最後に待つのは幸せ
そんなことを思っていたのね。
うれしいけど、ちょっとつらくもある。
気づけなくて、ごめんなさい…。
「お疲れ様!」
はいつものように、練習を終えた彼氏の渋沢克朗くんに、タオルを渡す。
「・。ありがとう。」
そういって彼は私にだけ向けられる笑顔を見せてくれた。
だけど少しいつもと違う気がするのは、何でだろう‥?
「どうかした?」
「え?」
目に見えて動揺している。
やっぱり何かおかしい。
「どうしたの?いつもの渋沢君じゃ、ないみたい。」
「…。」
何か考えている。
そして、何か悩んでいる。
助けてあげたい。
大好きな、あなたを。
「私には、いえないこと?言いたくないこと?なら、聞かないけど…。そうじゃなかったら、言ってよ。彼女なんだから。」
は満面の笑みを浮かべて渋沢君にそういった。
「…。ありがとう。じゃあ、今日帰り、いいかな?」
「‥うんっ。もちろん!」
は大好きな人の力になれることを、喜んだ。
帰り道、私たちはいつもとは違う道を通っていた。
いつもより、少し遠回りの道。
なぜって?
だって、渋沢君の悩みを聞くんだよ?
寮に着いちゃったら、意味ないでしょ?
まぁ、それはいいとして、渋沢君は、やっぱりおかしかった。
いつも以上に口数が少ない…。
歩いている間も、すごく悩んでいるように見えた。
『私に話すことで、つらくなるのならば、話してくれなくても…大丈夫だよ?』
がそう言おうとしたときだった。
「、」
「な、なに?」
渋沢君は足を止めて、と向き合う形でたった。
「は………俺のどこがよくて、なんで俺が好きなんだ?」
はい?
「え?」
は唖然とした。
その言葉が出てくるなんて、1ミリも予測できなかったから。
「え?」
冗談かな?とも思ったけど、渋沢くんの目は真剣そのものだった。
「‥。全部だよ。」
「全部って?」
「え?」
渋沢君は、その答えには満足しなかった。
「全部って、、全部だよ。」
はそれしか言うことができない。
本当に、彼のすべてが好きだから。
「どこがいいのか、…なんで好きなのか、教えてほしいんだ。
それとも、いえないのか?
言えないってことは、俺のこと、本当は好きじゃないんじゃないか?」
そうに問いかける渋沢君の目は、すごく悲しそうだった。
も、彼の本意がわかって、下を少し向いたけど、
すぐに渋沢くんの目を見て、問いかける。
「何で好きかって、答えを言わなきゃいけないことなの?」
「…。」
「ごめんなさい。
私のせいだって、さっきやっと気づいたの。
それまで、気づけなかった。ごめんなさい…。」
『ごめんなさい』
「気づいたって、何を?」
「だって、私、付き合い始めてから、渋沢君って呼んでるし、
それに、渋沢君の好きって言う告白に、私なんかでいいの?としか、言ってない…。
一回も、好きって…言ってない…。」
「・…」
渋沢君は、の目に浮かぶ涙を手でぬぐった。
は我慢できなくて、渋沢君に抱きついた。
渋沢君はの背中に手を回してくれた。
「‥。」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
は泣きながら、あやまる。
克朗は、なんでがあやまるのかわからなくて、自分の腕の中で泣いているに聞く。
「な‥んでが、あやまる?」
「だって、私が…不安に…させてしまったんでしょう?」
−不安−
そうだったのかもしれない。
ずっともやもやしていた。
はずっと渋沢君だし、好きと一度も言ってくれない。
俺はに何をしてやれているんだろう?
俺は、に愛される資格があるのか?
…もしかして俺のこと…。
そう俺は思ってしまった。
自分に自信がなくなって、そして、不安…になったんだ。
きっと…。
「‥。」
「好き」
「え」
「好きなの。
あなたのすべてが好きなの。
いつも見せる笑顔も好き。
時々私だけに見せてくれる笑顔も好き。
サッカーしてる時も、キャプテンとして皆をまとめてる時も、料理作ってる時も全部…。
誰よりも好きなの。
誰よりも、愛してるの。」
は涙を流しながら始めて言うであろう言葉を何度も言う。
克朗は始めて聞くであろう言葉に感動していた。
そしてはずいぶん長い間、渋沢君の腕の中で泣いた。
涙がようやく収まったとき、は抱きつきながら、克朗に聞いてくる。
「ねぇ、理由がなきゃ、好きになっちゃいけないって思うの?」
「え…そんなこと、多分無いと思うけど、でも俺…」
まだ少し不安の残る克朗はそう言う。
だけどは嬉しいことを言ってくれた。
「私はそんなこと、ないと思う。だって、好きだから好きになったんだもん。」
はそこまで言うと、渋沢君から少し離れて、涙をふいて笑う。
「ごめん」
「いいよ…私こそ、ごめんなさい。」
いつも私ばかり悩んでるって思ってた。
だから、気づけなかったのかもしれない…。
だから、ごめんなさい。
「本当…ごめん。」
「大丈夫。」
「ごめん…。」
「も〜!いいんだってば!」
何度もあやまられたって、嬉しくない。
好きって何度も言われるのは、嬉しいけどね。
「あ、克朗?」
「え!」
克朗は久しぶりに自分の名を呼んだに唖然とする。
そして克朗は顔が熱くなってきた。
「そんなに嬉しい?」
そんな克朗を見ては笑いながらそう言った。
「…うれしいよ。」
「そっか。でもね、呼ばないの、理由があるんだよ?」
「え?」
そう。理由がある。
私にとっては、とても大切な理由。
「だって、いつもいつも言ってたら、当たり前になっちゃうでしょ?私、もっと大切に克朗の名前、呼びたいの。」
「…。」
がそこまで考えていたとは夢にも思わなかった克朗は赤い顔のままにっこりと笑う。
嬉しくて。幸せで。
余談?:その顔を見て同じように顔を真っ赤にした少女が一人いたらしい。
数年後
今日は海で渋沢君とデートしている最中v
大好きな海に大好きな人とこれて幸せいっぱいのに渋沢君は真剣な目をして、に話しかける。
「?」
「ん?」
「今度からさ、渋沢くんってやめないか?」
数年前、なぜ名前で呼ばないかという理由を話してあるだけに、は疑問いっぱいだった。
だから渋沢君のほうを見て異論を唱えようとする。
「なんで?だって…!」
渋沢君はそんなにキスをして、の言葉を止めた。
そして、唇を話す前に彼はこう言った。
結婚しよう。
はその誘いに最初は戸惑ったけど、最後には渋沢君に抱きついて承諾をする。
そしては気がついた。
そっか。私、結婚するって事は、渋沢君って呼べないんだ。
だって、渋沢 になるんだもんね。
だったら克朗って呼ぶことに賛成v
異論はまったく無いよ☆
克朗。
だからは抱きついたまま、
「克朗」
と、愛しい人の名前を呼びましたとさ。
作成者:胡事把枝
胡事把枝様にまたまた頂きました!!本当に毎回ありがとうございますです。これで3作目。そしてさらにあと2作もいただいてます。1作はお祭りしようなのでこちらのお祭りにあわせて。で、もう一個は渋沢さんの誕生日話なのでそれも29日に載せますです!本当になんだか毎回ありがとうございます。今の私の支えだわ。あああ。
しかしまぁ、渋沢さんの不安というお話でございましたが、あーそんなこともあるのだろうか。ここまで不安を表に出してくれた彼は、相当ヒロインを信じきって好きでいるのだなって気が分かりますね。あああそこまで愛されたい(待て)本当にどうもありがとうございました。またよろしくお願いします(おい)
本当に本当にどうもありがとうございました。
俊宇 光
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