グリブル小説「あたしが抱きしめて」
 

 

男は損な生き物だと思う。
プライドに固執して、自分を隠して…。

泣きたいときに、声を出して、思い切り泣くこともできない…。
苦しいときに、苦しいと嘆くこともできない。
痛いときに、痛いと喚くこともできない。

とくに……あの人は…。

 

ある日のことだった。
たまたま彼と森で出会い、野宿を共にした日。
会ったときから機嫌の悪かった彼。
何があったのかと聞いても、彼は黙ったままで…。

「……ねぇグリーン」
夜も更け、食事も終わり、しばらくしてからだった。
「…」
彼の名を呼ぶが、返事がない。
「…グリーン?」
木に寄りかかって座っている彼に、そっと近づき俯いている顔をのぞくと、そこには目を瞑った彼がいた。
「…寝ちゃったの?」
顔の前で手を振ってみるが、反応はない。
静かな森の中には、規則正しい寝息と、炎が薪をぱちんっとならす音だけが、響いてた。
「……」
あたしは毛布を出し、彼にそっとかける。
夜も更けてくるとさすがに冷え込む。

しかし珍しい、彼が人前でこうも簡単に寝顔をさらすなんて。

「…グリーン?」
優しく髪に触れる。

よほど疲れているのか、起きる気配が全くない。
珍しいにもほどがある…。
いったい、彼に何があったと言うのだろう…。

「…」
思わず、じっと彼の寝顔を見入ってしまう。

こうしてみれば、年相応にそれなりに可愛く見える。
なんて言ったら、贔屓目だとレッドに笑われるだろうか。
ふざけるな、とグリーンに怒られるだろうか。
そんなことを思いながら、苦笑してそっと離れた。

「…大丈夫?」
無理しがちなあなた。
誰にも頼らないあなた。
一匹狼で、誰かとかかわることも望まないで…。

苦しいことはたくさんあるだろうに…。
痛い思いだってたくさんしてきてるんだろうに…。
寂しいときだって、泣きたい時だって、あるんだろうに…。

「…どうして…あなたは隠すの?」
どうして、何も言わないの?

あたしに言わなくてもいいけれど、誰か、あなたが頼れる人はいるの?
素を見せられる人がいるの?
弱くなれる場所はあるの?

あたしすっごい心配なの…。
あなたは、全部自分一人で解決して、全部自分一人で抱え込んでしまうから。
そうやって無理をして、疲れない?
そうやって一人で悩んで、苦しくない?

「…一人で…平気なの?」
好きなのに、あたし、あなたの何の力にもなれないね。
どうすれば…あなたを助けてあげられるの?
どうしたら、その苦しみから救ってあげられる?
どうしたら……

「っ!?」
「…?」
自分が寝かけたとき、彼ががばっと起き上がる。
「…グリーン?」
「はぁはぁはぁ」
息切れをし、何かに怯えるように毛布をつかむ。
「…グリーン?グリーン?どうしたの?」
慌てて彼に近づき、心配するように彼の顔をのぞいた。
「…っ!?なっ、なんでもない!」
彼は慌てて表情を隠すように、あたしに背を向ける。
「なんでもないって、なんでもない顔してないよ?」
肩で息をし、すごく強い力で自分の腕を握り締めていた。
まるで、怖い夢でも見て、それに自分が取り込まれないように、必死にしがみつくかのように。
「なんでもない!!」
そう強く言い切られる。
「……」
そうやって、突き放されてしまうから、何にもできなくなってしまう…。

ほんとに助けを必要としない人…。
プライドに固執して、性格に振り回されて…。
あなたが弱くなったって、誰も何も言わないよ?
誰も咎めたりはしないのに…。

本当はきっと、心から助けを求めてるはずなのに…。

「…っ」
彼をぎゅっと抱きしめる。
「っ!?なっ!?離せ!!」
あたしを振り払えないほど、震えた手。
「…あたし…」
ぎゅっと、離さないように腕に力を込める。
「…あたし…怖い夢を見たのよ…」
そう、ウソを言葉にしていく。
「は?」
彼は、訳が分からないというように言葉を返してきた。
「……怖い……夢を……見たの……。だから……お願い…しばらく……こうさせて…」
そう言って、優しく包み込むように彼を抱きしめ続けた。
「……勝手にしろ…」
彼は、諦めたように抵抗を止める。
「……ありがとう」
あたしは、すがるように彼を抱きしめた。

あなたが弱くなれないと言うのなら、あたしが弱くなってあげるわ…。
あなたがつらいなら、あたしが弱くなって抱きついてあげるから。
あたしが、抱きしめてあげる…。

あなたという男は、とても損な生き物だから。
プライドに固執して、自分を隠して…。

泣きたいときに、声を出して、思い切り泣くこともできない…。
苦しいときに、苦しいと嘆くこともできない。
痛いときに、痛いと喚くこともできない。

だから、あたしが弱くなってあげる。
あたしがあなたの弱さになってあげる…。
あなたの代わりに、あたしが泣くわ…。
あなたが苦しいとき、あたしが弱くなってあげるわ…。
あなたの痛みを、あたしも負うから…。

だから……今は……このままで……。

「グリーン」
彼を呼ぶ声が、夜に響く。

返事はない。
けれど、震えた彼の体が、あたしに訴える。
震えた手が、あたしの背中に回される。

大丈夫よ…。
もう…大丈夫だから…。

彼はそのまま…眠りにつく…。
あたしの腕の中で…。

 

 

あたしが抱きしめて

 

 

2004年10月18日 Fin


あとがき

というわけで、初めてタイトルを最後に持ってくる小説を書きました。ただタイトルが決まらなかっただけだろ?といわれてしまうと「あいたた」なんですが(笑)うふ(えぇ)まぁなんでタイトルが決まったのかというと、学校で書きながら保存する際にイヤでも名前を決めなくちゃいけなくなったからです(笑)いやはは、で、なんかとりあえずこんなタイトルが浮かんで、で、最後まで書き上げて、で、最後にタイトル持ってきたらしっくりきたので「いいや〜」くらいの単純なものでできているそんなお話(おい)よくみなさんタイトルにお悩みですが、そんなもんです。私はその話を想像できるようなタイトルを考えることが多いですけどね。おもしろおかしくするときもありし。大抵は前者ですが。まぁ今回はそのイメージもうまく浮かばなかったって方向で。結構話を考える際にタイトル考えてから書いたりすることもありますよ。うん。まぁそんなことはさておき。
本当はこれは自分のポケモンFRの主人公炎と藍との話で書くつもりでした。でもなんか、でもやっぱり最初はグリブルで考えた話なので、グリブルに持っていかれたのでした(笑)あははは。まぁ兄さんの一匹狼具合を出せればいいなぁって思います。なんか絶対、兄さんはレッドさん以外を敵とみなしてそうなくらい、めちゃくそ一匹狼な気がします。人なんか信用できるか!!みたいなね。あははは。まぁ家族は別として。いったい彼の過去に何があったんだ(何もない)あははは。まぁで、姉さんがそれに関わっていくみたいなね。きっと兄さん的には「うざい」とか思うだけなのかもしれないですけど、でも、きっとだけど、姉さんが弱くなって、彼に抱きついたことで、少なからず彼は、ぬくもりというものを知れた、と思います。きっと、自分から頼ることなんかしないだろうけど、でも、今度また、姉さんに頼られたら、しっかりと、受け止めてくれるような気がします。少しずつそうやって、姉さんを知って、気づけばかけがえのないものになっていた、っていう、グリーン→ブルーなんて関係になってくれればいいなぁなんて思う。でも絶対兄さんから告白できないので、また姉さんが折れるのです(笑)でも誰よりも大切に、してくれると思います。あぁ語りすぎ(死)