タトゥーラー
タトゥーラー。それは、体に刺青を持つ人間…。
その昔、人間だけで構成された世界があった。
しかし、ただ欲望のままに生きる人間達は、その世界に、魔物という生物を生み出してしまった…。
人間を創った神は、嘆いたという…。自分が創った人間が、人間自身で殺される道具を創ったと…。
当時の人間は、とても弱く、儚い生き物であった。人間達は、ただ魔物に食い殺されていくだけだったのだ…。
しかし神は、自分で創った物だ…と、見捨てるわけにもいかず、神は見かねてか、人間と姿形を同じにした、力を持つ生物を、彼等のために生み出した。
ただ人間を守るため、戦うためにだけ創られた生き物…。
それが、タトゥーラー。力を持つ人間…。
タトゥーラーの出現は、人間達の間で、神の救いだと伝えられた…。そして、魔物を倒し、この世界を平和へと導いた、タトゥーラーの王は、救世主として、崇められたという…。
そして、魔物が減り、平和が広がりだしたころ、タトゥーラーの力は、それほど必要とはされなくなってしまった…。
平和な時代が続き、タトゥーラーと人間との種族の間は、あまりなくなった。交わりから、ハーフが生まれるほど、世界も民も平和そのものだった。
今では、オリジナルのタトゥーラーや、オリジナルの人間の方が、数を減らしているくらいだ…。この世界の総人口の、約5分の4はハーフといえるだろう。
しかし、現代になる数年くらい前…。歴史はまた、神が望まぬ方へと進んでいく。今、この世界の主導権は、オリジナルの人間達が握っている。お偉いさん達(仕事場の責任者・社長、政治のうえでの偉い人など…)というのは、ほぼオリジナルの人間である。
人間も馬鹿ではない。巧みな頭を生かし、タトゥーラーに頼らずとも、自分の身は自分で守れるくらいの力は、時代が進むごとに付けてきた。
そう、オリジナルの人間というのは、タトゥーラーを批判し続けてきた民族のこと…。
そうなれば、オリジナルのタトゥーラーは、その人間達と対立した、と思う人も多いだろう。が、タトゥーラーは人間を守るために創られた生き物。対立できるはずもなく、ただ迫害を受けるのみとなってしまった…。
先ほども述べたよう、この世界の人口はほぼハーフで埋め尽くされている。
政治など、世界を動かしていく上での事などを、全てオリジナルの人間に取られてしまった以上、ハーフ達は、ただそれに従うしかなかった。
しかし、数が数なだけあってか、オリジナルの人間達は、ハーフ達を、普通の平民として扱っていた。まがりなりにも、自分たちの祖先の血が、半分は流れているわけだし…。
まぁー、その分のしわ寄せが、全てオリジナルのタトゥーラーへと向けられる訳なのだが…。
しかも、オリジナルの人間による、マインドコントロールなどは、ハーフの人間達に、タトゥーラーを敵視するようにと、し向けてきた。
オリジナルのタトゥーラーは、ただただ山の奥底や、誰にも知られていないような地形へと、追いやられてしまった…。
その様子に、腹を立てたタトゥーラーの王、の子孫達は、タトゥーラーを保護するべく立ち上がる。戦いを起こすことなく、(というか、タトゥーラーの力を恐れて、反発しなかっただけでもあるが…)タトゥーラーの人権を尊重するという、形だけの条約の元、「タトゥーラー管理本部」というものが、現代には出来上がっている。
そして、その現代…。
この物語は、現代を生きるタトゥーラーの男の子リューガと、女の子リエルのお話…。彼等は…今…。
--これは…--
「あれ…ここ…何処?」
--これは…何?--
「もしかして、迷子になっちゃったのかな…私…」
--これは…私?--
「おーい誰かいるぞー」
「!?」
--これは…昔の…あの時の…私
…?--
「おい、こいつ…」
「タトゥーラーだ…」
「…」
--そう、これは…あの時の私だ
…。ただ怯えてるだけだった頃の…私…--
「なんでこんなとこにいるんだよ…」
「知らないよそんなの…」
--たしか、私がオリジナルの人間達に、初めて出会った時の、10才の時の記憶…--
「知ってるかー、タトゥーラーって、悪魔の子なんだってよー」
一人の男の子が、座り込んでいる私を見下ろし、あざけるように言う。
「…」
私は、ただそれを怯えながら聞いているだけ…。
「まじでー」
他の子供達も次々に言い出す。
「お母さんから聞いたことある…。生まれてきちゃいけない子だって」
冷たい目で私を見る…。
「…」
私の表情は、怯えから悲しそうな顔になる…。
--あの時の私は…この言葉を受け入れるには、まだ幼すぎた…--
「じゃー、なんでこいつがここにいんだよ…」
男の子がその子につっかかる。
「知らないよ。いけないことしてるってことでしょう?」
--子供は、自分と違う物を持つ者を、仲間はずれにしたがる…。それが親公認なら、なおさら--
「いーけないんだいけないんだー」
みんなが口々に言い出す。
「おまえなんかいなくなれ!!」
「おまえはこの世にいちゃいけないんだ!!」
「どっかいっちゃえ!!」
みんなが私にそう言いながら、私に砂を投げかけ始める。私は泣きたいのに、涙をこらえてしまう…。
--やめて…もう、思い出したくない…。やめて…お願い--
「おまえは生まれてきちゃいけない奴なんだぞ!!」
「おまえなんか死んじゃえばいいんだ!!」
そう言って、私に石を投げつけた…。すると…
「やめろよ!!」
一人の男の子が、私を石から守ってくれた…。
--…リューガ?--
「なんだー?」
「おい、こいつもタトゥーラーだぞ…」
男の子を見て、露骨に嫌な顔をしてみせる子供達…。
「だからなんだよ!!おまえ達には関係ない!!」
強気に言い返す。でもそれが、逆にその子達の怒りを買ってしまった。
「なんだこいつ…タトゥーラーのくせして生意気だぞ…」
「そうだそうだ。生まれてきちゃいけない奴のくせに!!生意気なんだよ!!」
腹を立てた子供達が、次々に言い返す。
「うるせぇーな。タトゥーラーだからなんだってんだよ!!」
睨みながら怒鳴りつける…。女の子は一瞬で怯んでしまった…。
「なんだよ!!悪魔の子!!」
「おまえらなんか死んじゃえー」
男の子達は負けじと言い返す。
「じゃー殺してみろよ。この場で俺らを消してみろよ!!やれるもんならな」
超自信満々に言う。さすがの男の子達も、少し怯んでしまう。
「けっ」
そう言って私達を睨む…。
「なんだよ…やるってのか…」
こっちも負けじと睨み返す。
「やめようよ…。タトゥーラーってすごい力を持ってる、って聞いたよ…」
恐れをなした子が、先頭の子を止める。
「ちっ、覚えてろよ!!」
そう言って逃げ出していった。
「けっ。誰が覚えてるかよ!!…大丈夫か?」
そう男の子は、私を心配する…。
「…」
私は、俯いたまま黙っていた。
「リエル?大丈夫か?あいつらに何かされたのか?」
心配した彼が、私の顔をのぞき込む…。
「…リエル…。何泣いてんだよ…」
そう、私は泣いていたのだ…。あいつらもいなくなって、彼がいてくれて、安心できた。そう思ったら思わず涙が出てきてしまった。
--このときの私は、すごく弱かった…--
「ひっく…」
私は、何も答えず泣き続ける…。顔を押さえたまま。困った彼は、私をそっと抱きしめた。
「泣くなよ…大丈夫だから…。次は必ず守る…。もう大丈夫だ…」
そっと私に囁きかける。
「ど…うして?」
私は精一杯喋ろうとする。
「え?」
上手く聞き取れなかったのか不思議そうな声で言う。
「どうして…どうして?私は、生まれてきちゃいけないの?私は…悪魔の子だから…生まれてきちゃ、いけなかったの?この世に、いちゃいけないの?」
私は彼の服をぎゅっと掴み、震えながら彼に問う。
--さっき言われた言葉が、離れない…。『おまえなんかいなくなっちゃえ』『おまえは生まれてきちゃいけないんだ』どんなに忘れようとしても、こびりついて離れない…。いつまでたっても、頭の中で繰り返される…いや…やめて…--
「生まれてきちゃいけない奴なんていない!!だって、俺らはここにいるじゃんか…」
震える手を、そっと握りしめてくれる。
「…」
私はそっと顔を上げた。
「俺、生まれてきちゃいけない者は、最初から生まれてこないと思う…」
「…」
--このときの私には、よく分からなかった言葉…。きっと彼自身も、よく分からずに言っていたと思う--
「でも、俺達はここにいるじゃん。この世に生まれてきてるじゃん。俺らは、生まれてきちゃいけない奴じゃないんだよ」
自信満々に私にそう言う。
--あの自信はいったいどこから来るのか…--
「本当?」
そこで、やっと口を開く、私…。
「おう。でもここには、俺達の居場所がないだけなんだ…。帰ろう…俺達の居場所へ…」
そう言って、私へ手をさしのべる。
--この手を覚えている…。いつも、私を引っ張っていってくれる手…--
「ほら」
彼が再度私へ手を伸ばす。
「うん」
私は、嬉しいそうに彼の手を取った。
--いつも、私の先頭を歩いて、私を引っ張っていってくれたその手…。私は、いつも彼の背中を、追いかけてた…。そして--
--あの時から、6年という月日が、今は流れている…--
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