上空にうかぶ2つの建物。2つは常にゆっくりとうごいている。1つは”Castle”(キャッスル)という名の魔術師育成学校。もう1つは”fort”(フォート)という名の悪組織のアジトだ。この2つは昔から対立し続けている。
☆ ☆ ☆
ここは”castle”。地上から魔術師を目指す人々が毎年春にやって来る。今はちょうどその時期で、たくさんの人が”castle”行きの乗り物に乗ってあがって来た。
「あ、トアッちょっと…。」
よびとめられたトアは15歳の少年だ。学校生活も、もう長く、成績バツグンの優等生である。
「なんですか?師匠。」
彼の師匠は話し始めた。
「今年の新入生の最年長がな、おまえと同じ15歳なんだ。で、その子をおまえの弟子に入れさせようと思うんだが、どうだ?」
「…えっ?」
トアはきょとんとした。すばらく沈黙…。
「ええー!?」
やっと理解したトアは大声をあげた。
「…っつーことはなんですか、俺先生になんの??」
「そゆことだ。」
トアは目を輝かせた。15歳で先生になるのはすごいことだ。
「でもおまえの修行も続けるんだぞ。」
「…あ、そーですか。」
「なんせこの学校は15年生だからなぁ。」
「…あと5年か…。」
「で?OKなんだな?」
「え?何が?」
「…(汗)弟子だよッ。」
「あ!ハイ!!もちろんです。がんばります!!」
トアの胸は高なっていた。自分が弟子をもつなんて考えもしなかったからだ。
「あ でも同い年の弟子か…ヘンな気分(汗)」
とつぶやいた。でもトアはそれだけの能力をもっているのだ。生徒の間では
「見ためカワイイのにきれるヤツ」と有名人だ。…優等生は有名人か…。…そう見ためは童顔なのだ…。
☆ ☆ ☆
数日後、新入生は入ってきた。みんなさっそく師匠の所へ行った。そしてトアの前にも、弟子になる人が…。「はじめましてッ エルナ15歳です よろしくお願いします!」
元気よくおじぎしたのはまたまた童顔の少女だった。トアはびっくりして固まった。男の子だと思っていたから…。女の子でも別におかしくはないのだがトアはなんとなく同性をイメージしていた。
「あっ えとどーもはじめまして…。トアです。」
「ト…トアさん…ですかよろしくぅー…。」
エルナは緊張しながら微笑んだ。
(…なんかかわいいし(汗))と互いに思った。
「な…なんて呼ぶんでしょーかねぇやっぱししょー…ですか?」
「う、うん。そーだね。でも敬語じゃなくていいから。」
「あ、ハーーーーーイ師匠!」
「…てれるなぁ(汗)」
「何言っとんすか 師匠!」
「ぷっ…くくく(汗)」
「笑ってんですか 師匠!?」
漫才を始めてしまった2人だった。2人は仲良くできそうと安心した。
☆ ☆ ☆
この学校は全寮制である。(あたりまえ)寮は2人部屋。エルナのルームメイトは15歳のルーラだった。
「師匠はどーだった?」
「楽しー人だったよ、なんか。」
「へー…くすくす。天才はどこかおかしいらしいからねー。」
「え?天才なの?師匠って。」
「だって15歳にして師匠よ?みんな天才だって言ってるよ。」
「すごいんだぁ 師匠…。」
そのころトアも部屋に帰っていた。トアのルームメイトも15歳で名前はアタキ。
「どーだった?弟子は。」
「…女の子だった。」
「おや。かわいい?」
「まぁ…けっこう。」
「いいなーーーーーーー。」
「やりにくいよあんな子が弟子だなんて(汗)」
「ビシバシできないもんなぁ。」
「俺はスパルタじゃねーよ(怒)」
明日からさっそく授業が始まる。トアもエルナもきんちょうしてなかなかねつけなかった。
☆ ☆ ☆
次の日、授業が始まった。
「えっと専門は風でいいんだよね?」
「うん。師匠風でしょう?」
「じゃ まず風吹かせてみよっか。」
「ハーーーイッ!」
「手をこう…。」
「こう?」
模範演技をするトア。手を前に出すとその手から風がおこった。
「わかった?」
「わ…(汗)わっかりましぇん(汗)」
「んー(汗)とにかく念じるんだ。集中して…。」
「はいぃ。」
エルナは手を出し、目をとじた。
「風よ吹けーー。吹いてーーー。」
ぶつぶついいながらゆっくり目をあけ、気合いの一言…。
「はぁっっ!!」
すると、
『ヒュルルーーーーー』
と 微妙な風が吹いた。しばらく固まった2人。
「今のでいいの?師匠。」
「う…(汗)うん。はじめてにしては…いーんじゃない?」
「でも今のって風って言えんのかなぁ…。」
「まぁ ぼちぼちだよッね。」
くらくなるエルナを必死でフォローするトア。少しずつ彼の脳裏の入学したての頃がよみがえった。
「…エルナはなんで入学したの?しかももう15歳…。」
「あ…んー。けっこう前から魔術師ってあこがれてたんだけど…あたしにはムリかなって思ってて。ちょっとあきらめてたんだけど…やっぱあきらめきれないじゃん。そしたらこのあいだ…あのニュース聞いて…。」
「…ニュース?」
「うん。ホラこのあいだ、旅をしていた気球が、燃料切れになっちゃって墜落しそうになった時、”castle”(ココ)の生徒が風をあやつって助けたってやつ。」
「あ…っ。」
その生徒とはトアのことだった。その出来事で、トアは学校中の話題の人物になった。地上でも話題だったなんて…トアははずかしくなった。
「しかもその生徒ってあたしと同じ15歳らしいし、すごいなーってすごくあこがれちゃって…。そんで入学決めたの。」
「そ…そーなんだ。」
「でもその生徒誰なのかは知らないんだよね。」
「あ…と。」
トアはなぜか自分だと言いだせなかった。自分がそんなすごい人だと自覚していないから、だからトアははずかしくて…。
「師匠っていつから修行してるの?」
「え。あ…5歳の時。」
「じゃ もう10年?どうりですごいワケだ。」
「すごい?…すごいの?」
「ルーラとかみんな天才だって言ってたよ。」
「…天才なんかじゃ…っ。」
「この学校15年制だもんね。長いよねー。あたしなんて30歳までいなきゃなんないし。」
「…。」
トアは天才といわれるのがイヤだった。
「俺はすごくなんかないよ…。」
☆ ☆ ☆
「師匠?どうかしましたか?」
「え?ああ いや…。」
エルナの授業を終わらせて自分の修行をしていたトアが動きを止めて師匠にたずねた。
「ボーッしてましたよ。考え事ですか?…また何かあったとか?」
「…相変わらず察しがいいなおまえは…。」
「生徒に言えないことならいいんですけど。」
「…いや本当は生徒にも伝えなきゃいけないんだが…。」
「え?」
「いいか?誰にも言うんじゃないぞ。実は…。」
師匠は真面目なカオで話し始めた。おもわずトアも真面目なカオをした。
「おまえ”fort”って知ってるだろ?」
「ああ、ハイ。あの悪組織の…。」
「以前から仲悪かったんだが…、最近ますますむこうが敵視してきてな…。」
「…。」
仲が悪いのは誰もが知っていた。いつか戦争でもおきるんじゃないかと、ほとんどに人はそう感じていた。
「いざとなったらおまえは戦力になるからな。期待しているぞ。」
「え…。は、はい…。」
☆ ☆ ☆
「期待されても困るよ…。」
部屋に戻りながらつぶやいた。でももし本当にむこうが宣戦布告してきたらしょうがないと思った。…だけど本当にそんなことが起きるのだろうか。
「あれ?」
トアは自分の部屋の前に人陰を見つけた。それは幼なじみのティトだった。
「よう。」
「ティト…何か用?」
「おまえ弟子もったんだってな。」
「ああ、うん。」
「さすが天才はちがうな、おまえってもう卒業してもいいくらいなんだろ?俺なんて落第寸前だってのに。」「落第寸前っ?マジかよ(汗)でもそれはティトが真面目にやらないからだろ?…それに俺は天才なんかじゃないおまえまでそんなこと言うのかよ…。」
「天才じゃないって言う奴ほど天才なんだよ…。」
ティトはそう言い残し、去って行った。部屋に入るとアタキが立っていた。
「あ…、聞いちゃった。」
「…いいよ別に。聞かれて困るわけでもないし。」
「トアってティトと幼なじみなんだっけ。あの問題児。あいつ落第寸前って本当らしいぜ、ロクに授業受けないんだって。」
「…。」
トアは無言でベットに入り、眠ってしまった。
☆ ☆ ☆
エルナは広場でルーラの魔法を見せてもらっていた。
ルーラは水専門の魔術師で、修行歴は8年。
「ハイ、水。」
ルーラの手が光り、水が溢れ出た。
「すっごぉーーーい。」
「うん。まぁ8年もやってるし、いちおう雨降らすぐらいは可能よ。…でも自然のことに手を出しちゃいけない…これが魔術の掟。自然界のバランスをくずしちゃいけないのよ。」
「…そーだよねぇ。私も立派な魔術師になっても竜巻き起こしちゃいけないわけだ。」
「あたりまえ。」
「どう?授業楽しい?」
「うんっ まだ自分が魔術師になるなんて信じられないんだけど、師匠もいー人だし・」
「でも同い年の師匠ってイヤじゃない?」
エルナはきょとんとした。
「どーして?べつにイヤじゃないよ、ソンケーしちゃう。」
「…ならいーけど。あんたって純真よね…。」
「…?」
エルナはふと空を見た。
「月が近いね…。」
のみこまれそうな月明かりの中 生徒たちはみんな眠りについた…。
第1章 おわり
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