レイエ小説「クリスマスツリー」
 

 

クリスマスツリー

 

「うっわぁーレッドさん!すっごい人ですね!」
人が群をなす広場を、嬉しそうに見てはしゃぐ彼女。
「イエロー!あんまはしゃぐなよ」
思わずその可愛さに、笑みがこぼれた。
「きゃあっ」
言わんこっちゃない。目を離せばすぐ人混みにさらわれてしまう。
「イエローっ!」
ぐっと手を引っ張って自分の方に寄せた。
「あっ…す、すいません」
彼女は少し恥ずかしそうに笑みを浮かべる。

ここは、カントーでも有名なクリスマスのデートスポットだ。
ブルーが二人で行ってくれば?と紹介してくれた所。
まぁ、予想通りというかなんというか、どこを見てもカップルだらけで。
かく言う俺らも、そのカップルの1人なんだろうけど。

「あ…あの…レッドさん?」
繋がれたままの手に疑問を抱いたのか、彼女が恥ずかしそうに俺を見上げる。
「…ん?」
俺は、何が言いたいのか分かっていながらも、普通に答えを返した。
「…あの…手…」
それを言うだけでも恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして、人混みに紛れてしまいそうな声で、イエローが囁く。
「…イエロー、すぐ迷子になるからなぁ」
保険ってことで、と手をぎゅっと握った。
「なっ!?子どもじゃないんですから大丈夫です!!」
頬を膨らませて怒る彼女は、ほとんど子どもに近い。
「はいはい」
軽くあしらいながら、それでも可愛いと思う俺は阿呆だろうか。
もうっ!とイエローは怒るが、繋がれたままの手を見ると、どうやら俺の勝ちらしい。

そのまま人混みをかき分けて、メインの場所へと向かう。
周りの木々には、たくさんのイルミネーションが施され、赤、緑や青と電飾が光っていた。

「綺麗ですねぇ」
辺りをきょろきょろと見渡して、電飾並に目を輝かせる。
「…そうだなぁ」
最初はめんどくさいとも思っていた俺だが、彼女をここに連れてきて良かったと、笑みがこぼれた。
「あ、あれですか?ここのメインのクリスマスツリー」
ここのメインは、この先にあるクリスマスツリーだ。カントー1のクリスマスツリーだと宣伝していただけあって、まだここから遠いながらも、雄々しくそびえ立っているのが見える。
「あぁ」
俺も同じように、正面を見た。
「…すごいですね」
遠くからでも分かるくらい、周りの街灯に負けないくらいの電飾が光る。
「…あぁ」
近くに行ったら、眩しそうだ、思ってしまう自分は、ここには相応しくないだろうか。
「ブルーさん達も、来れれば良かったですね」
残念そうに俺を見上げてくる。
「…まぁ、グリーンじゃこの人混みはつらいだろうしなぁ」
人混み嫌いのあいつに、ここは吐き気がするだろうな。
きっとそれを分かってて、ブルーは来ないで、俺たちに教えてくれたんだろうけど。
「…そうですよね。しかも仕事だって言ってましたし」
ジムの仕事に、クリスマスも関係なし。
「ブルーが嘆いてたよ」
グリーンってばひどいのよ!!っと昨日相談してきたブルーを思い出して、少し不憫に思えた。
「…なんか、こんなにはしゃいでるのが、申し訳なくなってきました」
しゅんっと落ち込みだす。
「ブルーがここを教えてくれたんだ。楽しんでこいって意味だろ?あの二人の分まで楽しまなきゃそれこそ申し訳ないさ」
彼女を元気付けるように、なんだか語ってしまう。
「そ、そうですよね!帰ったらどんなだったか教えてあげなくちゃですよね!」
「いやそれは辞めた方がいい」
「え?なんでですか?」
こういう所は至極天然だなぁと思ってしまう。
「なんででも」
そんな自慢するみたいに言ったら怒られるって。
「…そうなんですか?」
ん?っと彼女は首を傾けた。

彼女の場合素だから困る。
ブルーもそんな話を彼女から聞こうもんなら、行き場のない怒りを感じることだろう。
そのしわ寄せを俺が受けるから、勘弁してくれ。
たとえグリーンにそのしわ寄せが行ったとしても、その八つ当たりに俺が使われるんだ。
あぁ、俺不憫。

「さぁ行こう」
そんな思いを振り切るように、少し歩くペースを速めて、クリスマスツリーに近付いた。

「うっわぁーすっごいですね!!」
クリスマスツリーの目の前まで来て、イエローが歓喜の声をあげる。
「すげぇーなぁ」
さすがの俺も、迫力のすごさに声を漏らした。

目の前に広がる大きなクリスマスツリー。
電飾の数も半端ではなく、遠くから見るよりもずっとすごい。
でもやっぱり眩しくて、目が慣れるまでに時間が必要だった。

「なんか、願い事つるしたくありません?」
くすくす笑って、そんなことを言い出す。
「それは七夕だろう?」
これは笹じゃないよ?
「そうなんですけど、でもクリスマスツリーに願い事と靴下をつるすと、サンタさんが願いを叶えてくれるって言うじゃないですか」
あぁ、そっちか。
「まぁそうだけど、でもなぁ」
このクリスマスツリーに願い事つるしたら、なんか恐ろしいことになりそうな気がする。
「あはは、冗談ですけど」
そんなことを言いながら、彼女は笑った。

それからしばらく、クリスマスツリーを眺めては、他愛もない話をしていた。
でもそのうち、上ばかりを見すぎて、首が痛くなった。

「あっ」
イエローが突然、下を向いてしゃがみ込む。
「ん?」
しゃがみはしないが、イエローと同じく、下を見た。
「見てくださいよレッドさん!」
彼女は嬉しそうに、木の根っこを指さす。
「ん?」
何を見せたいのか分からず、ただその指をさされた方を見た。
「…木ってすごいですよねぇ。こんなコンクリートで覆われた所でも、しっかりと根を伸ばして、コンクリートを押し上げちゃうんですから」
そう言いながら、嬉しそうに微笑む。
「……ぷっ…あははは」
思わず、彼女の言葉に笑いが止まらなくなった。
「えっ?れ、レッドさん?どうしたんですか?」
なんで俺が笑うのか分からないのか、きょとんっとした顔が、俺を見る。
「いや…イエローらしいなって思ってさ」
普通こんな所に来て、上のクリスマスツリーの飾りを見ずに、下の根を見る奴は早々いない。
でも、イエローならやりかねないと思ってしまう。
「え?何がですか?」
俺が何に笑ってるのか分からないのか、立ち上がって首を傾げた。
「普通さ、ここに来て下の根を見る奴はいないぜ?」
くっくっと笑いをこらえる。
「えっ!?あ…す、すいません!」
真っ赤になって謝るイエロー。
僕、すっごく雰囲気壊しちゃいましたよねぇ、とぶつぶつと悔いるように呟いた。
「いや…イエローらしいよ」
なんだか嬉しくて、笑みを浮かべてしまう。
「…ほんとすいません」
火照った顔を押さえて、彼女は俺を見上げた。
「…今度は、自然の中のクリスマスでも探しに行くか」
イエローは、その方がお気に召すみたいだから?
「えっ!?あ、いえそんなつもりで言ったわけじゃっ」
「来年はさ」

また来年、クリスマスを一緒に過ごそう?
今度は、こういう人工的なクリスマスツリーを見に来るんじゃなくて、自然が作り出す、クリスマスツリーを見に…。

「………はいっ!!」
俺の言った言葉の意味が分かったのか、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

さて、来年までに、いいスポット探してこなきゃだ。

 

2004年12月24日 Fin


あとがき

思いついたから書いただけです。言っておきますが好きになったわけではありません(笑)まぁ結構うちにくる人は、レイエ好きも多いので、その方たちへのクリスマスプレゼントと言うことで。
私のイエローのイメージはこんなんですかね。天然な困ったさん。でも誰よりも優しくて、自然を大事にしてて。でもどっか抜けてて。子どもみたいにはしゃいで、迷子になりそうになって。でもしっかりはしていて。よく分からない子です。
レッドさんはもう少しかっこいい人にしたかったんですが、結局イエローにぞっこんなお馬鹿さんになってしまいました。あぁかっこよくレッドを書きたいなぁ。ああ。
こんな奴のレイエを読んでくださってありがとうございました。