「他のひとなんて、見ないで」(グリブル)
 

12月22日 第41回目 「他のひとなんて、見ないで」(グリブル)

 

「…これが…」
ジムの仕事で、お偉いさんの女性と会った。

「…今度これがあるから…」
同じトキワに住んでるイエローに、頼みごとをした。

「…もしもし姉さん?」
用事があったから、姉さんに電話をした。

「なかなか手ごわかった。もう少し最初の出だしで大技を決めておくといい」
チャレンジャーの女の子に、アドバイスをした。

 

 

 

 

「……ブルー…」
彼女が「なんで女ばっかなのよ」と怒ってる原因は、おそらくこれくらいだろう…。
「何よ…」
上記の行動全てを、同じくジムに来ていたブルーは見ていた。
仕事ばかりで構ってやれなかった件もプラスされて、さらに怒りは収まらないらしい。
「仕方ないだろう、仕事なんだし」
全て仕事で出会った女性達、または友達や家族であって、それ以上の関係は決してない。
だが、決して断ち切れる関係でもない…。
「…分かってるけど…分かってるけどさぁ…」
理不尽な怒りなのは分かっているのか、彼女は苦虫を噛み潰したような顔で、視線を反らした。

行き場のない怒り。
筋の通らない憤り。
それが人間の、嫉妬という感情の厄介なところだ。

「…」
俺は、彼女を優しく撫でる。

「…他のひとなんて、見ないで」
ぼそりと彼女が呟く。
「…」
俺は、何も答えない。
「…あたしだけを見てよっ…あたしだけを…っ」

いろんな感情を、押さえ込むような苦痛に耐える顔。
泣きそうなのか、目が潤んでる。
行き場のない怒りのせいか、筋の通らないことを分かってる悔しさゆえか、心なしか体が震えていて。

「…」
言われた言葉に、はっきりした返答は返せない。
納得するような、泣かせないような言葉を、返すことができないからだ…。
なぜなら、そう言われたって、彼女達は決して断ち切れる関係ではないからだ。
会わないなんて言えないし、どんな理屈も、嫉妬という人間の感情には通じない。

それでも、それを分かっていてなお、この、目の前の泣きそうで震える彼女に、伝えられる言葉が、ただ一つだけある…。

それは…

 

 

 

 

「好きだ…」

ただ、それだけ…。

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