「怒ってる?」
「怒ってない」
いつも以上に眉間にしわを寄せた彼が、そっけなく答える。
「怒ってるじゃない」
「おまえに怒ってるんじゃない」
何故彼が怒ってるのか…。
それはさっき出会った、知人の言葉のせいだ。
「…ブルー!久しぶり!」
「あ!久しぶり」
ポケモン交換で知り合った彼女は、ときおり連絡をくれる子だった。
そんな子と街中で出くわしたデート中なあたし。
「え?!もしかしてグリーンさん!?」
「え?」
知り合い?とあたしが彼を振り返ると、
「…」
彼は否定の意味をこめて、首を横に振った。
「…オーキド博士のお孫さんで、ポケモンリーグ準優勝の、トキワジムの最年少ジムリーダーのあのグリーンさんですよね!」
彼女が彼に迫る。
「…っ…あ…あぁ」
この時点で、彼の眉間にしわがよっていた。
「…え、嘘、ブルー、知り合いなの!?」
彼女が驚いた表情であたしを見る。
「え?!…し、知り合いって…言うか…」
あたしは恐る恐る彼を見上げた。
このまま、あたし達の関係を言ってしまっていいものか。
「…」
彼は無言で頷く。
これは言っていい合図だ。
「…彼氏…っていうか」
なんだか無駄に照れそうで、あたしは思わず苦笑する。
「ええええええ!?嘘!?まじで!!!やるじゃん!超いい男捕まえてんじゃん!どうやったの!?玉の輿じゃない!いいなぁ、こんな素敵な彼氏。超羨ましい!」
彼女はしきりにあたしを羨望すると、
「いっけない!私用事あったんだ!今度ゆっくり紹介してね!!」
そう言って、彼女は嵐のように去っていった。
それからだ。
グリーンの機嫌が悪くなったのは。
「さっきの子が言ってたのを気にしてるの?」
「…別に」
図星なのか、彼は少し間を空けてから答えた。
「…グリーン」
あたしはそっと、彼の頬に触れる。
さぁ、あたしだけを見て。
「…」
彼はあたしと視線を合わせた。
「…」
あたしは優しく微笑みを返す。
あたしだけを感じて、あたしだけに話して、あたしだけに見せて。
あなたの胸の内を…。
「……はぁ…良かったな。玉の輿で」
しばらくすると、彼はおもむろにため息をつき、皮肉そうにそう言った。
彼は何より、自分の肩書きだけで自分を判断されるのを嫌う。
やっぱり、彼女が言ったことを気にしていたのね。
「あたしが欲しかったのは、億万長者みたいな贅沢な生活じゃないわ」
そう言いながら、あたしは彼にそっとキスをする。
「…っ」
彼は驚いたように、あたしを見つめた。
「あたしが欲しいのは、あたしを愛してくれるあなただけ」
そう言って、今度は深いキスをする。
愛してくれるなら誰でもいいわけじゃない。
あなたじゃなきゃいやなのよ。
ただ、あたしだけを愛してくれるあなた。
他には何もいらないわ。
あなたの肩書きなんか、邪魔なだけ。
「…っん…ふっ…っ」
あたしが舌を絡めたはずなのに、なぜか逆に舌を絡めとられてて。
腰と後頭部に回された手の力が、いつもより強い気がした。
「…っ…はぁ…大好きよ…」
あたしを愛してくれる、あなたが大好き。
「…愛してる」
彼は再度、あたしに深いキスをした。
兄さんだって拗ねるときがある。可愛い兄さん。かっこいい姉さんを目指しました。男前な姉さんを。でも兄さんが攻めた。あれ。
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