「…なんだ」
「…別に…」
さっきから、痛いくらいの視線を感じているような気がするんだが?
「…なんなんだよ」
「………別にぃ?」
じゃあなんでそんなに視線が痛いんだ…。
いつもこうるさいこいつが、何も言わずにただ俺を見てる。
こんな奇妙なことを、『別に』で片付けるのは明らかにおかしい。
なんなんだ?
「……だから、さっきからなんなんだ!!」
俺はがばっと椅子から立ち上がり、彼女の元に行く。
「…別に…」
ふいっと、彼女は視線を反らした。
「さっきからそうやって何回聞いても答えない!でも何回も同じ事を繰り返す!なんなんださっきから!!言いたいことがあるなら言え!!」
ソファーに座る彼女を、立ったままの俺が威圧するようにそう叫ぶ。
いらいらする。
わけのわからないことにペースを乱されて、心中安定しないのが。
「……ちょっとくらい構ってくれたっていいじゃん……」
遠慮しがちに伸ばされた腕が、俺の首に絡みついてくる。
そっと近づけられた体は、冬の寒さに冷たくなっていた。
呼んだのは、少しでも構ってもらうため。
素直に言わないのは、俺の邪魔をしないため。
素直じゃない彼女の、精一杯のSOS…か…。
「……構って欲しいなら素直にそう言え」
俺ははぁっと思いっきり息を吐くと、そっと彼女を抱きしめ、彼女の隣に座って、優しく頭を撫でた。
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