「……」
彼女はそう言うと、なんだか少し、背筋がぞくりとするような妖艶な笑みを浮かべた。
どうしてこいつは、一人じゃ絶対生きられないと、嘆いて俺にすがりつくくせに、こんなにも一人でいたがるのだろう。
いや、いたがってるんじゃなくて、自分は一人だと、そう思い込んでいるのか。
だから毎回「独りにしないで」と、泣くのだろうか…。
「でも、ありがたく借りておくわ」
そう言うと、彼女は俺の上着を羽織る。
一人でいたくないくせに、どこか人を拒絶する。
でも、来るものは拒まない。
俺は彼女の行動に、少しほっとした。
「なんで、そんな格好でうろうろしていたんだ」
格好はいつもの格好だ。
つまり、どこか出かけていた風ではない。
何か買い物の袋をさげていないところを見ても、それが伺える。
というか、かばんすら彼女は持っていない。
こんな時間に、自分の家からも少し離れたこんな場所で、彼女はいったい、何をしていたのだろうか。
「風が冷たいから…気持ちよくて…。…心が、落ち着く気がして…」
彼女は目を瞑り、鼻からゆっくり息を吸う。
まるで、夜風を感じるように。
「…だから、冷たさを感じやすいように、そんな格好で出てきたとでも言うのか?」
その結果、風邪をひこうがどうでもいいと。
「…そうかもしれないわね」
彼女は煮え切れない答えを返した。
「…馬鹿だな」
煮え切らない答えからも、そんなことは微塵も思ってないくせに。
「…そうかもね」
「…っ」
彼女は俺のそんな言葉ですら、苦笑のような、自嘲的なような笑みを返すから、俺は思わず、顔を顰めた。
気づいて欲しいくせに、聞くとはぐらかす。
一人でいたくないくせに、一緒にいようとはしない。
この欲求と行動の矛盾は、彼女にはよくあることだ。
「…っ」
俺は、彼女を力強く抱きしめる。
彼女の肌は、夜風のせいで、すっかり冷え切っていた。
「…っ…グリーン?」
彼女が不思議そうに俺を見上げる。
「帰るぞ」
俺は彼女の手を引いて、家へと歩き出した。
俺はあまり、感受性がいいほうではない。
言わなくても、見てれば分かるなんてほど、理解力も高くない。
誰かを自分から率先して支えてやれるほど、器量もでかくない。
それでも彼女は、こうして俺の帰り道に佇んでいる。
俺が気づくことを望んで…。
でも、俺が全く気づくわけがないと、思い込んでるから厄介なんだ。
欲しがるくせに拒んで、拒むくせに欲しがる。
ならもう、
「ちょっとグリーン!」
俺は彼女の腕を、ぐいぐいとひっぱって歩く。
なんとしてでも俺が気づいて、強引にでも彼女を独りにさせない以外、方法がないじゃないか。
「…お前が風邪をひいたら俺が心配するんだっ!覚えておけっ」
誰にも迷惑がかからないと言うけれど、おまえが風邪をひいて、一人で苦しんでるのを心配しないほど、俺は冷血にはなりきれない…。
「…っ」
彼女はぴくりと反応した。
「あとこんな時間に一人で出歩くな」
夜、女の一人歩きは、いくら平和なマサラタウンといえども、100%安全とは言いにくい。
「で、でも」
「それとっ…俺に会いたきゃ会いに来い」
たしかに鈍いし、理解力もそう高くはないけれど、でも…気づいてしまったから…。
「……」
彼女はそのまま、黙り込んだ。
「…」
俺はそのまま、家への道を、彼女の腕を引っ張って歩き続ける。
「…ありがと」
彼女の小さい声が、夜風に消えていった。
無駄に長い!これも話が先に来たからかなぁ。オチが決まらなくて悩んだ。ああ。全部決めてから書くべきだった。いかん。