シルバーはいつも、どこかで人と線を引いて、決してそれ以上の付き合いをしないようにしていた。
あたしですら、彼の心の内までは、よく知らないほどに…。
彼の本当の笑顔なんか、見たことがない。
笑ったところで、人を食ったような笑みを浮かべるか、自嘲的に笑うかだ。
そんな彼は、近づけば、のらりくらりと交わされて、それ以上追求することを確固として許さない。
むしろ、踏み込む人物を、片っ端から消していく。
切り捨てていく。
でも、そうしたい気持ちは、あたしが一番よく分かっていたから、あたしもあえて、シルバーの心の内までは、踏み込まないようにしていた。
そんなことをしなくても、
「姉さん」
と、優しく、それでいて力強く、あたしを支え、共に過ごしてきてくれた。
あたしはそれで幸せだった。
それで、十分だった。
でも、シルバーは、それでよかったのかな…。
あたしだっていまだに、心の奥底まで踏み込まれるのは怖い。
でも、最初から壁を作ってちゃ、その先には絶対進めないって気づいた。
気づかされた。
気づかされたからこそ、シルバーはそれでよかったのかと、今更ながら思う。
誰か、誰か彼の心を開いて…と願うばかり。
あたしが、心を開いても大丈夫だと思ったように、彼にも現れるといい。
彼の心を、開ける人が…。
あたしにはできないから…。
暴かれたくない思いが、どうしても分かってしまうから…。
だから、誰か…誰かシルバーを…救ってあげてください…。
「…ブルー」
優しくあたしの頭を撫でる暖かさに、目を覚ます。
「…グリーン?」
あたしは寝ぼけ眼で、起こした人を確認した。
「あ、お茶でも飲みますか?」
イエローが立ち上がる。
「俺もおかわり」
レッドが、自分のティーカップを差し出した。
「よくこんなうるさい中、寝てられるな」
彼はうんざりしたような顔をして、本を閉じる。
こないだ読んでた位置と大して変わっていない。
あまりのうるささに、集中できなかったのだろう。
「…」
うるさい中。
あたしは辺りを見渡す。
するとそこには…
「ちょっとゴールド!!あんた食べすぎなのよ!」
席を立ち上がり、怒るクリス。
「うっせーな学級委員長!てめぇ保健委員にでも鞍替えする気かよ!?」
「その呼び方やめてって言ったでしょ!?」
いつもの二人の夫婦漫才だ。
「おまえら少し黙って食え」
シルバーはそんな二人に囲まれながら、黙々とクリスが作ったお菓子を食べる。
「おまえだって食いすぎだろ!!そんな食うな!」
そう言って、ゴールドはお皿に残っていたお菓子を口に頬張った。
「ゴールド!」
「っ…おまっ…ハムスターみたいっ」
シルバーは思わず、笑いをこらえるように言った。
「ほへでふぇんふおへほほんひゃ」
「何言ってるかわかんねー」
彼はゴールドをけなすようにそうぼやく。
「ゴールド!口に物入れながら喋らないでよ!」
うるさいやり取りはこんなものだ。
永遠とこんなことの繰り返し。
「…」
あたしは思わず、その光景を嬉しそうに微笑みながら見つめていた。
「なんだ?なんかいいことでもあったのか?」
そんな変化に、グリーンが気づいてくれる。
「…うん、すごくいいことあった」
あたしは、嬉しそうに微笑んだ。
「…そうか」
彼も微笑むと、再度このうるさい中、本を開いて読み始める。
「…」
あたしはもう一度、シルバー達を見つめた。
ありがとう…。
あたしは小さく、小さく呟く。
きっとシルバーは、照れくさくてそんなこと言えないだろうから、お姉ちゃんが代わりに言ってあげるわね。
シルバーを救ってくれて、ありがとう。
イエローの煎れてくれたお茶が、温かくて体に滲みた。 |