「あいつを泣かせるような事は絶対しない」
そう言われたのは、ついさっきのことだった。
姉さんとでかけていたらしいグリーンさんと出くわしたのは、ついさっきのことだ。
たまたまグリーンさんと二人っきりになって、なんでかそういう話になった。
あまりの唐突さに、俺は驚きを隠せなかった。
「なんでいきなり…」
俺はびっくりしたまま、グリーンさんを見上げる。
「…オーラと顔と、眉間のしわで…」
そんなに顔に、出ていただろうか。
あまり姉さんの前では、露骨な態度は控えようと思っていたのに…。
「……でもたぶん、姉さんは泣きますよ」
なんだかその事実を認めたくなくて、俺は軽く嫌味を返した。
「え…」
彼はきまずそうに俺を見る。
「泣かせることを、することだけが泣く原因とは限りませんから」
なんて、揚げ足取り。
たいてい姉さんが愚痴るときの常套句は、グリーンが冷たいとか、構ってくれな
いとか、そういう何もしてくれないことへの不満が多い。
つまり、姉さんが泣くのは、泣かせるようなことをされたことではなく、何もし
ないことが原因なのだ。
「……」
彼は返答に困ったのか、口を噤んだ。
「まぁそうじゃなくても、姉さんは泣きますよ…絶対」
俺は空を見上げる。
その理由をなしにしても、姉さんは絶対泣くんだ。
「なんでだ?」
彼は、眉間にしわを寄せて問う。
「姉さんが言ってました。女の人は、その人が好きであれば好きであるほど、泣
くのだと…」
「…」
彼は黙り込んだ。
「だからきっと、泣くと思いますよ…」
姉さんが、グリーンさんのことをそれだけ好きなのは分かっていた…。
そして、こんな話ができるくらい、その事実を受け入れられるようになってい
た、自分のことも…。
だから、まさかそんなあからさまな態度に出てるなんて、思いたくなかったんだ…。
「なんの話?」
トイレから戻ってきた姉さんが、俺たちに話しかける。
「っ…なんでもないよ」
俺は優しく、笑顔を返した。
きっと、きっと大丈夫。
もう少し…もう少しだから……。
ふたができるまでもう少し。
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