「悪かった!悪かったって!!」
「ぜーーーったい許さないから!!!」
彼女の怒りに、俺はただ平謝り。
「しょうがないだろう、仕事だったんだし」
「せめて連絡くらいくれたっていいじゃない!!」
彼女と会う約束をしていた日、急な仕事に行けなくなった。
「だから、事情は説明したろ?本当に急で、ポケギアをいじってる時間なんか全くなかったんだ!」
「でも少しぐらいさっ…っ」
彼女は理不尽な怒りをぶつけているのを分かっているのか、それ以上二の句はつけず、泣きそうに下唇を噛んだ。
「だから、悪かったって言ってるだろ?」
俺は優しく、彼女の頭を撫でる。
しょうがないとは言いつつも、申し訳ないと思う気持ちはあるんだ。
だからこうやって、必死に謝ってはいるのだけれど。
「…やだ…許さないもんっ」
曲げたへそは、そう簡単には戻せないようで。
「じゃあ、どうしたら許してくれるんだ?」
はぁと、俺はため息をついた。
「…そんなの自分で考えなさいよっ」
ふいっと彼女は顔をそむける。
「…なんでも言うこと聞いてやるから、許せって」
そっと、そっぽを向いた彼女の頬を、優しく撫でた。
「なんでも?」
よし、食いついた。
「…っていうか、いや、なんでもって、限度はあるが…。つーか1個だけだぞ?」
お前に全てを許すと、何度でもわがままを言われかねない。
「なんでもじゃないじゃん」
「いや、限度はあるって話だ」
さすがに3回回ってワンと言えと言われて、やれる自信はない。
「…じゃあ、グリーンができそうなことならなんでもいいわけね?」
「おまえのイメージの中にある俺が、本物の俺とそう大差なければな?」
さすがに普段言わない言葉を言わせられるのも抵抗はあるものの、突拍子もなく、「君の瞳に乾杯」みたいなセリフを言わせられるのは、さすがに引く。
無駄にあいつは、夢見がちだからな…。
前にあるドラマを見たあと、ダンスの申し込みポーズやってと言われたときは、逃げるのが大変だった。
「じゃあ」
「…っ」
何が来るっ。
俺は思わず身構えた。
「うーんと……じゃあキス10回分で」
「は?」
なんだって?
「…だから、キス10回分で許してあげるわよって言ってるの!」
「…安っ」
思わず本音が漏れる。
「じゃあ100回にしましょうか?」
彼女が眉間にしわを寄せた。
「いや、そういうことじゃなくて、そんなことでいいのか?って」
キスなんて、願われなくてもすることはあるし、10回なんて、それこそあっという間の数だ。
そんなことで許されるのなら、すごく安いと思ってしまったんだ。
あんなに怒っていたのに、それでいいのか?
「そんなことじゃないもん…。あたしにとって、グリーンにキスをされるのは、それだけグリーンと一緒にいるってことだもん…。あと10回も一緒にいれるなら、それ以上に嬉しいことなんか…ないんだから…」
あぁ、そういうことか。
10回のキスは、10回分の会う約束なんだ。
仕事で休みがなかなか取れない中で、10回分会うということを、彼女は願った。
そういう…ことか…。
「…分かった」
優しく彼女を抱きしめる。
「…連絡来なくて怖かったんだからぁ…」
彼女は、ぎゅっと胸に、顔をうずめてきた。
「ごめん…」
優しく彼女の頭を撫でる。
「グリーン…好き…大好き」
首に腕を回されて、彼女の声が、耳に届く。
「好きだ」
10回分にカウントしないキスを、俺は優しく返した。
10回と言わず、無限大にくれてやるよ。
そんな、意味をこめて…。
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