「上達したなぁーエルナ。」
「師匠の教え方が上手いからだよ。」
エルナはにっこり笑った。エルナの入学から、はや一週間が経っていた。極フツーの、穏やかな日が続いていたが、”fort”との仲はかなり険悪になっていた。それでもまだ生徒に知らされることはなかった。トアは、いつ知らせるのかとちょっとイライラしていた。
「ねぇ師匠?師匠はなんで魔術師になったのか・・・って教えてもらってなかったよね。」
ひと休みしようと塀に寄り掛かった時、エルナがたずねた。
「え…。」
☆ ☆ ☆
その頃、ティトの師匠がティトを探していた。そこへアタキが通りかかった。
「あ、君はアタキ君じゃないか、ティトを知らないか?」
「知りませんけど・・・、またサボりっすか?」
「あぁ、まったく困った奴だよ。」
☆ ☆ ☆
「ねぇーーーーーおしえてよ、ししょーーーーーーお!」
「うっうるさいッ(汗)」
「もしかして、わからないの?」
「…。」
問いたてられたトアは黙り込んだ。エルナはふくれた。
「目的ないの?師匠には…。」
「…おぼえてないよ、入ったの小さい時だから…。それに…」
「それに?」
考えたことなかった。トアはそう思った。でも入学した頃、確かにトアには目標があったはず…、忘れてしまったのだ。
「〜っ!休憩終了!!」
「えっもう!?」
「はい、次はさっきより強い風おこそう!どーぞ!!」
「どどどどどおぉぞって言われても困るよ師匠!!(怒)」
☆ ☆ ☆
”castle”の中枢は職員室になっていた。教師達は”fort”のことで、話し合いをしていた。もう戦争か、と誰もが思った。そして戦力をどうするかと話し合った。
「基本的には、我々が戦いましょう。生徒からは優秀な生徒だけを出し、他の生徒はなるべく巻き込まないことを考えたいです…。」
☆ ☆ ☆
「あっおいトア!」
「師匠?何ですか?」
「ちょっとこっち来い。」
トアは人気(ひとけ)のない廊下の隅に連れて行かれた。
「師匠、なんで”fort”とのこと生徒に教えないんですか!?」
「おまえは人がしゃべる前にしゃべんなっ(怒)…いや、そのことなんだが…生徒達には言わないってことになったんだ。」
「え!!なんでですかっ!?もがっ」
トアが大声を出したので師匠はあわててトアの口をふさいだ。
「大声出すなっ(汗)」
「でっでも教えないでどーすんですか。…戦争しないんですか?」
「…。いや…戦争に…なるだろうな。」
「じゃどーして…っ(汗)」
「生徒を巻き込みたくないんだよ…(汗)なるべく…。」
「そんな…っ!せいとをまきこまない…って、そんなことできるんですか?」
「…教師と数人の優秀な生徒で戦う。おまえも…よろしくな。」
師匠はそういってトアの方を軽くたたき、行ってしまった。トアはボーゼンと立ち尽くした。
「そんなの…無理だよ…(汗)」
☆ ☆ ☆
次の日、いつもの練習場所にすごく強い風が吹いた。
「うわっ!?」
「うひゃーーー。。」
トアとエルナは吹き飛ばされ、しりもちをついた。
「きゃははははは、すごいーーー?師匠ーっ!」
「す、すごいすごい(汗)上達早いなー。」
「えへへへ、うれしーなー。これでもうあたし、立派な魔術師?」
「いや、気も早いなー。」
「え"?」
「今のはちょうど同時に本物の風が吹いたからかも知れないだろ?」
「そんなことないと思うけど?」
エルナは不満そうなカオをした。
「とにかく、風おこせたんだから今度はもっと高度なことやってかなきゃならんでしょ。そんな簡単にマスターできないもんなの。」
「そっかーそーだよね。」
「それに君、まだ入学して一週間とちょっとでしょ(汗)これからまだ15年あるんだよ?」
「うひゃあー(汗)そーだよねぇ…。」
「…ちょっと休もうか。」
2人は建物の影に腰をおろした。辺りは嫌な感じの風が吹いていた…。
(戦争…いつしかけてくるかな…)
トアは遠くの空を睨んだ。敵の館”fort”も、この空のどこかにいるのだ。
「師匠?…どうかしたの?」
エルナがトアの顔をのぞいた。
「え!?いや?別に…(汗)」
トアは慌てて言った。
「そう?…なんか師匠最近ボーッとしてない?何かあったんなら教えてよ…。」
エルナは心配そうに言った。
「エルナには関係ないことだから…。」
トアは少し微笑んで言った。エルナは顔を曇らせた。
「それでもあたし…師匠の力になりたいよ。師匠はあたしに魔法教えてくれるけど、あたしは師匠に何もしてない…、だから力になりたいの。だって、あたしの師匠なんだもん…。」
「んなっ…何言ってんだよおまえ…(汗)ほっほら、練習!!」
「はーい。」
☆ ☆ ☆
「た…たいへんだ!トア!」
「なっなんですかっ?(汗)」
トアの師匠が走って来て言った。
「ティト君が”castle”を裏切って”fort”に行った…。」
「え…!?(汗)」
トアは驚いて固まった。
「え…どーして…(汗)」
「なんだか…前から誘われてたみたいだ…。それで今日、いきなり退学届けを出してきて”fort”に行く…って…止めようとしたらもう…いなかったらしい…(汗)」
「そんな…(汗)」
(うそだろ?…ティト…ッ(汗))
トアは親友のティトの性格はよくわかっていた。確かにティトは、ときどき何考えてんのかわからなくて、いきなり人のこと平気で裏切ったりするやつだ。…でもトアは裏切られたことなんてなくって・・・今までずっと仲良しだったのに…。
(”castle”を…俺を裏切って”fort”に行った…?マジかよ…ティトのやつ…(汗))
トアの頭は混乱していた。トアは必死で頭の中をまとめようとした。そしてふと気がついた。”fort”がティトを手中にしたってことは、戦力にして”castle”(うち)と戦うってことだ…。相手は本気なのだ。(でもティトは授業サボってロクに修業してない落ちこぼれ…。なんで”fort”は力のつり合いそうにない問題児を誘ったか…?…ティト(あいつ)もしかして…)
☆ ☆ ☆
トアは部屋に戻った。アタキはもう寝ていて、トアは少しほっとした。戦争のことも、ティトのことも、普通の生徒には内緒・・・。でも、気さくに話しかけてくるアタキに、トアはごまかす自信がなかった。トアの頭の中はもう真っ白にちかかった。トアはそのままふとんに入った。
☆ ☆ ☆
「おっはようー師匠!。」
エルナが元気いっぱいであいさつした。
「え、あ、おはよ…。」
「どこ行くの?」
「ん、ちょっと職員室…。」
「よびだし?(笑)あ、職員会議??師匠、先生だもんね。」
「いや、よびだし(汗)」
「あそ…そっか、師匠、生徒だもんね。」(どっちだよ)
「うん、じゃーね。」
トアは軽く手を振った。それにエルナは思いっきり手を振り返した。
☆ ☆ ☆
遠くでかすかに爆発音が聞こえた。それを聞き付けたトアは慌てて外に出た。すると、黒い影が次第に近付いてくる。”fort”だ、と確信したトアは、急いで職員室に駆け込んだ。
「師匠!!”fort”が…っ!」
さっきの爆発音は宣戦布告の空砲の音だった。”fort”はぐんぐん近付いてきて、職員室の機械に通信してきた。その通信は決定的な宣戦布告の言葉だった。
「パーティーに召集をかけろ!!」
『ズドーンッ』
魔法弾らしきものが打たれた。”castle”の屋根をかすり、建物全体が大きく揺れた。一部の教師とパーティーの生徒たちが外へ出て応戦を始めた。この騒ぎに一般生徒が気付かない訳はなく、混乱状態に陥っていた。トアは我慢しきれなくなって放送機材に手をかけた。
「おいトア!何をする気だ!?」
トアの師匠が声をあげた。トアは言った。
「この事態を知らせるんですよ!」
「やめろ、そんなことをしたら・・・っ」
「巻き込ませたくないんだったら、ちゃんと説明しなきゃ、かえって危険でしょう!?」
トアは放送のスイッチを入れた。
「・・・みなさん、きいてください・・・。」
☆ ☆ ☆
「そんな怖がらなくても大丈夫よ。」
縮こまるエルナにルーラが声をかけた。
「となりいい?」
エルナは顔を挙げてルーラを見てうなずいた。
「いきなり戦争始まったって言われても困るよね。まぁ私たちの安全は保障してくれるらしいし、そんなに緊張しなくてもいいんじゃない?」
「…でも…さっきの放送…師匠の声だった…。」
エルナは泣きそうな声を出した。
「師匠は危険な目にあってるんだよ、きっと…。」
ルーラはため息をついた。
「またトアですか。」
「え?」
「気付いてた?あんた毎日毎日私にトアのこと話すの。師匠がね、師匠がね…って。よっぽどトアのこと好きなのね。」
エルナは顔を赤くした。
「…そーだよ…。だってあの人は…。」
『ドーンッ!』
すごい爆発音がした。エルナとルーラは慌てて窓の外を見た。外には煙りがまき上がっていた。
☆ ☆ ☆
「トア!ケガ人続出…ッ、もう戦える人はわずかだ…。」
師匠が深刻な顔で言った。トアは中のことを頼まれていたので、まだ外には出ていなかった。
「そんなに強いんですか、向こうは…。」
「いや…五分五分って感じだが…トア頼むっ…。」
トアは真剣な表情(かお)でうなずいた。
「わかりました…っ。」
トアは走り出した。職員室を出て外へ向かった。途中、寮に差しかかった所で呼び止められた。
「師匠!!」
「…エルナ…ッ?」
第2章 おわり
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