なんで…?
「……もしかしてものすごく怒ってたり……する?」
彼が怒ると、いつもの3割増ほど無口になる。
すでに病室に見舞いに来てから、30分ほど彼は言葉を口にしていなかった。
「…」
案の定、彼はやっぱり答えない。
その代わり、部屋の空気がさらに冷たくなったことが、肯定の意を表していた。
「うぅう…なんか言ってよぉ」
「…」
やっぱり無言。
さっきからあたしが話しかけても、この有様。
無視されてる感じじゃないのに、空気がものすごく痛々しい。
「…わーん!!嫌がらせなの!?」
あたしは、喋らない空間っていうのが、一番嫌いだった。
「…じゃあ言うが、おまえのその怪我は俺に対する嫌がらせか?」
彼が鋭い眼光を向ける。
「なっ!?なんでそうなるのよ!!これはむしろ名誉の負傷でしょ!?グリーンを守って負った怪我なんだから!」
「それが嫌がらせかと言ってるんだ!」
彼ががたんっと大きな音を立てて、椅子から立ち上がった。
椅子が床に、転がった。
「っ!?」
あたしは驚いて、目を見開く。
彼が叫ぶなんて、ものすごく珍しい。
ましてここは病院なのに、彼が周りを省みないことに、あたしはものすごくびっくりした。
「どれだけ心配したと思ってるんだっ…。3日も目を覚まさないで…」
彼が一瞬、泣きそうに顔を歪めた気がした。
あぁ、彼はあたしを、心配してくれたのか…。
「……ごめん…なさい…」
なんだかすっと、言葉が口から出ていった。
何故病院にいるのか。
それは、彼が暴走したポケモンに襲われそうになったのを、あたしが助けたからだった。
ポケモンで応戦すればよかったのに、あたしの生身で助けたのが怪我の原因。
でも、あのときはそんなこと考えてられなかった。
きっと、あたしが助けなくても、グリーンの身軽さや、察知能力なら、やすやすと攻撃を交わすことは可能だったかもしれない。
怪我ひとつなく、あっさり倒せたかもしれない。
でも、そんなこと考えるまもなく、あたしはただ、走り出してしまっていた。
ただ、大好きな人を、守りたいがために。
「こんな無茶は二度とするなっ」
彼があたしを、ぎゅっと抱きしめる。
傷が痛んだけど、何も言わなかった。
「俺を守るなんて、絶対にするな!!」
彼が苦しげに叫んだけれど、あたしは何も答えなかった。
そのかわり、あたしは彼を、優しく抱きしめた。
だってそんなの、約束できるわけないよ。
同じ状況がまたおきたなら、あたしはきっと、走り出す。
大好きなあなたを、守りたいがために。
いつまでも、いつまでも…。