君を守るのは、僕でありたい
武蔵森のサッカー部(1軍)の面々は練習試合を終えて駅まで歩いている。 「さみぃ〜。」 「…」 「ジャンパー持ってきて正解だったな。」 「寒いよ〜〜。」 「はぁ〜。ほら見てみて竹巳!息が白いよ〜。」 「沙耶…。(かわいいんだけど、多少)子供っぽいよ。」 「いいじゃん〜。」
その中で一人、心の奥底に不安を抱えている少女がいた。
「今日はあんまり話さないんだな。」 「渋沢くん?!そ、そんなことないって。」
少女の名前は。 彼女は武蔵森サッカー部のマネージャーをやっている。 入るきっかけは友達に誘われたから。 断られなかったのはミーハーな分類ではなかったから。 やめないのは渋沢克朗というキャプテンに、恋をしたから…。
渋沢くんは誰にでも優しくて、 バレンタインデーの時はプレゼントを全員からもらい、 ありがとうと、最高の笑みを浮かべる。 そんな彼だからこそ人気は高くて、 彼の誕生日は夏休み中だけど、 たくさんの女の子がプレゼントを渡しに来る。 渋沢君は、嫌そうな顔をしないから。 困ったような顔を少しするだけだから。
でもは渡すことが出来なかった。 どうしても。
まぁ、それは置いておいて…。
今日は他校との練習試合のため、サッカー部のメンツは遠出をした。 いつもは他校が武蔵森に来るけれど、今日は特別。 明日は武蔵森の文化祭なのだ。 教室の数も多いけれどやっぱり模擬店は外でやる。 格好の場所となるのがグラウンドだ。
本当はサッカー部も部活禁止で文化祭に勢力を注がなければならない。 けれど、それを武蔵森の顧問が許すと思ったら大間違い。 とくに一軍は。 学校側は顧問に頼み込んだが、の予定通り、ありえなかった。 顧問は学校側の“お願い”を了承し、2軍3軍は文化祭で大いに使うように言った。 そして1軍は、密かに他校へと赴いたのだ。
試合相手の学校があるところは田舎で、エスカレーターが駅にはひとつも付いていない。 階段が短いわけでもない。 ゆえにはその学校へ向かうとき、嫌な予感がしていた。 その予感はあとでドンぴしゃりだったけれど、その時は大丈夫だろうと思っていた。
と、言うわけで、なんだかんだと言っている間に、の不安ポイント@の坂につく。
―心配かけちゃ、いけない。― は立ち止まる。 「どうした?」 「ん?後ろの方歩こうかなぁって。 寄り道したり、とまったりするような人がいたら困るからね。」 適当にごまかして、一番後ろを歩く。 「あれ?。おまえ前歩いてたじゃんか。」 「いいじゃん。後ろ歩いたって。」
―この坂…微妙に長いし、微妙に急だし…。今日寒いし〜〜〜。いやだなぁ。― 「、大丈夫?」 「ん。」 多少呼吸が上がってきた私を由岐が心配してくれる。 彼女は少しだけ知っているから…。
「ほっとけ。由岐。」 「うるさいぞ、みかみん。」 「。てめぇ〜〜。」 みかみんは由岐の手を取ってより前を歩く。 その事が、は少しだけ嬉しかった。
そうしているうちにやっと駅に付く。
「長い!長すぎる〜。」 「本当長いよね。この階段。最悪だよ〜〜。」 口々に言うその言葉で、階段を見て私は息を呑む。 行きはたいしたことなかったけども、、 多少息の上がっている私にとっては、、かなりつらい。。
まずい。
「?!」 「だい、じょーぶ。だよ?」 「おまえなぁ、アレくらいの坂と階段5段くらい上ったくらいで息が上がりすぎなんだよ。 いつもお前がこなすマネージャー業より、楽だぞ?!」 「う、っさいなぁ。」 「ちょっと亮!は…」 「由岐!」 話そうとした由岐を私は止める。 そして何事もないように振舞う。 「ほらほら。遅れてるよ。みかみん。」 「うっせぇ。俺はお前とは違ってなぁ。こんな坂楽勝なんだよ!」 そう言って由岐の手を引いてさっさとあがってしまった。
「っ。」
3分の2を上りきったあたりで呼吸音が変わった。
自分でも聞こえる ひゅ〜ひゅ〜という音…。 喘息の…しるし。
―いつもなら、、暖かかったら…何も変わらないのに…。―
上りきると、私は壁にもたれかかる。 呼吸が…うまく、出来ない。
「はん?やっぱり息切れしてんじゃないか。」 「う……‥るさ…い」 「??」 「ひゅ〜」 「おい。?」 「ひゅ〜」 「?おいっ。」
さすがのみかみんも、呼吸音が違うを見て少しあせったらしい。
「?」
この…声は…。 「渋沢くん」 「おい?どうした?」 「なんでもないよ?」 「どこがだよ。」 「渋沢君、ね、喘息なの。」 「由岐!」 「そうなのか?違うって言っても信じないけどな…。」
しばらく何か考えていた渋沢君はみかみんと小声で会話をして、 「ちょっとごめんな。」 「わっ」 は渋沢君に抱き上げられる。 皆はホームへ向かうのに、渋沢くんは違うところに向かう。 そして
すとん
は椅子に座らされた。 「三上に先に皆を連れて帰ってもらった。」 「大丈夫だよ。暖かくなれば、電車乗れば、治るし。ね。乗ろう?」 「暖かくなれば、治るのか。」 「え?」
ふわ…。 ぐい。という音よりかは、あっているその効果音。 気づくとは渋沢君の胸に顔をあてていて、 背中には渋沢君の手のぬくもりを感じた。
彼の心を象徴しているかのように、 彼の体は温かかい。
くるしかった喘息の発作も、止まった。
「もう大丈夫だよ?」 彼の腕の中ではそう言う。 「よかった…。」
・ ・ ・ ・ ・ ・
「あの、渋沢くん?」 「なんだ?」 「もう、大丈夫だよ。」 「知ってる。」 「じゃあ、離して、ほしいな。」 「なんで?」 「え」
―正解:心臓が早くコドウを打ちすぎて、心臓発作になりそうだから。(いえない)―
「あ、そうだ。戻って文化祭、手伝わなきゃ。」 「俺がこうしたいから、こうしてる。」 「自己中〜。…え?」 「…。」 「し、ぶさわ…くん?」 「…。」 「さっきのって、、もしかして…」 ―でも、、ありえないし。…。― 「…………………‥そうだよ。俺はが好きだ。」 「……。」 意味を理解した後、は顔を真っ赤にする。
もちろんその後には、 「本当?」 「本当」 の押し問答があって…
「私も…好きです。」
と、なる。
いっつもいっつも憎んできた喘息が、 恋の架け橋になってくれて、嬉しかった。 つらいけど、、嬉しかった。
数年後
の苗字はから、渋沢になっていた。
そしてはまだ喘息を持っていて‥
「。」 「なに?」 「今日は寒いな。」 「そうだね。」 「(^^)」 ―その嬉しそうな顔は何?― 「きゃっ」
はいつかと同じように抱きあげられ、 「添い寝してやる。」 と、言われた。
俊宇 光 |