"ピチャっ"
"ピチャっ"
音を奏でてははじけて散る
あたしは、そんなメロディーに耳を澄ませていた
「 ブルー 」
突如、一つの声が静かだった空気を振動させた
低く、心を落ち着かせる
あたしが何よりも好きな声
「グリーン…」
「…雨が降っているというのに、傘もささないで何をしてるんだ」
「ちょっと雨にあたって身を清めようかな…なんて」
「雨なんかで身が清められるか」
ぺろっと舌を出すあたしを、あほっと頭を軽くこずいて自分の傘にいれてくれる
「でも、雨っていいよ、あたっているだけであたしの中の悪いものを洗い流してくれるようで…」
実際はそんなこと有り得ないんだけどね、と笑顔を向ける
「…」
この雨であたしの、黒く、禍々しいものが全て消え去ったのならばどれだけ楽だろう
きっと、これまでのことを全て忘れ去り、何にも囚われずに生きれるだろう
何に悩むことも恐れることもなく、思いのままにあなたと過ごすことができるだろう
…だが、そんなことは有り得ないのだ
あたしの中に禍々しく渦巻く々しいものが全て消え去ったのならばどれだけ楽だろう
きっと、これまでのことを全て忘れ去り、何にも囚われずに生きれるだろう
何に悩むことも恐れることもなく、思いのままにあなたと過ごすことができるだろう
…だが、そんなことは有り得ないのだ
あたしの中に禍々しく渦巻く黒いものは、一生あたしの中であり続ける
自由な生活を望むことなど、もちろんあなたと何の気後れをすることもなく一緒にいることだって叶うことはない
そう、何があっても有り得ない
…運命なのだ
たとえどんなにあなたが優しくしてくれようと、気にしないでいいと言ってくれようと、あたしはあたしの運命を生き続けることしかできない
過去に束縛され、戒められ続けるのだ
「ブルー」
「あっなっ何?」
「大丈夫か?何回も呼んだんだが…」
「あっ、うん…大丈夫」
「ならいいが…」
心配そうに顔をのぞいてくる
「…まだ、ここにいるのか?」
「…ええ、もう少しだけここで雨を見ていたいの」
「そうか…」
グリーンがそう言った後、軟らかく温かいものが肩に被さった
驚いてそれを見ると、そこには大きなタオルのようなものがかけてあった
まともにグリーンを見ていなかったために気付かなかったが、ここに来る時にわざわざ持ってきてくれたのだろうか…
そして傘の柄を手に握らせると、ゆっくりと包み込むように優しく抱き締めた
「…!」
「…俺は仕事があるから帰るが、お前も身体が冷えないうちに戻ってこい」
「…うん」
「それから、身を清めるとか言って、もう雨をかぶったりなんかするなよ?」
「…うん」
少し苦笑い気味で答える
そして、グリーンが溜め息をつきながら耳元で呟くように言った
「…第一お前はそんなことをする必要なんかない。過去がどうあろうと、今のお前が変わらずに純粋に真直ぐ生きていればいい」
(こんなこと、普段はあまり自分からはやってくれないのに…)
そう思いながら、濡れないように走っていくグリーンの姿を見つめていると、自然と笑みがこぼれてくる
ふと、空を見上げた
雨は今もなお音を奏でながら降り続いている
変わったことは、もう頬や腕に滴はかからず
心身ともに心地よい温かさに包まれているということだけ
あたしは肩に被さっているタオルを肌に密着させるようにギュッと掴んだ
確かに、あたしは幸せになれる権利なんてない、だけど、人からこういう思いをさせてもらうことくらいなら許されるのかもしれない…
有り得ないこと、そう分かっているのに、自分の中の暗闇に、微かな優しい光がさしたように感じられた