誰かが言ってた…。
自分が生まれた季節を好むって。

でもそれは絶対間違いよ。
あたしはこの季節が大キライだもの…。


あなたのその優しさが…


「はぁ」
自分の誕生日もひと月ほど過ぎたある日、まだまだ気象庁は梅雨明けを宣言してはくれない。
案の定目の前には、雨が降っている。
なのに、あたしは傘を持っていない…。

だって!朝出るときは快晴だったの!!
暑いだろうと薄着で、日焼け止めまで塗ってばっちり紫外線対策までしてきたというのに、目の前には雨が降っているのだ…。

どういうことよ!

天気予報を見てこなかったのか、とか、降水確率をチェックしてこなかったのか、とか、またあいつにはいろいろ言われそうだけど、そんなもの見てる時間なんかなかった。
服選びと化粧に時間をかけて、あやうくバーゲンに遅れるところだったなんて、普通の女の子にはよくあることでしょう!!!

なんて、それでもこの梅雨時期に、折りたたみ傘さえ常備してないのは、普通の女の子としては駄目かしらね?
でもなるべくちっちゃいかばんで行きたいし、傘ってぶっちゃけかさばるのよね。
そういう面からも、梅雨なんて大キライよ!
体に張りつくようなべたべたさも、まるで水の中にいるような湿気のうざさも。

「はぁ」
雨は止む気配はない…。
買ったバーゲンの戦利品には、雨が降ってる時用のビニールがかぶせてはあるけど、それもどこまでもつんだろう…。

「はぁ」
雨と一緒に、ため息も止まない。
「何をしている…」

 

 

 

「え?」

 

この声は…

「何をしているのかと聞いてるんだが?」
あぁ、そうだ、その顔で言うのよ…。
「雨宿り…」
あたしはきょとんとした顔で答えた。
「天気予報を見てこなかったのか?午後から雨が降るだろうと言っていただろう…」
想像通りすぎて、笑いがこみあげる。
あなたは呆れた顔で、少し眉間にしわを寄せて、そしてため息をつくの。

本当にそのまま。

「何がおかしい」
あたしがそう思って、くすくす笑っていると、彼がさらに眉間のしわを濃くして、そう言った。
「…なんでもないわ。ねぇ、入れてよ!」
あたしはそう言って、傘を掴んでいない彼の腕に絡みつく。
「おまえは…。俺が通らなかったらどうするつもりだったんだ…」
そう言いながらも彼は、あたしを突き放しはせず、呆れながらも、傘をあたしの方に、少しだけ寄せてくれた。
「え?レッドにでも迎えに来てもらおうかなーって」
荷物持ちにちょうどいいし。
「なんでそこでレッドなんだ」
彼は嫉妬してくれたのか、むっとした顔を向ける。
「忙しいあなたは、なかなか捕まらないもの…」
「…」
そう言うと、彼は黙りこんでしまう。

少しいじめすぎたかな。

「行こう?」
そう言って、あたしは歩き出す。
「…」
彼は、そのままあたしに傘をさしながら、道を歩き出した。

「…それでね…」
あたしはいつものように、彼の反応なんかお構いなしに、べらべらとしゃべりかける。

今日買った服や、可愛い鞄があったけど、お金がなくて次回にまわしたこと。
今日出るときは快晴で、いい天気だったのっていう言い訳や、今日の薄着のコーディネイトは、なかなかお気に入りなのよ?なんてこととか。
そんな、彼にはどうでも言い話をふり続ける。

それで、話題にのってくることも、何か話し出してくれることも、ないことは知っている。
それでも、ちゃんと全部聞いてはいてくれるから、もうあたしには、それでいいんじゃないかなぁって、思うようになった…。

だって、あたしを知ってもらうには、ちょうどいい気もするから。

彼のいいところはね、なんでもない会話の中に、あたしの好きなものや好きなこと、好きな場所なんかを、感じ取ってくれるところなの。
たまに、こういう話をしてたよな。と思い出したように言葉をくれる瞬間は、驚きと幸せを、同時にくれる。
だから、こんなくだらない会話の時間も、決して無駄じゃないなって思えるようになったのは、つい最近だった…。

そこから、なんとなく気づくようになった、彼の優しさ…。

「…家、寄ってく?」
あたしの家についても、雨は止むことを知らないみたいで、ずーっとずっと降り続いていた。
おかげで、あたしと反対側の彼の肩はびっしょりだ…。
「乾かしてから帰れば?」
そう言いながら、彼の濡れている肩を指さす。

ずっと、あたしが濡れないように、あたしの持ってる荷物が濡れないように、あたしの方に、傘を寄せていてくれた。
きっと、昔のあたしじゃ、会話を聞いてるんだか聞いてないんだかわからない態度に、やきもきいてただけだったと思う。
でも今なら、あなたの優しさに、気づけるようになったの。

「…最後までかっこつけさせろよ…」
彼は眉間にしわを寄せ、そうぼやく。
「やぁーよ!それ以上かっこよくなって、あたしを惚れ死にさせるつもり?」
そう言って、彼の首に腕を回して抱きつく。
「なんだ惚れ死にって」
彼は、呆れたようにため息をつきながら、あたしの少し湿った髪を撫でる。
「死ぬほどあなたに惚れてるってこと」
「あほ」
そう言って、彼が扉を閉めれば、あたしの唇に、かすかなぬくもり…。

あなたの優しさを感じられるなら、雨の日も…悪くはないかもね…。

2009年7月4日 Fin


あとがき
お久しぶりです、小説を書くのは3ヶ月ぶりかもしれません。びっくりだぁ。昨日雨の帰り道に、男女二人があいあい傘をしていて、男性側の人が傘をほぼ女性の方に寄せてるのを見て、あーいうさりげない優しさを、兄さんはくれそうだなぁと思ったらネタになりました。あちゃー!肩が半分濡れている。なんかそれが優しさを物語るんだろうなってちょっと萌えて。
きっと若いころっておかしいけど、兄さんが好きで好きで好きで!!ってころは目に見えないその優しさも、兄さんのいろんな面を知っていったころには、そんな優しさなんかも気付いちゃったりしてね。
そして気づかれた兄さんは、なんだかかっこつかない気分になるといい。べつに狙ってやってるつもりじゃないけど、そう指摘されてしまうとなんていうか気まずい?みたいなね。でもほんと、惚れ死にってなんだい姉さん。自分で言わせておいてなんじゃそりゃと思った。まぁ説明した通りの意味でしかないのですが、ただでさえその優しさを感じてやっぱりほんと好き!とか思ってるのに、これ以上かっこよくなっちゃうなんて、心臓やばいことになっちゃうじゃない!!みたいな、そんなイメージだっただけです。伝わってくれると嬉しいです(笑)そんな雨の日物語でした。ポケモン界に気象庁はあるのかしら。でも天気センターみたいのはあったよね?まぁそんなとこって方向で…。