくり。
「だから、ウチにくるかって言ってるの。
 ポストの中に手紙でも入れて、帰ってきたら迎えに来てくれ。とでも書いておけばよいでしょ?」
「あ。そっか。じゃ〜おっじゃましま〜〜す。」

 

 

 

てなわけで英士の部屋。
最初はただ単にぼ〜っとしてたけど、
だんだんと・・・
ねむく・・

 

!」
「うぇ?」
「人の部屋で寝ないの!」
「だって…眠い…」
「寝ないの!ほら!起きる!」
「…やだ。」
!」

英士はなんとかして、とめようとしている。
勝てるわけないよ。私の睡魔に。

 

 

「…起きないとキスするよ。」
「うぇ?」
「だ〜か〜ら〜、起きないとキスするよ。」

そのときのはどうかしていた。
あの“郭英士”にあんな言い方をするなんて・・・

 

 

「やれるのならやってみなさいよ。」

英士は何も言わない。
そしてが眠ろう。。と思ったときだった・・・

「わかった。」
「ふぇ?」

次の瞬間、倒れそうになっていた身体は倒れ、身体の上には軽い重み。
そして肩(腕)をつかまれる。
結構目ぇさめた。

「ちょ!英士?」
「言ったのは、だよ。」
「ちょ、、英士!」

 

ピンポーン
ドアのチャイムの音と同時には唇に感触を覚える。
驚きすぎて目はあいたまま・・。
5〜10秒のキスの後、唇を離した英士はを起こす。

「おばさん。来たみたいだよ。」

そう平然と彼は言った。

何もなかったかのように・・・
受け答え…しないで欲しいのに…。

は立ち上がり、
まだ整理の終っていない頭を抱えて英士の家から出る。

家に帰って自分の部屋で何もしないと、唇に残る感触を意識しすぎてしまってダメだった。

英士?あなたにとって、キスは挨拶ですか?

 

 

 

次の日、行くのが億劫で億劫で、は昼から学校へ行った。

英士と顔をあわせたくない!そう思っているときほど、
会うもの…

だって現にの前には英士がいるし。

 

。せっかく来たのに悪いんだけど、5限目、サボってもらうよ。」
「ぇ。英士?」

 

 

逆らうと怖そうだったので、はおとなしくついていった。

英士がやっととまったのは、誰も居ない裏庭。

ちなみには緊張して顔を上げられずに居る。
そんなに英士は声をかける。

「もうちょっと、言わなくてもいいかなと思っていたんだけど、、
 今、言うよ。」
「え・何を?」
「愛の告白。」

 

「は?てか似合わないし。」
やばい。自分が妙に冷静すぎて、、怖い。。

「うるさいよ。てなことはどうでもいいんだよ。
 。俺はが好きだよ。」

 

 

 

 

 

「はい?」
頭真っ白。ちょっと待って…

「昨日のキスは、挨拶とかじゃなくて、ちゃんとこもってた。」
「何が?」
「俺の愛が。」
「だ、だから似合わない…って違う〜〜〜〜!!」

…」
静かに。
でも力強く、英士はを呼ぶ。
そしては英士を見つめる。
もちろん英士もを見つめている。

「俺は、が好きだよ。
 サッカーも胸張って好きだって言える。
 そしても…。
 のことも、好きだって、胸張っていえるよ。」

 

 

英士の優しい顔が、声が、本当だと言うことを教えてくれた。
そして、、
「…私も…。好き。」

「ありがとう。ところで、。キスしていい?」
「え゛?」
「俺、昨日にキスしてから、に触れたくてしょうがなかったんだ。いいよね?
 断ったらどうなるか知らないよ?」
「断ってもするくせに。」
「まーね。」
そう言って英士は甘い甘いキスを、、にくれた。

 


胡事 把枝様に書いていただきました!
英士さんということで、夕凪さんにプレゼントされまっする。うふふ。まぁしかし英士さんうけるし。なんだか口調が微妙な感じもあったんですが、気づけばたしかに幼馴染み相手だとこういう口調かもと納得できる。っていうか幼馴染みはこれくらいの方がいいのかもね。すごいな〜。さすが胡事さん!!
普通だったら終わらせてしまう内容を随分と長く引き延ばしてこの長さで納められるのが羨ましいです。私じゃ果てしなく長くなりそうだ。
今回もタイトル勝手に決めてしまいましたが、今回は幼馴染みだけど、どんどん離れていく距離に怯えてるってことだったので、距離をテーマに、そして題名にって感じで。すんません。毎回のことながら勝手に決めてしまって。
そういや英士さん、ヒロインにしっかり名前を呼ばせてあるあたり策士っすよね。そこで気づこうよヒロイン。って思いますが。それもヒロインの可愛さって方向で(笑)
本当にどうもありがとうございました。

俊宇 光