「ねぇグリーン、ぎゅってして…」
彼女はそう言って、俺に抱きつく。
「…ねぇグリーン、キス…して…」
彼女はそう言って、俺にキスをする。
「…グリーン、好きって言って…」
彼女はそう言って、俺に好きだと言う。
だから俺は、いつものように抱きしめ返して、キスをして、好きだと囁く…。
そうして俺は、その行為に慣れていく…。
最初ほどの違和感を感じなくなる。
そうなることで、見えてくる。
こんな願いは、我侭には入らないのだと。
彼女が本当に欲しいことは、そんなことでは、ないのだと…。
だから、決して近づいた気がしない。
心の奥底まで、触れられた気がしないんだ…。
「っ!?」
考え事をしていた深夜2時。
鳴るはずのないポケギアが鳴る。
「…はい」
「……グ…リーン…?」
声の主は、ディスプレイで確認したはずなのに、疑うほど不安そうな声で俺の名前を呼んだ。
「…どうした?」
俺は心配気に聞く。
「……ううん…ごめん…こんな遅くに…」
あぁ、まただ。
また、近づけない。
「…どうした?」
根気強く、俺は問う。
「…なんでも…ないの…。ごめんなさい」
いつもの強気な態度はどこへ消えたのか。
頼りない、今にも泣きそうな、そんな声。
「…なんでもないわけないだろ。こんな時間にかけてきて」
何かあったから、かけてきたんじゃないのか?
「…ごめんなさい。もう、切るね」
そう言って、声が遠くなる。
「ブルー!」
俺は強く、彼女の名前を呼んだ。
「…どうした?何かあったのか?」
必死に、繋ぎとめる。
「…何も…ないよ…」
まだ、まだ声が遠い。
「じゃあ、今俺にして欲しいことはあるか…」
そう聞くと、彼女の声は聞こえなくなった…。
「…っ」
しばらくして、鼻をすする音が聞こえる。
「ブルー?」
俺は再度、彼女の名前を呼んだ。
「…今すぐ…会いたい…」
泣き声のように聞こえた、彼女の我侭。
やっと近づける。そう思える証。
「たまにはこうやって我侭言え。今すぐ行く」
そう言って俺は、着替えて部屋を、飛び出した。