「…いって…らっしゃい…」
あなたはまた、旅に出ると言った。
僕はそれに、そう答えた。
「…あぁ、また、いろんなところを見てくるよ」
彼は、遠い遠い場所を見つめるように、青い、青い空を見上げた。
「…いつ…行かれるんですか?」
僕は、上手く笑えているだろうか…。
「…明日くらいには行こうと思う」
彼は楽しげに僕を見る。
「…っ…そう…ですか…」
僕は必死に、言葉を吐いた。
ついこないだ、帰ってきたばかりなのに。
彼はまた、旅に出ると言った。
僕はまた、笑顔で「いってらっしゃい」と告げた。
また…。
また…。
「……イエロー」
「きゃっ!?」
レッドさんが、僕を抱き上げる。
「…イエロー」
「…っ…はい」
僕は驚きながら、返事を返した。
「他に言うことは?」
「え?」
彼のいきなりな質問に、僕はたじろぐ。
「いってらっしゃい以外に言うことはない?」
彼が言葉を続けた。
「…え…」
僕は、目を見開いて驚く。
それ以外に、言いたいこと。
たくさんある…あるけれど…。
「…気をつけて」
違う言葉が、口から出ていく。
「…他には?」
彼が言葉を、誘い出す。
「…他…怪我とか…しないように…してくださいね」
「…他には?」
彼はさらに、僕の言葉を求めた。
「…他…」
あとは…あとは…
「…他には…ない?」
彼が少し、残念そうに苦笑する。
「…い…」
「い?」
イカナイデ…。
「いか買ってきてください!」
「は?!」
言えるわけない、そんなこと。
「…い…イカ…を…」
それにしても、言うこと考えればよかった。
「ぷっ…」
「ふえ?」
ぷ?
「あははははははは!!!!!イカ!イカですか!!了解!あはははは!!!」
「笑いすぎです!!」
思いっきり笑われた。
そりゃ自分だってこれはないって思ったけど!!
「…いや…あははは…はぁはぁ…やべぇ苦しい」
「そこまで笑わないでください!」
死ぬほど恥ずかしいのに。
「いやだって、すっごい悲しそうな顔してイカ買ってきてくださいって言うから」
「…え」
悲しそうな顔って。
「…行かないとは言えないけど、もうしばらくいるくらいはできるよ?」
彼は優しく、微笑んだ。
「…っ」
僕はぎゅっと、彼に抱きつく。
「…旅先でおいしいイカを探してくるよ」
笑いながら、彼が僕を撫でた。
「もう忘れてくださいぃ」
ムードいろいろぶち壊しですから。
「あははは」
彼は、僕を撫でながら微笑んだ。
「……あなたは、僕を甘やかしすぎですね」
僕は、苦笑して彼を見つめる。
「…そんなことないよ…。俺が望んで欲しかっただけだ…」
ぎゅっと力強く抱きしめてくれる力が、少し痛かったけれど、僕は何も言わず、彼を抱きしめ返した。
引き止められるのも困るけど、何にも言われないのも悲しいなんて、人間は強欲なのだ。 |