グリブル小説「雨のち晴れ」
 

 

雨のち晴れ

「誕生日おめでとー!」
パーン!と耳に残る音がしたそれは、大量のゴミを撒き散らした。
「……」
言われた当の本人は、予想はしてたものの、そこまでとは、という顔をしている。
「…と、いうわけで、今日誕生日のブルーには、グリーンを今日一日プレゼント!」
「はっ!?」
彼女が驚く前に、まず俺が驚く。
「え…」
彼女自身は、さっきの驚きの顔を引き続かせた。
「ちょっと待て!?聞いてないぞ!」
そもそも彼女の誕生日が今日だということもぶっちゃけ今気づかされたんだが…。
「言ってないもん。これぞサプライズプレゼントさ!」
「プレゼントの俺を驚かしてどうする!?」
こういうものは前もって言っておくものではないのか?
そうすれば少しはましな準備をだな…。
「まぁ、そう硬いこと言うなよぉ〜」
「そう言う問題じゃなく、仕事は?!」

今更だがここはジムだ。
俺は仕事をしにここに来たのに、いきなり現れたレッドに続いてブルーが現れ、さっきのやり取りに戻るわけだ。

「そんなの俺が代わってやるから〜いってらっしゃーい!」
「おい!!……っ」
俺とブルーは裏口から外へ追い出される。
ブルーを振り返るが、彼女は始終ことの様子を驚いた様子で見ているだけだった。
どうやら彼女へのサプライズも成功したらしい。
俺は思わず、ドアに手をついたまま、その場に座り込みそうになった。
「…ったくあいつは…」
毎度毎度勝手なことばっかり。
「…いきなり呼び出されたから、何かと思ったんだけど…」
「…っ」
始終驚いていた彼女が、やっとこさ口を開く。
「プレゼント自身の本人に伝えてないのは、どうなのかしらね」
いたって冷静な彼女の対応に、俺は一瞬違和感を覚えた。

って、無駄に喜ぶと想像したわけではない。
断じてない。
断じてない…。
断じて……。

「…はぁ」
そう俺が考えを巡らせてる間に、彼女はマサラへの道を歩き出す。
「お、おい、どこへ行くんだ」
俺は彼女を引き止めた。
「…え?帰るのよ?」
彼女はさも当然かのように答える。
「え…」

あれ…。
このままどこかしこかへ連れていかれるのではないのか?

「…だって、あたしはレッドに呼ばれて来ただけだし。まぁレッドのことだから、なんか祝ってくれんのかなぁって予想はしてきたけど、こういうプレゼントで来るとは思わなかったわ。どうせグリーンは、あたしの誕生日なんて覚えてないと思ってたし」

 

 

 

「……っ」
微妙に、語句に怒りが見えるのは気のせいか。
実際怒らせる要素は多種多様にあると、今更ながらに気付く。
「…まぁ実際忘れられてたわけですが」
「…っ」
ぐさぐさと刺さるというのはこういうことを言うのだろうか…。
「まぁ、良い機会なんだし、休みでもとれば?」
「は?」
俺は、いたたまれなすぎて反らしていた目線を戻す。
「…せっかくレッドが仕事代わってくれるって言うんだし、久しぶりにゆっくり、休み取れるんじゃない?」
「…え」
ちょっと待て、何を言って…。
「じゃあね」
彼女は俺に背中を向け、道を歩き出した。
「おいっ!ちょっと待て」
俺は慌てて彼女の腕を掴む。
「…っ」
だが、彼女は振り返らなかった…。
「…とりあえず、いちおレッドはおまえのプレゼントとして俺を休ませたわけだし…」
「あたしは今日、グリーンに会えるとは思ってなかったわ」

 

 

 

 

 

 

ずきりと痛む音がする。
彼女の腕を掴んでる手のひらが、無駄に汗ばんでいくようで…。
こちらを向こうとしない彼女の想いが、はっきりと言われた言葉が、罪悪感にも似た思いになって、溜まっていく…。

そう思わせた、俺自身に…。

もともと、イベントごとを逐一覚えているタイプではない。
自分の誕生日ですら仕事をしていたし、レッドの誕生日ですら知りもしない。
その俺の性格を理解したがゆえに、彼女の考えがそこにたどり着いたのだ。
俺が彼女に、そう言わせたのだ。
俺が彼女に、甘えたばかりに…。

その言葉が、自分にこんな形で還ってくるなんて…。

「……」
俺は、謝ろうとして言葉を消し去る。
謝ってしまったら、彼女が悲しさに、寂しさに慣れていくようで…。
謝ったら許されるなんて、そんな簡単に済ませてはいけないようで…。
そんな…気がした…。

「…ちょっ!?」
「…」
俺は無言で、彼女の腕を引っ張って歩き出す。
「ちょっと!どこ行くの?!」
彼女は少し抵抗しながら、そう問うた。
「どこへでも」
俺はそう言いながら、彼女を引っ張り歩き続ける。
「ちょっ!?もういいって!!あたしは今日、グリーンに祝ってもらうつもりなんかなかったんだから!」
「じゃあなんで…」
俺は立ち止まって、彼女を振り返った。


ああ俺はいつも…

 

 

 

「…泣いてるんだよ」

泣かせるまで気づけない。

「泣いてないっ!」
彼女は必死に頭を振って否定する。
「泣きそうだよ…」
「だからっ!!…っ…え…?」
彼女が涙目で、俺を見上げてきた。
「俺が…」

実際、涙を流して泣くわけではないけれど…。
そんな純粋な想いなんか、プライドという名に、当に捨ててしまったけれど。

「どういう…こと…?」
「…」
俺は、答えられなかった。
「…っ!?」
俺は答えられない代わりに、彼女を強く、強く抱きしめる。
決して、離さないように…。

俺はいつも、離れられて気づくから…。
そこに、居なくなったことを。

寂しさに慣れて、俺に誕生日に会うと思わなかった彼女。
それはもう、誕生日に俺という存在を必要としなくなったことになる。

「…っ」
勝手な話だが、そう思ったら苦しくなった。
悲しくなった。
泣きたくなった…。
物理的にではなく、精神的に…。

それ以外にも、諦めさせてることがあるのだろうか…。
失ってしまったものが、あるのだろうか…。

今更、後悔しても遅いのだけれど…。

でも俺は、むしろ彼女の涙に安堵していた…。
あぁまだ、まだ必要とされているのだと…。

「後付みたいで申し訳ないが、今更、誕生日を祝ってもいいか?」
彼女の瞳に溜まった涙を、指で優しく拭う。
「……ほんと今更よ」
彼女は、俺の首に腕を回して抱きついてきて…。
「……誕生日…おめでとう…」
俺は、そんな彼女の耳元に、そっと優しく囁いた。


2008年6月1日 Fin


あとがき
姉さんが許したのは、兄さんが「泣きそうだ」と言ったセリフプラス、ほんとにそんなような顔を見せたからです。姉さんはずっと兄さんの弱いところを見たいと思ってたというか、自分に頼ってほしいと思っていながら、無駄にプライドやらが高い兄さんを崩せずにいたんじゃないかと思います。まぁだから、おおいに傷ついたけれど、姉さんも傷ついたかいはあったと。
今回は姉さんの誕生日の話なのに、姉さんを苦しめて兄さんを成長させる話になりました。あれぇ、おかしいなぁ。こないだダーリンとも、姉さんを好きになった兄さんみたいな話をしたがゆえか、こんな風に影響してくるとはおもわなんだ。うーむ。でも兄さんはこうやって気づいてほしいなとも思う。まぁそんな大幅には成長しないにしても、細かいイベントごとや、自分の誕生日は省みないにしても、彼女を大切にする想いは、今以上に増していってくれると思いたい(え)でもきっと自分の誕生日んときに、「一緒にいたいか?」くらいは聞きそう(笑)そして「あんたが一緒にいたいって思ってよ!」って怒られるといい(笑)そしてまた一歩成長するといいよ、兄さん!(笑)そんなお話でした(え)なんで姉さんの誕生日は毎度シリアスなのかな〜。あれぇ。大好きだよ姉さん!
タイトルは、姉さんの涙と、兄さんの心の泣きそうな想いと、結果による幸せとを例えまして。みたいな(ええ)珍しく最後までタイトル決まらなかった話でした。