「たまにはこういうのもいいんでない?」(レイエ)
 

2月9日 第56回目 「たまにはこういうのもいいんでない?」(レイエ)

 

「うわぁ…」
山にハイキングに行こう!
そう誘ったのは俺だった。

観光名所としても名高いこの山は、頂上から見下ろす街がとてもキレイに見える場所だった。
そのはずなのに…。

「…」
イエローが一歩踏み出せば、かさりとビニールを踏む音がする。
「ピッカァ」
ピカが歩けば、落ちていた缶を軽く転がした。

「…ゴミだらけですね」
現状を、イエローが言葉で説明してしまう。

そう、頂上の展望台風になっているこの場所は、ゴミの宝庫になっていた。
べこりとへこんだ缶に、お弁当の空箱。
ポテトチップスの袋や、少し膨張したペットボトル。
どれもこれも、この風景には似合わないものばかりで…。

「…ここ、ゴミ箱ないからなぁ」
『ゴミはお持ち帰りください』なんて立て看板は、スプレーの落書きに、もうよく見えなくなっている。

「よしっ」
イエローは小さく気合を入れて、下に散らばっていたビニール袋を拾い上げると、周りのゴミを拾い始めた。
「え、い、イエロー!?」
俺はその行動に一瞬驚くが、彼女は周りが見つめる視線を気にもせず、ただ黙々とゴミを拾っていく。

あぁもうほんと、俺の想像を裏切ってはくれないな…。
俺はピカと顔を見合わせて、くすりと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「ふぅ。だいぶキレイになった…ってレッドさん!?」
一緒になって拾い出していた俺を、イエローが気づいて俺に駆け寄る。
「そっちは終わったか?」
俺は、もう何袋目になるか分からない袋を、どさりと地面に置いた。
「す、すいません!?手伝ってもらうつもりじゃ、っていうか、折角ハイキングに誘ってくださったのに、こんな、いきなりゴミ拾いなんて…。ほんと、ほんとすいませんっ!」
彼女の顔が、赤から青に変わっていく。
慌てて彼女は、頭を下げた。

この頂上から見える景色はもう夕焼けだ。
今日はこの山に、このキレイな景色を見にハイキングに来たはずだったのに…。

 

 

 

「たまにはこういうのもいいんでない?」
「え…」
彼女がぱっと顔を上げる。
「…この景色を見せたくて連れてきたんだ。キレイな場所で見れることに、こしたことはないさ」
俺は、優しく笑みを浮かべた。
「……ありがとう…ございます」
キレイな夕日に染められて、彼女の笑顔が、まぶしく見えた。

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