「ねぇ、グリーン見なかった?」
いきなり家に押しかけてきて何事かと思えば、やっぱりおまえはグリーンのことばっかなんだな。
「…知るか。俺よりおまえのが知ってるだろ?」
俺はあきれてため息をつく。
「…そうなんだけど、思い当たるとこ全部探したんだけど、居ないのよぉ」
「…あっそ…」
そんなことないくらい言え…。
「今日はオーキド博士の用事で探してるから、見つからないと困るのよね」
「電話は?」
文明の利器は?
「出ないのよ」
「メールは?」
ネット社会の恩恵に授かって。
「送ったけど返事なし」
「…」
役に立たねーなぁもう…。
「ほんとどこ行っちゃったのかなぁ」
「避けられてんじゃね?」
いっそそっちなんじゃねーの?
「うっそーん!?そんなの嫌!!!」
「ご、ごめん冗談だって」
そんな泣きそうな顔すんなよぉ。
なんでそこは「ありえないし!」くらいの自信を持ってくれないんだろうか…。
「とにかく、一緒に探してよ」
「…そのために来たのか」
そういうことか…。
「うんっ」
あぁ、笑顔がまぶしい。
「…ほんとに一通り見たのか?」
俺は彼女と二人で渋々道を歩く。
「探したよ?ジムだって、トキワシティだって。トキワの森はイエローにも手伝ってもらったけど収穫なし。買い物には出てないって言うし」
あいつの行きそうなとこはまぁそんくらいだな。
俺たちは、マサラからトキワまで歩いて、それらしい場所も探した。
ジムも、再度覗いたがおらず、今はトキワからマサラへ帰る道だ。
だが、どこも収穫はなくて…。
「じゃあいっそ自宅は?」
「あたしそっちから来たんだけど。そもそもオーキド博士にグリーンにこれを渡してくれって頼まれたのよ?」
そう言って、彼女は一枚の封筒を取り出す。
「じゃあ自宅の線もなしか」
彼女の家はグリーンの家の近くだし、俺だって家は近い。
つまり自宅には少なからず見には行っている。
さらにオーキド博士の研究所も通ってきたとなると…
「ほんとどこ行ったのかしら…」
彼女は歩き回って疲れたのか、ふぅと一息つく。
そりゃトキワとマサラを2回も往復すればなぁ。
「…なんか愛の力とかで探せないの?」
そろそろめんどくさくなり、すごく適当なことを言ってみる。
「レッド頭平気?」
「…」
こういうときばっかり、冗談は冗談に聞こえない。
疲れてるくせにコノヤロウ。
「まぁ馬鹿はほっといて」
「誰か馬鹿か!!」
おまえのためにだな!!
「もうこれ以上探しようがないし、これオーキド博士に返してこようかなぁ」
もう陽も暮れかけている。
朝はジムへ仕事に出たというナナミさんの言葉が事実なら、ジムは終わらせて家に戻る頃だ。
そうなると、ブルーが渡すよりも、オーキド博士が自宅で直接手渡した方が早くなってしまう。
「…はぁあ…。これを理由に、ゆっくり会えるかなぁって思ったのに…」
彼女が小さく言葉を落とす。
オーキド博士も、忙しい彼に会う口実をくれたのだと思う。
俺もあいつがどこにいるかも分からないほど、長い間会っていないような気がする。
同じ町に住んでいて、数週間一度も顔を合わすことがないなんて、それはそれで寂しいもんだよなぁ…。
「…もう少し探してみるか?」
俺は彼女の頭を軽く撫でる。
「でももう帰った方が出会える気がする」
「確かになぁ」
あぁ、お日様が沈んでしまった。
これでもだいぶ陽が長くなったと思ったんだけどなぁ。
「…しゃーねぇ、帰るかぁ」
俺はプテを出し、彼女はぷりりを出す。
そうして上昇しようとしたそのとき…
「あ」
「あ?」
ブルーの声に、俺はそっちを向いた。
「…リザードン…だ」
そう言いながら、彼女は空を仰ぐ。
「何!?」
俺も空を見上げたが、暗い空ではもう判別できなかった。
「マサラに向かってたったから、グリーンかも!?」
「何ぃ!?」
俺は慌ててプテで上昇した。
案の定…
「…帰ってるしぃ」
俺はずるずると壁によりかかる。
「は?自分の家に帰って何が悪い?」
彼はそれがなんだといわんばかりに、俺たちを見た。
「もうグリーンの馬鹿!!!」
「うわ!?」
そう言いながら抱きつくのはどうしてだい、ブルーちゃん。
「今日一日おまえのこと探してたんだよ」
はぁと俺はため息をつく。
「なんでだ?」
彼は驚いたように目を見開いた。
「これを渡すように頼まれてたのよ…。ジムにもトキワの森にも、あなたが行きそうなとこならどこも探したのに。そもそも連絡したのに、なんでかけなおしてくれないのよ」
「そうだそうだ。文明の利器をもっと利用しやがれ」
なんでかけなおさないし、返事を返さないんだ。
「…今日家に忘れていったんだ」
「役に立たねーじゃねーかよ!!」
これぞ携帯不携帯だ。
「まぁ、それはグリーンにはよくあるけど。でも、ほんと今日はいったいどこにいたの?」
彼女が彼を見上げて首を傾げる。
「忘れ物を取りに一回こっちに帰ってきた後、バトルふっかけられて相手して、ジムで仕事してたが?」
「なんで?!全部探したのに!?なんで会えなかったの!?」
そんな!!!!と彼女は彼に掴みかかる。
「そ、そんなの俺が知るかよ」
彼は気圧されたように、彼が一歩引いた。
「そもそも忘れ物を取りに来たときにポケギアを確認するなり持ってくなりしてよ!!」
「いや、それも、忘れた…」
彼は視線を反らす。
「馬鹿!!!」
「…つまり、ブルーがトキワに行ってる間に、おまえがマサラに戻り、俺らでもう一度トキワを探してる間に、おまえはバトルをふっかけられ、俺らがトキワ以外を探し始めた頃、ジムに戻ってきて仕事してたと…」
つまり、ことごとくすれ違い?
「…そんなぁ」
彼女はずるずると床に座り込む。
「愛が足りないぞお前」
いっそここまですれ違えるのは、そういうことじゃね?
もうほんとあまりのすれ違いにどうでもよくなり、さっきと同じような冗談を言ってみた。
冗談でも言ってなきゃやってられん。
「…嘘!?グリーンを好きな気持ちは誰にも負けないもん!!グリーンが好き!グリーンが大好きだもんっ!!」
「分かった!!分かったから!俺が悪かったから!そんなに何度も連呼すんな!!」
彼は真っ赤になってブルーを止める。
「だって好きだもん…。グリーンへの愛なら誰にだって負けないんだからぁ」
彼女が涙目で彼を見上げる。
「…はいはい」
彼は真っ赤な顔のまま、彼女の頭を撫でた。
「…なんでこういうときは冗談で流して馬鹿にしないんだよ、コンチクショウ!!!」
俺の叫びは、夜更けの星空に木霊する。
ことごとく、から回ればいい馬鹿レッド(ひどす)←作者、レッドは好きです(笑)
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