「もうどっか行っちゃえ!」(ゴークリ)
 

1月13日 第48回目 「もうどっか行っちゃえ!」(ゴークリ)

 

「…ゴ、ゴールド!?」
久しぶりに見た彼は、どろだらけの傷だらけで。
「…よぉ、クリスぅ…久しぶりだなぁ」
彼はへろへろになりながら、へらっと顔に笑みを浮かべた。
「…よぉじゃないわよ!大丈夫なの?この怪我…」
私は慌てて、彼に近づく。
「…あぁ、どぉってことねーよ。いつものことだ」
ひらひらと振った腕には、それ以外の細かい傷もいっぱいあって。
またこいつは、無茶な修行ばかり、してるのだろうか…。
「いつものことって…とりあえず手当てするからっ」
そう言って、彼を自宅へと招き入れる。

彼の手当てにもすっかり慣れて、うちには一通りの応急処置道具が揃ってしまった。
また、怪我を増やしてるのかな、と思いながら買った包帯は、彼の血に少し汚れていった。

「…はい、これでいちお大丈夫だと思うわ」
キレイに巻けるようになった包帯。
最初はあんなによれよれで、包帯を巻いた意味なんかなさなかったのに。
嬉しくない、慣れによる技術。
「…サンキューな」
彼が疲れたように笑うと、すっと立ち上がった。
「え?…ゴールド?どこ行くの?」
いつもみたいに、飯食わせろとか言われるのだと思ったから、不思議そうに見上げる。
「…荷物を取りに、こっちに戻っただけなんだ…。すぐ、荷物取ったら行くつもりだった…。まさか、おまえに会うとは、思わなかったけどな」
そう言って、彼は玄関に向かう。

何よそれ、何よそれ、何よそれっ…。
人の家の近くに立ってたくせに、会うとは思わなかったって、どういう意味よ…。
いつもみたいに、迷惑顧みずに、私に、久しぶりに会いにきてくれたんだと、思ったのに……っ。

「もうどっか行っちゃえ!」
私は手近にあったものを、彼に投げつける。
「うわっ!?」
彼は間一髪で避けると、それは玄関のドアに鈍い音を立てて当たり、私とゴールドの靴の上に落ちた。
「人がどんだけ心配してると思ってんのよ!!!人の気も知らないで勝手にいなくなって勝手に帰ってきて!!あげくそんな傷だらけになってまで、まだどっか行くなんてっ」
必死にこらえてるのに、私の涙は、私の意志に反してぼろぼろと零れ落ちる。
「…く、クリス?」
彼は驚いたように、私を見た。

いつもだって、こんな弱音、吐いたことなんかないのに。
訳の分からない感情が、私の心を、暴いていく。

「……っ…お願い………行かないでっ」
泣き声に埋もれて、小さく呟いた。

どっか行けと言ったくせに、行かないでなんて…。

でも、私が寂しいからじゃないよ…。
私が一緒にいたいからじゃないよ…。
あなたには、夢とロマンを追い続けて欲しいもの…。
でも…

「…そんな怪我で…無理したりしないでよぉ…っ」

どこへ行ったっていい。
私を置いて行ったって構わない。
でも、自分のことは、もっと大事にしてよ…。

「……ごめん…」
彼がゆっくり私の方に戻ってきて、私の前に座る。
「…ごめんな…」
そっと私の涙を拭い、彼は私にもたれかかった。
「…ゴールド…?」
「しばらくしたら…起こして…くれ…」
彼はずるずると私に体重を預けると、そう呟くなり、寝息を立てて寝てしまう。
「……っ…馬鹿…」
少し鼻をすすって、彼を優しく、抱きしめた。

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