「…これが…」
ジムの仕事で、お偉いさんの女性と会った。
「…今度これがあるから…」
同じトキワに住んでるイエローに、頼みごとをした。
「…もしもし姉さん?」
用事があったから、姉さんに電話をした。
「なかなか手ごわかった。もう少し最初の出だしで大技を決めておくといい」
チャレンジャーの女の子に、アドバイスをした。
「……ブルー…」
彼女が「なんで女ばっかなのよ」と怒ってる原因は、おそらくこれくらいだろう…。
「何よ…」
上記の行動全てを、同じくジムに来ていたブルーは見ていた。
仕事ばかりで構ってやれなかった件もプラスされて、さらに怒りは収まらないらしい。
「仕方ないだろう、仕事なんだし」
全て仕事で出会った女性達、または友達や家族であって、それ以上の関係は決してない。
だが、決して断ち切れる関係でもない…。
「…分かってるけど…分かってるけどさぁ…」
理不尽な怒りなのは分かっているのか、彼女は苦虫を噛み潰したような顔で、視線を反らした。
行き場のない怒り。
筋の通らない憤り。
それが人間の、嫉妬という感情の厄介なところだ。
「…」
俺は、彼女を優しく撫でる。
「…他のひとなんて、見ないで」
ぼそりと彼女が呟く。
「…」
俺は、何も答えない。
「…あたしだけを見てよっ…あたしだけを…っ」
いろんな感情を、押さえ込むような苦痛に耐える顔。
泣きそうなのか、目が潤んでる。
行き場のない怒りのせいか、筋の通らないことを分かってる悔しさゆえか、心なしか体が震えていて。
「…」
言われた言葉に、はっきりした返答は返せない。
納得するような、泣かせないような言葉を、返すことができないからだ…。
なぜなら、そう言われたって、彼女達は決して断ち切れる関係ではないからだ。
会わないなんて言えないし、どんな理屈も、嫉妬という人間の感情には通じない。
それでも、それを分かっていてなお、この、目の前の泣きそうで震える彼女に、伝えられる言葉が、ただ一つだけある…。
それは…
「好きだ…」
ただ、それだけ…。
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