「あなたは僕を甘やかしすぎですね」(レイエ)
 

10月1日 第78回目 「あなたは僕を甘やかしすぎですね」(レイエ)

 

「…いって…らっしゃい…」
あなたはまた、旅に出ると言った。
僕はそれに、そう答えた。
「…あぁ、また、いろんなところを見てくるよ」
彼は、遠い遠い場所を見つめるように、青い、青い空を見上げた。
「…いつ…行かれるんですか?」
僕は、上手く笑えているだろうか…。
「…明日くらいには行こうと思う」
彼は楽しげに僕を見る。
「…っ…そう…ですか…」
僕は必死に、言葉を吐いた。

ついこないだ、帰ってきたばかりなのに。
彼はまた、旅に出ると言った。
僕はまた、笑顔で「いってらっしゃい」と告げた。
また…。

 

また…。


「……イエロー」
「きゃっ!?」
レッドさんが、僕を抱き上げる。
「…イエロー」
「…っ…はい」
僕は驚きながら、返事を返した。
「他に言うことは?」
「え?」
彼のいきなりな質問に、僕はたじろぐ。
「いってらっしゃい以外に言うことはない?」
彼が言葉を続けた。
「…え…」
僕は、目を見開いて驚く。

それ以外に、言いたいこと。
たくさんある…あるけれど…。

「…気をつけて」
違う言葉が、口から出ていく。

「…他には?」
彼が言葉を、誘い出す。
「…他…怪我とか…しないように…してくださいね」
「…他には?」
彼はさらに、僕の言葉を求めた。
「…他…」
あとは…あとは…

「…他には…ない?」
彼が少し、残念そうに苦笑する。
「…い…」
「い?」

イカナイデ…。

「いか買ってきてください!」
「は?!」

言えるわけない、そんなこと。

「…い…イカ…を…」
それにしても、言うこと考えればよかった。

「ぷっ…」
「ふえ?」
ぷ?
「あははははははは!!!!!イカ!イカですか!!了解!あはははは!!!」
「笑いすぎです!!」
思いっきり笑われた。
そりゃ自分だってこれはないって思ったけど!!
「…いや…あははは…はぁはぁ…やべぇ苦しい」
「そこまで笑わないでください!」
死ぬほど恥ずかしいのに。
「いやだって、すっごい悲しそうな顔してイカ買ってきてくださいって言うから」

 

 

「…え」
悲しそうな顔って。
「…行かないとは言えないけど、もうしばらくいるくらいはできるよ?」
彼は優しく、微笑んだ。
「…っ」
僕はぎゅっと、彼に抱きつく。
「…旅先でおいしいイカを探してくるよ」
笑いながら、彼が僕を撫でた。
「もう忘れてくださいぃ」
ムードいろいろぶち壊しですから。
「あははは」
彼は、僕を撫でながら微笑んだ。
「……あなたは、僕を甘やかしすぎですね」
僕は、苦笑して彼を見つめる。
「…そんなことないよ…。俺が望んで欲しかっただけだ…」
ぎゅっと力強く抱きしめてくれる力が、少し痛かったけれど、僕は何も言わず、彼を抱きしめ返した。


引き止められるのも困るけど、何にも言われないのも悲しいなんて、人間は強欲なのだ。

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