「馬鹿だな、と言ったら君は笑って、僕は顔を顰めた。」(グリブル)
 

10月16日 第16回目 「馬鹿だな、と言ったら君は笑って、僕は顔を顰めた。」(グリブル)

 

ジムからの帰り道、道の真ん中にぽつりと佇む少女を見つけた。

「ブルー!!」
俺は大げさに彼女の名前を呼ぶと、慌てて彼女に駆け寄る。
「…なぁに?」
彼女は不思議そうに、俺を見上げた。
「なぁにじゃないっ。…はぁあ。おまえ寒くないのか?そんな格好をして」
俺はそう言いながら、自分が着ていた上着を渡す。

自分はマントがあるため、多少の寒さはこれでしのげる。
だが彼女は、いつものノースリーブのワンピースに、白い上着を羽織っているだけだ。
まだ冬ではないとは言え、この時期の、しかも夜となればかなり冷え込む。
こんな時間帯に、それしか着ていないのでは、見ているこっちが鳥肌がたつというものだ。

「大丈夫よ?」
彼女は苦笑しながらも、俺の上着を受け取る。
「風邪でもひいたらどうするんだ」
俺は呆れて、再度ため息をついた。
「別にいいじゃない」
「なっ!?」
風邪をひいていいわけがあるかっ。
「…苦しいのはあたしであって、他の誰にも迷惑かけたりしないでしょ?」

 

 

 


「……」
彼女はそう言うと、なんだか少し、背筋がぞくりとするような妖艶な笑みを浮かべた。

どうしてこいつは、一人じゃ絶対生きられないと、嘆いて俺にすがりつくくせに、こんなにも一人でいたがるのだろう。
いや、いたがってるんじゃなくて、自分は一人だと、そう思い込んでいるのか。
だから毎回「独りにしないで」と、泣くのだろうか…。

「でも、ありがたく借りておくわ」
そう言うと、彼女は俺の上着を羽織る。

一人でいたくないくせに、どこか人を拒絶する。
でも、来るものは拒まない。

俺は彼女の行動に、少しほっとした。

「なんで、そんな格好でうろうろしていたんだ」
格好はいつもの格好だ。
つまり、どこか出かけていた風ではない。
何か買い物の袋をさげていないところを見ても、それが伺える。
というか、かばんすら彼女は持っていない。
こんな時間に、自分の家からも少し離れたこんな場所で、彼女はいったい、何をしていたのだろうか。

「風が冷たいから…気持ちよくて…。…心が、落ち着く気がして…」
彼女は目を瞑り、鼻からゆっくり息を吸う。
まるで、夜風を感じるように。
「…だから、冷たさを感じやすいように、そんな格好で出てきたとでも言うのか?」
その結果、風邪をひこうがどうでもいいと。
「…そうかもしれないわね」
彼女は煮え切れない答えを返した。
「…馬鹿だな」
煮え切らない答えからも、そんなことは微塵も思ってないくせに。
「…そうかもね」
「…っ」
彼女は俺のそんな言葉ですら、苦笑のような、自嘲的なような笑みを返すから、俺は思わず、顔を顰めた。

気づいて欲しいくせに、聞くとはぐらかす。
一人でいたくないくせに、一緒にいようとはしない。
この欲求と行動の矛盾は、彼女にはよくあることだ。

「…っ」
俺は、彼女を力強く抱きしめる。
彼女の肌は、夜風のせいで、すっかり冷え切っていた。
「…っ…グリーン?」
彼女が不思議そうに俺を見上げる。
「帰るぞ」
俺は彼女の手を引いて、家へと歩き出した。

俺はあまり、感受性がいいほうではない。
言わなくても、見てれば分かるなんてほど、理解力も高くない。
誰かを自分から率先して支えてやれるほど、器量もでかくない。

それでも彼女は、こうして俺の帰り道に佇んでいる。
俺が気づくことを望んで…。
でも、俺が全く気づくわけがないと、思い込んでるから厄介なんだ。

欲しがるくせに拒んで、拒むくせに欲しがる。

ならもう、

「ちょっとグリーン!」
俺は彼女の腕を、ぐいぐいとひっぱって歩く。

なんとしてでも俺が気づいて、強引にでも彼女を独りにさせない以外、方法がないじゃないか。

「…お前が風邪をひいたら俺が心配するんだっ!覚えておけっ」
誰にも迷惑がかからないと言うけれど、おまえが風邪をひいて、一人で苦しんでるのを心配しないほど、俺は冷血にはなりきれない…。
「…っ」
彼女はぴくりと反応した。
「あとこんな時間に一人で出歩くな」
夜、女の一人歩きは、いくら平和なマサラタウンといえども、100%安全とは言いにくい。
「で、でも」
「それとっ…俺に会いたきゃ会いに来い」

たしかに鈍いし、理解力もそう高くはないけれど、でも…気づいてしまったから…。

「……」
彼女はそのまま、黙り込んだ。
「…」
俺はそのまま、家への道を、彼女の腕を引っ張って歩き続ける。

 


「…ありがと」
彼女の小さい声が、夜風に消えていった。

 


無駄に長い!これも話が先に来たからかなぁ。オチが決まらなくて悩んだ。ああ。全部決めてから書くべきだった。いかん。

 

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