「ほら」
そう言って彼は、あたしに小袋を手渡した。
「は?」
あたしはそれを受け取ると、きょとんとした顔で彼を見る。
何事だろうか。
今日は、何かをもらうようなイベントごとではないし、お礼として受け取るにしても、別に何もしていない。
いったいなんなのだろう…。
「…おまえがこないだ欲しがってたピアスだ」
彼はぶっきらぼうに答えると、椅子に座って書類を見始めた。
「え?」
なんですって?
「…」
耳が少し赤い彼は、自分でやったことなのに、少し照れているようで。
っていうか、
「覚えてたの!?」
あたしは思わず、彼に駆け寄る。
「あれだけ欲しいとせがまれれば」
誰でも覚えてるだろうが、と彼はうんざりしたように言った。
「駄目だって言ったじゃない!」
欲しがっても駄目だって言ったのに。
「手持ちがなかったんだよ!」
「っ!?」
そんな理由だったのか。
っていうか、欲しいとはせがんだけど、ほんとに買ってくれるなんて思ってなかった。
ただ欲しいと言ってみただけだったし、自分でお金を貯めて買いに行くつもりだったんだ。
それがまさか、手持ちがないからとその場は断って、後から買いに行ってくれるなんて…。
「…なんだよ」
黙り込んだあたしを、彼がいぶかしげに見上げる。
「…あ…えと…あ…ありがと…」
なんだか妙に気恥ずかしくて、嬉しくて、少しうつむきながら、そう告げた。
「いや…」
彼は少し満足したように、再度書類に目を通しだす。
「…」
あたしはそれを確認すると、グリーンの近くに座って、貰った袋を開けた。
小さい、瑠璃色の石がついたピアス。
きらきらと光る銀の留め金に、透き通っているようで、深い深い蒼を感じさせる瑠璃色の石。
人目見た瞬間、欲しいと心惹かれた。
それを、好きな人からプレゼントされるなんて、こんなに嬉しいことはない。
「…どう?」
あたしは、今つけてるピアスをはずし、彼がくれたピアスと付け替えて、彼に問うた。
「いいんじゃないか?」
彼はいつもどおりの、そっけない態度。
「似合うくらい言いなさいよ!」
ほんと言葉足らずなんだから。
「…」
彼は気恥ずかしげに、目線を反らした。
まったく…。
「…そういえばあたし、なんでピアスの穴あけたんだったかなぁ」
あたしは手持ちの鏡で確認しながら、ピアスの感触を喜ぶ。
「は?」
彼は再度、あたしを見た。
ピアスの穴をあけたのは、いつのことだっただろう。
なんで、あけようなんて、思ったのかな…。
「…あ…そうだ」
しばらく考えて、あたしはあることを思い出す。
「なんだ?」
彼があたしをじっと見つめた。
そうだ、あたしあのとき…
「あたし、早く大人になりたかったんだ」
ピアスの穴に、あたしは強い、強い大人になったあたしのイメージを見たんだ。
「…っ」
彼は黙り込む。
「…あのときはただ、強く、強くなりたくて、早く、大人になりたくて…。何かしないと、落ち着いていられなかった」
ピアスをの穴をあけたのも、そのときのことだ。
何かしてなきゃ落ち着かなくて、できることは片っ端からやった気がする。
何をしたか、もう、あまり覚えていないけど…。
必死すぎてた気がするから…覚えていない…。
「…」
彼が優しく、あたしの頭を撫でる。
その手が心地よくて、あたしはゆっくり目を閉じる。
あたしは今、あんなに大人になりたかったはずなのに、子供のように、無条件で甘えさせてくれることを望んでる。
あのときの、反動なのかな…。
「…っ」
あたしがぎゅっと抱きついたら、彼は優しく、あたしを抱きしめ返してくれた。
無駄に長くなりました。いかーん!
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