「俺じゃなくてもいいんだろ」(グリブル)
 

12月11日 第38回目 「俺じゃなくてもいいんだろ」(グリブル)

 

「…こないだグリーンがねっ」
グリーンがジム戦終わるまで、あたしはレッドとお話し中。
これがいつものこと、いつもの流れ…。
「あーはいはい」
嫌そうにしながらも、ちゃんと最後まで惚気話を聞いてくれるレッド。
「そうやって呆れながらも、ちゃんと話し聞いてくれるから、レッドって好きぃ」
そう微笑んで言ったら、優しく頭を撫でられた。
「はいはい…。ほら、愛しのグリーンが出てきたよ」
そう言って、彼はあたしの後ろを指さす。
あたしは振り返ると、バトルを終えて、少し土に汚れた大好きな彼の姿を、確認することができた。
「グリーンっ!」
「うわっ!?」
あたしはいつものように、大好きなグリーンに抱き付く。
「大好きっ」
そして決まり文句のように、愛を囁く。
「なっ!?…おまえは……」
そうして、真っ赤になった顔を見るのが、あたしの日課だった。

そのはずなのに…

「…どうせ誰でもいいくせに…」
そのはずだったのに…そう言って、グリーンはあたしを突き放した。
「……え…」
声が、脳に届く前に消えそうで…ううん、消して、しまいたくて…。

一緒に入ってきたイエローと、レッドが顔を見合わせてる。
いつものやりとりだって、さっきまで笑って見てたのに。

「…どう…いう…こと…」
その言葉の意味を謀りかねて、あたしは震えそうな声を、ぎゅっと手を握ることで押さえ込んだ。

なんだろう。
何かあったのだろか?
いつもより、空気がぴりぴりしてるのが感じられる。
あたし、何かしただろうか?
いつものように、いつもしていたことを、していたはずなのに…。
バトルのことで、何かあったのだろうか?
でも、八つ当たりなんて、する人じゃないのに…。

「……俺じゃなくてもいいんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが、がらがらと音をたてて崩れていくようで…。

「どうせ、おまえの気持ちを受け容れて、おまえを一人にしなきゃ、誰だって良かったくせに…」
彼は、苦しそうに表情をゆがめて、視線を逸らす。

「おいっ、なんだよさっきからその言い方」
先に声を発したのは、レッドだった。

彼も、グリーンの言動に、不審点があることに気付いたのだろう。

「お前には関係ないだろうっ!!」
「…っ!?」

こんな怒鳴るグリーンなんか、見たことないもの…。

明らかにおかしい…。
何?何があったの?
どうしたの?

って、聞いて、そんなグリーンも、受け容れてあげなきゃ。
どうしたのって、そっと頬を撫でて、笑顔をあなたに見せて……

 

 

 

 

「…グリーンは…ずっと…そう感じてたの…?」

声が震える。
言いたい言葉と、違う言葉が口から出る。
伸ばそうと思う手は、震えて動かなくて、笑おうとするのに、表情はどんどん真逆の顔になっていく…。

「……」
彼は、それ以上何も言わなかった。

彼の無言は、肯定の証…。

ずっと、あたしの想いは届かなかったの?
あたしが伝えてきた想いは、あなたには伝わってないの?

こんなに愛した、あたしの想いは……。

笑顔を、見せなきゃいけないのに、目尻に感じる熱が、邪魔をする。
視界すらも歪んで、ぼやけて、よく分からなくなって…。

「あたし…は…」

声さえも震えて、何を言ってるのかも分からなくて…。

「……あたしは………っ」

結局、何も言えずに…逃げ出した……。

「ブルーっ!!!」
「ブルーさんっ!!」
レッドとイエローの呼ぶ声が、遠くに聞こえた気がする…。

「おまえっ!何考えてんだ!!本気でそんなこと思ってんのか!!」
レッドが、グリーンの服につかみかかる。
「うるさいっ!おまえには関係ないと言ってるだろっ!!」
彼は、レッドの掴んだ手を、無理矢理離させた。
「ブルーさんっ…」
「っ」
2人のぴりぴりした空気を、イエローが突き破る。
「…イエロー…」
「ブルーさん…泣いてました…。僕たちの前じゃ、絶対泣かなかったブルーさんが…僕たちが一緒にいるのに、泣いたんですよっ!?」
イエローも、同じように目に涙をためて訴えた。
「…おまえ、本気であいつの想い、疑ってんのかよっ」
レッドは、優しくイエローを撫でながら、グリーンを睨む。
「……っ」
グリーンは再度顔をゆがめると、そのままジムを飛び出した…。

「何やってんだよ、あいつは…」
レッドは、はぁっと深く息を吐く。
「…ブルーさんが、レッドさんを好きだって言った後、なんか感じが違ったような気がしました…」
イエローは涙を拭いながら、冷静にいろいろなことを思い出そうとする。
「はぁ?!もしかして聞いてたのか!?って…いや…それにしたって…まさか……」
あいつがあそこまで……まさか…まさかな……。
彼がそう呟いた声は、部屋に消えていった。

 

 

 

「…はぁはぁ……っ」
涙が止まらない…。
ぼろぼろと零れる雫は、止まることを知らないように、自分じゃどうしようもできなかった…。

疑われたことが悲しかった…。
悲しかったけど、何より結局、自分のことしか考えず、逃げ出してしまったことに、悲しくなった。
あたしの気持ちを受け容れて、あたしを一人にしなきゃ、誰だって良かったのかもしれないと、本気で思ってしまったんだ…。
否定できなかった…。
自分の悲しさに負けて、あの人を気遣うだけの余裕を持てなくなった自分が、悔しくて、悲しくて。
そう思ってなかったとしても、そう言われても、仕方がないくらい、あたしは自分のことしか、考えてない…。
それがすごく…悔しい…。

「…好き…なのにっ」

こんなにも、こんなにも、あなたが大好きなのに…。
そう思われてることが悲しい。
そう思われてしまうことが、仕方がないと思えてしまうのが苦しい。
想いが、届かないのが悔しい。

「……グリーンっ……」
どんなに呼んでも…もう…届かない……。

 

 

 

 

 

 

「きゃっ!?」
後ろからいきなり誰かに抱き締められる。

誰!?
こんなところにっ…

「いやっ!?…いやっ離して!!!いやぁっ!!」
じたばたと暴れるが、強い力に振りほどけない。
「ブルーっ!!!」
「!?」

 

 

 

 

 

この…声……

「……っ…グ…リーン…」
涙が溢れたまま見上げれば、おぼろげながら、誰かは確認できた…。
「……ごめん……」
あたしはそのまま、力強く抱き締められる。

さっきまでの、突き放されるようなぴりぴりした空気は消え、ただ、あたしを包む暖かいぬくもりを、肌に感じられる。

「……グ…リーン……」
グリーン、グリーンなんだよね?

この感覚。
間違えるわけない…。
あたしが一番欲しい…ぬくもり…。
このぬくもりに、あたしは憧れ、望み、墜ちたんだ…。

そう…このぬくもりに、声に、想いに…。
あなたという、存在に……。

 

 

 

 

「…ごめん…ごめんな……」
優しく頬を撫でられ、涙を拭われる。

さっきまで、どうしたら止まるのか分からなかった涙も、彼の指に吸い取られるかのように、すぅっと消えていった…。

「……あたし……あたしの気持ちを、受け容れて、あたしを一人にしないで…いてくれたら…誰だって良かったのかもしれない……」
震える声で、ゆっくりと、言葉を吐く。
「…っ」
彼の撫でる手が、止まった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも……それでも………好きになったのは……グリーンなの……」

 

 

 

 

 

 

 

そう。
好きになったのはグリーンだけ…。
あたしの気持ちを受け容れて欲しいと、あたしを一人にしないで欲しいと、そう願ったのは、あなただけだったんだ…。

最初は、誰でも良かったのかもしれない…。
それでも、あたしはあなたを選んだ。
あなただけを…

「…好きなのは…グリーンだけだもん…っ」

お願い、伝わって…。
嘘偽りない、あたしの………想い………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん………ごめん…」
止まった手が、動き出す。
再度溜まった涙を、彼は優しく、拭ってくれた…。

「俺も…好きだ…」
ぎゅっと抱き締められて、優しいキスをくれて…。

彼のぬくもりを…あたしの愛した彼を…感じられる。
あたしの想いは、ちゃんと、あなたに届いた……。
そう…感じられた…。

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