「オレがいなくて、さみしかった?」(レイエ)
 

3月31日 第65回目 「オレがいなくて、さみしかった?」(レイエ)

 

いつも、いつも、「旅に出るんだ」と言った俺を、君はどう思っていたんだろう。
いつも、いつも、「今回の旅は…」と語った俺を、君はどう思っていたんだろう。

引き止めることも、ついてくることもせず、旅に出る俺を、「いってらっしゃい」と送り出してくれる。
そして、帰ってきた俺を、「おかえりなさい」と、優しく出迎えてくれる。
そうして俺は、くだらない、彼女には興味のない旅の話を繰り返す。

毎回…毎回……。

「あたしだったら、あんたみたいな放浪癖のある人なんか好きにならないわっ」
イエローが可哀想よっ。
そう言った彼女の声が、耳に残る。

それでもイエローは、「僕は旅をしてるレッドさんが好きなんですよ」と言った。
俺はすごく、申し訳なさを感じた。

そんな彼女に、甘えている、だけなんだと思う。
そんな、彼女の気持ちに…。


「今回は、どんなところに行ってきたんですか?」
いつもの笑顔が、俺を出迎えてくれる。
何度も、何度も彼女を置いていく、俺を…。

俺はこの笑顔に、何度救われたんだろう…。

「レッドさん?」
何も言わない俺を、不思議そうに見上げる。
「オレがいなくて、さみしかった?」

 


俺は、ふとそんな言葉を囁いた。
「…え?」
彼女が驚いた顔をする。

君の強がりを、壊してあげる。
無理に笑う笑顔の下の、本当の君に手を差し伸べよう。

「…オレがいなくて、さみしかった?」
もう一度、言葉を繰り返す。
一枚一枚、壁を壊していくように…。

そんなことしか、今の俺にはできないから。

「………っ……さみしくないわけ…ないじゃないですか…」
泣き声に混じる彼女の本音を、俺は優しく受け止めた。

どこにも行かない、なんて言えないけれど…。
ずっとそばにいる、なんて言えないけれど…。

それでも今日の悲しみを、明日に残さないために…。

「イエロー…ごめん……ありがとう……。ただいま…」
君に言葉を贈ろう。

必ず、君の元へ帰ると…。

「おかえりなさい」
涙目で優しく笑う彼女に、あぁ、俺はまた甘えていく。

どこまでも…どこまでも…。

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