「…こないだグリーンがねっ」
グリーンがジム戦終わるまで、あたしはレッドとお話し中。
これがいつものこと、いつもの流れ…。
「あーはいはい」
嫌そうにしながらも、ちゃんと最後まで惚気話を聞いてくれるレッド。
「そうやって呆れながらも、ちゃんと話し聞いてくれるから、レッドって好きぃ」
そう微笑んで言ったら、優しく頭を撫でられた。
「はいはい…。ほら、愛しのグリーンが出てきたよ」
そう言って、彼はあたしの後ろを指さす。
あたしは振り返ると、バトルを終えて、少し土に汚れた大好きな彼の姿を、確認することができた。
「グリーンっ!」
「うわっ!?」
あたしはいつものように、大好きなグリーンに抱き付く。
「大好きっ」
そして決まり文句のように、愛を囁く。
「なっ!?…おまえは……」
そうして、真っ赤になった顔を見るのが、あたしの日課だった。
そのはずなのに…
「…どうせ誰でもいいくせに…」
そのはずだったのに…そう言って、グリーンはあたしを突き放した。
「……え…」
声が、脳に届く前に消えそうで…ううん、消して、しまいたくて…。
一緒に入ってきたイエローと、レッドが顔を見合わせてる。
いつものやりとりだって、さっきまで笑って見てたのに。
「…どう…いう…こと…」
その言葉の意味を謀りかねて、あたしは震えそうな声を、ぎゅっと手を握ることで押さえ込んだ。
なんだろう。
何かあったのだろか?
いつもより、空気がぴりぴりしてるのが感じられる。
あたし、何かしただろうか?
いつものように、いつもしていたことを、していたはずなのに…。
バトルのことで、何かあったのだろうか?
でも、八つ当たりなんて、する人じゃないのに…。
「……俺じゃなくてもいいんだろ」
何かが、がらがらと音をたてて崩れていくようで…。
「どうせ、おまえの気持ちを受け容れて、おまえを一人にしなきゃ、誰だって良かったくせに…」
彼は、苦しそうに表情をゆがめて、視線を逸らす。
「おいっ、なんだよさっきからその言い方」
先に声を発したのは、レッドだった。
彼も、グリーンの言動に、不審点があることに気付いたのだろう。
「お前には関係ないだろうっ!!」
「…っ!?」
こんな怒鳴るグリーンなんか、見たことないもの…。
明らかにおかしい…。
何?何があったの?
どうしたの?
って、聞いて、そんなグリーンも、受け容れてあげなきゃ。
どうしたのって、そっと頬を撫でて、笑顔をあなたに見せて……
「…グリーンは…ずっと…そう感じてたの…?」
声が震える。
言いたい言葉と、違う言葉が口から出る。
伸ばそうと思う手は、震えて動かなくて、笑おうとするのに、表情はどんどん真逆の顔になっていく…。
「……」
彼は、それ以上何も言わなかった。
彼の無言は、肯定の証…。
ずっと、あたしの想いは届かなかったの?
あたしが伝えてきた想いは、あなたには伝わってないの?
こんなに愛した、あたしの想いは……。
笑顔を、見せなきゃいけないのに、目尻に感じる熱が、邪魔をする。
視界すらも歪んで、ぼやけて、よく分からなくなって…。
「あたし…は…」
声さえも震えて、何を言ってるのかも分からなくて…。
「……あたしは………っ」
結局、何も言えずに…逃げ出した……。
「ブルーっ!!!」
「ブルーさんっ!!」
レッドとイエローの呼ぶ声が、遠くに聞こえた気がする…。
「おまえっ!何考えてんだ!!本気でそんなこと思ってんのか!!」
レッドが、グリーンの服につかみかかる。
「うるさいっ!おまえには関係ないと言ってるだろっ!!」
彼は、レッドの掴んだ手を、無理矢理離させた。
「ブルーさんっ…」
「っ」
2人のぴりぴりした空気を、イエローが突き破る。
「…イエロー…」
「ブルーさん…泣いてました…。僕たちの前じゃ、絶対泣かなかったブルーさんが…僕たちが一緒にいるのに、泣いたんですよっ!?」
イエローも、同じように目に涙をためて訴えた。
「…おまえ、本気であいつの想い、疑ってんのかよっ」
レッドは、優しくイエローを撫でながら、グリーンを睨む。
「……っ」
グリーンは再度顔をゆがめると、そのままジムを飛び出した…。
「何やってんだよ、あいつは…」
レッドは、はぁっと深く息を吐く。
「…ブルーさんが、レッドさんを好きだって言った後、なんか感じが違ったような気がしました…」
イエローは涙を拭いながら、冷静にいろいろなことを思い出そうとする。
「はぁ?!もしかして聞いてたのか!?って…いや…それにしたって…まさか……」
あいつがあそこまで……まさか…まさかな……。
彼がそう呟いた声は、部屋に消えていった。
「…はぁはぁ……っ」
涙が止まらない…。
ぼろぼろと零れる雫は、止まることを知らないように、自分じゃどうしようもできなかった…。
疑われたことが悲しかった…。
悲しかったけど、何より結局、自分のことしか考えず、逃げ出してしまったことに、悲しくなった。
あたしの気持ちを受け容れて、あたしを一人にしなきゃ、誰だって良かったのかもしれないと、本気で思ってしまったんだ…。
否定できなかった…。
自分の悲しさに負けて、あの人を気遣うだけの余裕を持てなくなった自分が、悔しくて、悲しくて。
そう思ってなかったとしても、そう言われても、仕方がないくらい、あたしは自分のことしか、考えてない…。
それがすごく…悔しい…。
「…好き…なのにっ」
こんなにも、こんなにも、あなたが大好きなのに…。
そう思われてることが悲しい。
そう思われてしまうことが、仕方がないと思えてしまうのが苦しい。
想いが、届かないのが悔しい。
「……グリーンっ……」
どんなに呼んでも…もう…届かない……。
「きゃっ!?」
後ろからいきなり誰かに抱き締められる。
誰!?
こんなところにっ…
「いやっ!?…いやっ離して!!!いやぁっ!!」
じたばたと暴れるが、強い力に振りほどけない。
「ブルーっ!!!」
「!?」
この…声……
「……っ…グ…リーン…」
涙が溢れたまま見上げれば、おぼろげながら、誰かは確認できた…。
「……ごめん……」
あたしはそのまま、力強く抱き締められる。
さっきまでの、突き放されるようなぴりぴりした空気は消え、ただ、あたしを包む暖かいぬくもりを、肌に感じられる。
「……グ…リーン……」
グリーン、グリーンなんだよね?
この感覚。
間違えるわけない…。
あたしが一番欲しい…ぬくもり…。
このぬくもりに、あたしは憧れ、望み、墜ちたんだ…。
そう…このぬくもりに、声に、想いに…。
あなたという、存在に……。
「…ごめん…ごめんな……」
優しく頬を撫でられ、涙を拭われる。
さっきまで、どうしたら止まるのか分からなかった涙も、彼の指に吸い取られるかのように、すぅっと消えていった…。
「……あたし……あたしの気持ちを、受け容れて、あたしを一人にしないで…いてくれたら…誰だって良かったのかもしれない……」
震える声で、ゆっくりと、言葉を吐く。
「…っ」
彼の撫でる手が、止まった…。
「でも……それでも………好きになったのは……グリーンなの……」
そう。
好きになったのはグリーンだけ…。
あたしの気持ちを受け容れて欲しいと、あたしを一人にしないで欲しいと、そう願ったのは、あなただけだったんだ…。
最初は、誰でも良かったのかもしれない…。
それでも、あたしはあなたを選んだ。
あなただけを…
「…好きなのは…グリーンだけだもん…っ」
お願い、伝わって…。
嘘偽りない、あたしの………想い………。
「……うん………ごめん…」
止まった手が、動き出す。
再度溜まった涙を、彼は優しく、拭ってくれた…。
「俺も…好きだ…」
ぎゅっと抱き締められて、優しいキスをくれて…。
彼のぬくもりを…あたしの愛した彼を…感じられる。
あたしの想いは、ちゃんと、あなたに届いた……。
そう…感じられた…。
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