グリブル小説「クリスマスバトル 後編」
 

 

クリスマスバトル 後編

 

「大丈夫だって!いざってときは泣き落としでもしてみたら?」
「……そうよね!そうなのよ!!涙は女の武器よ!あたしの涙で落ちない男なんかいないわ!!見てなさいよ、グリーン。絶対落とす!」

そう意気込んでいたあたしはどこへやら…。
結局あたしは、ここですでに逃げ腰だった…。

 

 

「…どうしよう…」
ジムの前で立ち往生して早数十分。

だって、喧嘩した手前、今更「手伝いに来たの!」なんて笑顔で言えるわけないじゃない。
まぁ、グリーンは喧嘩したとは思ってないだろうから、普通に受け入れてくれるとは思うけど…。
っていうかそこがむかつくんだ。
こっちが必死に悩んだり、苦しんだりしてるのに、あいつはたった一言で一刀両断するんだ。
喧嘩してると思いきや、「そうだったか?」とか忘れてるし。
「あたし怒ってるんだけど?!」って言えば、「何に?」とか平然とした顔で聞いてくる。
こっちはあーでもない、こーでもないといろいろ考えているというのに!!

「…考えたら腹立ってきた…」
あたしほんと、なんでこんな奴好きなのかしら…。
「何をジムの前で百面相してるんだ」
「きゃああああああああああああ?!」
立ち往生中、頭の中で試行錯誤していたら、問題の張本人が現れたのだ。
驚かざるにはいられないだろう…。
「……うるさい」
彼はしかめっ面を浮かべ、そのままドアを開けっ放しでジム内に入っていく。
「…っ…ちょっグリーン?」
ドアを開けっぱってことは、入ってOKってこと?

あたしは仕方なく、おそるおそるジムに入っていく。
ここは裏口だ。
ジムリーダーの控え室と、さらに奥が書庫室になっている。
この控え室にいないということは、奥の書庫室で片付けでもしているのだろう…。

「…はぁ」
緊張していた体をほぐし、ため息と共に肩の力を抜く。
まずは、ジム内に入るという第一関門はクリアだ。

部屋内は殺伐としていた…。
町やそこら中は、クリスマスだと大騒ぎしているのに。
恋人達は、今日というイベントを共に過ごしたりする。
家族は、ごちそうを食べたり、楽しく会話をしたりする。
子ども達は、サンタを信じて、あれが欲しいとか、これが欲しいとか相談したりして。
楽しい笑い声が聞こえてきそうなくらい、周りはクリスマス一色だと言うのに、この部屋はなんなんだろう…。
クリスマスのクの字も感じられない、殺伐とした部屋。
置いてあるのは、クリスマスツリーには似ても似つかない本の山だ。

「……」
自分が黙れば、時計の音しか聞こえない、そんな沈黙の空間。

本当は、こんな焦臭い場所じゃなくて、彼の家で、ナナミさんに教わった料理を披露して、いろんな話をして、くれるはずのないプレゼントに期待を馳せたりして。

クリスマスを二人で、ほんとは楽しく過ごすはずだったんだ…。
ほんとは……。

「っ…」
妙に空しくなった…。

実際は、グリーンはただジムの片づけをしてるだけで、あたしの相手なんか、何一つしてはくれない…。
しかも、邪魔だと追い出すわけでもなく、手伝えと言うわけでもない。
今あたしは、そんな妙な優しさの中にいる…。
それがあたしを傷付けていく…。
あたしの期待を崩されて、本当は怒って、怒鳴ってやりたいくらいなのに、そんな、妙な優しさが、あたしの怒りを流していく…。
いっそのこと、冷たくあしらわれた方がましなんじゃないだろうか…。
ただ何も言われずに、放っておかれる方が、よっぽどつらく感じてしまう…。
でも、この状況を…どうすれば変えられるの?

「おまえ、何か用でもあるのか?」
「!?」
そんな沈黙を破ったのは、彼の声だった…。
「…」
声のした方を向けば、彼が本を持って、あたしの傍に立っていて…。

 

 

 

 

「……っ」
あたしは、なんでか…涙が頬を伝っていた…。

「えっ!?なっ、なんで泣いて…」
彼はあたしの涙を見ると、びっくりして慌て出す。

自分でも、なんで泣いてるのか分からない。
ただ、涙が出てくるんだ…。

今日ここに来たのは、嘘泣きでグリーンを落として、クリスマスを一緒に過ごそうというのが目的だったはずなんだ…。
なのに…マジ泣きするなんて、あたしの予想範囲外だ…。

「ぶ、ブルー?」
泣きやむ気配のないあたしを、どう扱って良いのか困る彼。

自分だって、どうしたらいいのか分からない…。

一緒にいるから、淋しくなんかないはずなのに…。
話しかけてきてくれたんだから、忘れられていたわけでもなかったのに…。
こうやって、泣いても心配してくれてるんだから、邪見にされてるわけじゃないのに…。
分かってる…分かってるのに…なんだか淋しくて…苦しくて…切なくて…。

なんでか…………泣けた…。

 

「…はぁ」
彼は手に持っていた本を、おもむろにテーブルに置き、近くの椅子にどかっと座り込む。
「…怒ってわめいてくれた方がまだいいんだが…」
泣かれてはどうしようもできん、とぶつぶつ言いながら、彼は頭を抱えた。
「…」
そんなこと言われたって、自分の意志で泣いているわけではないのだから、どうしようもできない…。
「泣くなよ…」
彼は困ったような表情を浮かべ、あたしの頬に手を伸ばす。
あたしはその手の暖かみに、余計に涙が溢れた。
「泣きたくて泣いてるんじゃないもん…」
「じゃあなんで泣いてんだよ…」
いつまでも泣きやまないあたしを、優しく撫でて落ち着かせてくれる。

その優しさが、余計にあたしを泣かせているのだ…。
でも、撫でられてるのが嬉しいのも事実で、なんだか複雑。

「分かんないからどうしようもないんじゃない…」
分かったら泣きやんでるわよ…。

そりゃ、これが元の目的なのは確かだ。
でもマジ泣きするなんて思ってなくて、自分でもどう対処して良いか分からないのだ。

「…はぁ…悪かったとは思ってるよ…」
彼が渋々何か話し出す。
「は?」
あたしはその会話の流れに付いていけずに、涙を拭いながらすっとんきょんな声を出していた。
「クリスマスに仕事を入れたこと…」
「…」
あぁその話か…。

彼は、あたしが今泣いてるのは、そのことでだと思ったのだろう…。
実際はそれが原因なのだろうけど、本当は何で泣いてるかは、あたしにも分からないままだ…。

「…悪かったとか、グリーンでも思うんだ」
口をついて出るのは可愛くない言葉ばかりだ…。
こういうときくらい素直になれればいいのに…。
「どういう意味だよ…」
彼は顔をしかめる。
「ありえないなぁーって」
「失礼な奴だな!!」
ったくっと彼は視線を逸らした。
「だってさ、あたしのことなんか、どうでもいいんだって思ってたから…」
ぐいっと自分で涙を拭う。
「そういうわけじゃっ!!っ………」
自分が言った台詞が恥ずかしかったのか、彼は顔を真っ赤にして口元を手で押さえた。
「……うふふ」
彼の真っ赤な顔に、思わず笑いが込み上げてしまう…。
「……」
彼は罰が悪そうな表情を浮かべ、耳まで真っ赤にしていた。

涙はもう出ない…。
だって、あたしのこと、少しは見ていてくれてるって分かったから…。
今はそれでよしとしてやろう…。
これからもっともっと、あたしだけしか見えないようにしてみせるから…。

「ねぇ、片付け手伝ってあげようか?」
そう言って、そっと彼に抱きつく。
「わっ?!…え?」
慌てて彼は、あたしを抱き留めてくれた。
「そのかわり、夜はずーーーーっと一緒にいてね?」

このブルーちゃんが手伝ってあげるんですもの。
それくらいは当然でしょう?
ねっ?

彼はやられた、と言わんばかりに、思いっ切りため息をついていた…。

このクリスマスバトル、あたしの勝ち!

 

2004年12月25日 Fin


あとがき

えぇ、ごめんなさい(汗)あははは。何がしたかったって?いや、姉さんの不安を全面に出して、でも姉さんは強いのよ!と言いたかっただけです。
泣きながら結局強かったですしね。なんかあれは、姉さんが思ってるよりも、ずっとずっと、いっぱい傷ついていたんですってことで。で、兄さんはそれを分かっちゃったから受け入れたみたいなね。本人が分かってないんですが。まぁハッピーならいいんじゃないかなぁ(えぇ)
なんかバイトで一生懸命考えたのではちゃめちゃなとこ多いですが、そこらへんはブルーらしさとして受け取っていただければ嬉しいかと。兄さんはこうやって姉さんに振り回されていく。あはははは。頑張れ兄さん!明日があるさ!!(明日も大変だったりして(死))
クリスマスバトル。名前は適当。考えたら一発で浮かんだからそのまま採用。あんまり意味を成してないですが、頑張ったんですってことでね。