「グリーンは、あたしのどこが好き?」
「は?」
いきなりジムに来て、仕事の邪魔をしたあげく、人の膝の上に座ってじっと見上げて言ったその台詞に、俺は疑問符しか返せなかった。
「だーかーらー、あたしのどこが好き?」
じーっと真剣な目つきで見つめることから、おそらくこれは、笑ってかわすことができない質問なのだろう。
「なんだ、いきなり」
しかし、そんなことをいきなり聞かれる理由が、俺には分からなかった。
「聞きたくなったから」
「…はぁ」
だが、世間一般の会話はこいつには通じない。
こいつはどうしていつも本能の赴くままに生きているんだ…。
「ねぇ、あたしのどこが好き?」
どこといきなり聞かれても…。
もともと、人を好きになるという感情すらいまいち分かっていない俺に、どこがいいかと聞かれたって言葉がないのは当たり前だ。
こうしておまえと一緒にいるのは、「好きだから」という言葉に当てはめられるものなのかどうかさえ、わかっていない。
しかしレッドに、他の女にそういうことされて許せるか?と問われた際に、ブルー以外の女にこんなことされても、気持ちが悪いと思ったのは事実である。
おそらくそれが、世間一般に言う「人を好きになる」という言葉に該当するものなのだろうが、これは、俺が勝手に認識しているだけにすぎない。
実際、気持ち悪いと思わない境界線がなんなのかは曖昧で、いつからブルーなら平気だと思ったのかさえ、思い出すことが不可能だ。
どこが好きかと問われて、瞬時に答えられるような出来事が、すぐには浮かばなかった…。
「…そんな悩まないと出ないくらい、あたしのこと嫌いなの?」
「いや、そうじゃなくて」
彼女の表情の変化に、俺は慌てて否定を述べる。
「じゃあなんで答えられないのよっ」
彼女はぷぅっと頬を膨らませた。
「…どこといわれても、何をどう思ったらそこが好きだと思うことなのかが、いまいち分からん」
どういう理由で好きになったのか分からない俺には、皆目検討が付かなかった。
「…例えば、これがいいなぁとか、かわいいなぁとか思ったり、なんかほっとするとか、触れたくなった瞬間とか、なんかいろいろ…?」
「…」
なんでそう恥ずかしいことをぽんぽんと…。
「ねぇっないのっ!?」
彼女も少し恥ずかしかったのか、まくし立てるように真っ赤になって答えをせがまれた。
「…うーん」
これがいいっていうのはよく分からん。
かわいいと思う…。…うーん…。
ほっとする…触れたくなった……瞬間……
「…ねぇっ」
「例えば、俺の横で無防備に寝てくれることとか…かな…」
「は?」
こないだ、一緒に寝たいと言うから、仕方なく一緒に寝た日、おやすみ3秒のごとく、無防備に俺の横で寝てしまった彼女を見て、微妙な安心感と、安堵感を覚えた。
いつも気を張り詰めてて、弱味を見せず、自分に完璧であろうとする彼女が、子供のように俺の横で無防備に眠りに付く。
その姿は、いささか自分への信頼と、依存と、安心感を感じさせてくれたものだった。
まぁ、それと同時に、彼女に触れたいと思う感情も、同時に確認できたわけだが…。
「そういうところが、おまえのいう理由に当てはまる、おまえを好きな部分かな…」
優しく彼女の頭を撫でる。
「なんかよくわかんないけど、そんなんでいいの?」
「…あぁ」
今のおまえにとっちゃ、それだけで俺には十分すごいことだと、思うから…。
「…ふーん」
「……好きだ…」
あぁ、こういう感情を、世間一般では「好き」だと言うんだな…。
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