「こんな痛みを教えた責任、取ってもらう」(グリブル)
 

1月26日 第52回目 「こんな痛みを教えた責任、取ってもらう」(グリブル)

 

あいつがジムに来なくなって早2週間。
理由は分かっている。
マサキに、新しいポケモン転送システムの設計を、手伝うように頼まれたからだ。
機械に長けたあいつは、技術面でもそこそこ役に立つ。
まぁもちろん、世界の誰もが使うシステムである、ポケモン転送システムは、そこらへんの女に頼むほどの代物ではないのだが、いい機会にと、技術を磨くのにやってみないかと声をかけてくれたのだ。

 

「どうしたらいいと思う?」
そう聞かれたのは1週間前のことだった。
「別に、お前がやりたいのならやればいいだろう。こんな機会、そうあることじゃないだろうし」
俺は正論を返した。
「そうなんだけどさ…」
「何を迷うことがある?」
彼女が迷う理由が分からなかった。
「ナナミさんもいるから、向こうに泊り込みで作業するつもりなんだよね」
マサキともそこそこ仲のいい彼女だからこそ、許される行為だろう。
「一番近くで作業が見れていいんじゃないか?」
泊り込むということは、より長く、より近くでその技術に触れられるということだ。
こんないい機会はそれこそないだろう。
「…いつできるか分からないんだよ?」
「そりゃ、大掛かりなポケモン転送システムだ。そんな簡単にできるものじゃないだろう」
これも事実を言ったまでだ。
「…ハナダとトキワだよ?」
「だから?」
こことハナダに何の関係があるんだ。
「…もういいよ!馬鹿!」
彼女は複雑そうな表情をして、部屋を出ていった。

 

 

 

それからは、大量に着ていたメールも、電話もぱったり来なくなり、うるさいほど毎日のように来ていたジムにも、一切顔を見せなくなった。

理由は分かる。
大掛かりな作業に、メールをしてる暇も、電話する体力もないことも。
まして、会いに来るほどの時間など、あるわけもなく。
分かってる。分かってることだ。
俺だって旅に出れば同じ事をする。同じ事をしてきた。
俺だって同じ事をしてきたのだから、同じ状況になろうと文句を言う資格はない。
たとえ俺が同じ事をして、散々怒らせて文句を言われてたとしてもだ。
俺が言う資格はない。これが仕返しなのだとしたら…だが。
理不尽だと多少思っても、俺には別にどうでもいいことのはずだ。

そう、普段から思っていたはずなんだ。

なのに、分かっているのになんだろう…この妙な痛みにも似た感覚。
痛みというよりは、違和感。
違和感というか、いきなり胸にぽっかり大穴をあけられたような衝撃。
怪我をしてるわけではないのに、体の中に感じる妙な感じのような。
無駄にぐちゃぐちゃした思考が、いらいらを募らせる。
いらいらするのが、胸の辺りに重たい鉛を落とすようで。

「くそっ」
訳の分からないことへのジレンマ。
訳が分からなくて、いらいらする。
「っ!?」
そのとき、いつもブルーが勝手に入って来ていたジムの裏口が開く。
「っ」
「よっグリーン!調子どうだ?」
ブルーと言おうとして、出てきたのが違う人物だったことに、心底力が抜けた。
「はぁああ」
力と一緒に、息も抜けていく。
「あ、ひっでー反応だなぁ。悪かったなぁ、ブルーじゃなくて」
「なっ!?」
俺はがばっと顔をあげる。
絶対赤面してるんだろうな、と顔の温度で理解した。
「2週間会ってないんだろ?ブルーから、そろそろ寂しがってくれた?って調査以来が来ましたよ?」
「っ!?」
レッドがにやりと口元に笑みを浮かべる。
くそう、何もかも予想通りかよ。
「ただいまのお時間、お昼休みですって。電話なさいますか?」
レッドがにやにやしたまま、電話を差し出す。
「こんな痛みを教えた責任、取ってもらう」
俺はそう言うと、レッドから電話を奪い、あいつの電話番号を押した。

邪魔になろうが、迷惑になろうが知ったことか。
この痛みにも似た違和感教えた責任、取ってもらうからな。

 


日課みたいなものがいきなりなくなると、ぽっかり穴があいただけじゃすまなくなるんだろうなって(笑)

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