「ピアスの穴に見た未来は、何色だった?」(グリブル)
 

10月22日 第22回目 「ピアスの穴に見た未来は、何色だった?」(グリブル)

 

「ほら」
そう言って彼は、あたしに小袋を手渡した。
「は?」
あたしはそれを受け取ると、きょとんとした顔で彼を見る。

何事だろうか。
今日は、何かをもらうようなイベントごとではないし、お礼として受け取るにしても、別に何もしていない。
いったいなんなのだろう…。

「…おまえがこないだ欲しがってたピアスだ」
彼はぶっきらぼうに答えると、椅子に座って書類を見始めた。
「え?」
なんですって?
「…」
耳が少し赤い彼は、自分でやったことなのに、少し照れているようで。

っていうか、

「覚えてたの!?」
あたしは思わず、彼に駆け寄る。
「あれだけ欲しいとせがまれれば」
誰でも覚えてるだろうが、と彼はうんざりしたように言った。
「駄目だって言ったじゃない!」
欲しがっても駄目だって言ったのに。
「手持ちがなかったんだよ!」
「っ!?」

そんな理由だったのか。

っていうか、欲しいとはせがんだけど、ほんとに買ってくれるなんて思ってなかった。
ただ欲しいと言ってみただけだったし、自分でお金を貯めて買いに行くつもりだったんだ。
それがまさか、手持ちがないからとその場は断って、後から買いに行ってくれるなんて…。

「…なんだよ」
黙り込んだあたしを、彼がいぶかしげに見上げる。
「…あ…えと…あ…ありがと…」
なんだか妙に気恥ずかしくて、嬉しくて、少しうつむきながら、そう告げた。
「いや…」
彼は少し満足したように、再度書類に目を通しだす。
「…」
あたしはそれを確認すると、グリーンの近くに座って、貰った袋を開けた。

小さい、瑠璃色の石がついたピアス。
きらきらと光る銀の留め金に、透き通っているようで、深い深い蒼を感じさせる瑠璃色の石。
人目見た瞬間、欲しいと心惹かれた。
それを、好きな人からプレゼントされるなんて、こんなに嬉しいことはない。

「…どう?」
あたしは、今つけてるピアスをはずし、彼がくれたピアスと付け替えて、彼に問うた。
「いいんじゃないか?」
彼はいつもどおりの、そっけない態度。
「似合うくらい言いなさいよ!」
ほんと言葉足らずなんだから。
「…」
彼は気恥ずかしげに、目線を反らした。
まったく…。

「…そういえばあたし、なんでピアスの穴あけたんだったかなぁ」
あたしは手持ちの鏡で確認しながら、ピアスの感触を喜ぶ。
「は?」
彼は再度、あたしを見た。

ピアスの穴をあけたのは、いつのことだっただろう。
なんで、あけようなんて、思ったのかな…。

「…あ…そうだ」
しばらく考えて、あたしはあることを思い出す。
「なんだ?」
彼があたしをじっと見つめた。

そうだ、あたしあのとき…

「あたし、早く大人になりたかったんだ」
ピアスの穴に、あたしは強い、強い大人になったあたしのイメージを見たんだ。
「…っ」
彼は黙り込む。
「…あのときはただ、強く、強くなりたくて、早く、大人になりたくて…。何かしないと、落ち着いていられなかった」
ピアスをの穴をあけたのも、そのときのことだ。

何かしてなきゃ落ち着かなくて、できることは片っ端からやった気がする。
何をしたか、もう、あまり覚えていないけど…。
必死すぎてた気がするから…覚えていない…。

「…」
彼が優しく、あたしの頭を撫でる。

その手が心地よくて、あたしはゆっくり目を閉じる。

あたしは今、あんなに大人になりたかったはずなのに、子供のように、無条件で甘えさせてくれることを望んでる。
あのときの、反動なのかな…。

「…っ」
あたしがぎゅっと抱きついたら、彼は優しく、あたしを抱きしめ返してくれた。

 

 

 


無駄に長くなりました。いかーん!

 

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