グリブル小説「始まり」
 

 

始まり

 

おじいちゃんの仕事を手伝うことになって、あいつがここに暮らし出して数ヶ月。
俺が、俺の周りが大きく変わった気がする。

毎日がかしましくて、耳をふさぎたくなった日もあった。
しかし人間の慣れというものは恐ろしい。
一度それがあたりまえになると、さほど気にもならなくなってくる。
あげく、そうじゃないと逆に変な感じにすら思えてきて……。
慣れってほんとに、恐ろしいと思った………。

 

「……ブルー?」
家のドアを開けても、いつもうるさいあいつが出迎えてこない。

「……姉さん?」
また、マサキの所で仕事をしているのだろうか。

「………おじいちゃん?」
いつも妙な音が鳴り響く研究室は、主を失い、静まりかえっていた。

「…どこに行ったんだ?」
誰もいない家。
そこら中の部屋のドアを開けて確かめたり、研究所まで足を運んだが、誰1人として、いつも会っている人間には会わなかった。

「…ふぅ」
まぁいいとどうでもよくなった頃、テーブルの上の置き手紙に気付く。
「…ん?」
そこには見慣れた可愛らしい綺麗な字で、
『オーキド博士の用事で、博士と一緒にしばらく家を空けます。冷蔵庫にご飯のストックがあるので、ちゃんと毎日ご飯を食べるように』
と簡単に記してあった。
めんどくさいと簡単な健康固形食品や、ゼリーで済ます俺への嫌味なのかもしれない。
「…はぁ」
俺はその紙をゴミ箱に捨て、どかっと近くの椅子に座り込んだ。

 

 

 

 

 

静かだ………。

ここ最近、こんなに静かになったことがあっただろうか…。
なんだか変な感じだ…。
いつも誰かいて、むしろ、あいつが来てからやたらにぎやかで…。

良い機会か…。
静かに本が読めそうだな……。
なんて、頭の隅にそんな考えを思い浮かべた。

「…ふぅ」
秒針だけが鳴り響く静かな空間。
とりあえず飯でも食うか、と立ち上がり、冷蔵庫を開けた。
「………」
だが、タッパに入った、カレーやシチューといったレトルトみたいなモノばっかりに、思わず何も出さずに扉を閉じた。

「…久々に帰ってきてすれ違いか………」

しばらくジムの仕事で1週間ほど遠出をしていた。
対して連絡もしなかったから、帰ってきたらきーきーと怒って文句を言われるだろうな、と憂鬱に帰ってきたが、なんというか、微妙な感じだ…。

「連絡でもしてやるか?……………ってなんでだよ…」
なんであえて俺から連絡する必要性があるんだ。
思わず自分で自分に突っ込みを入れてしまう。

でも、これでまた連絡しないと、ほんとにきーきーと文句を言われるのか?
だけど、だいたいあいつだって仕事で出掛けてるんだ。
別に用があるなら向こうから連絡してくるだろうし。
ないってことは、別にどうでもいいわけで…………。

どうでも…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ」
俺は立ち上がり、棚からカップを出す。
コーヒーを煎れようと素を探したが、結局見つからなくて、カップに水を入れて飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁもうくそ!」
俺はカップを乱暴に流しに置くと、そのまま外に出て、ポケギアで電話をかける。

『はいはーい!ブルーちゃんで〜す!』

むかつくくらい嬉しそうに出た彼女。

「おまえ、なんだよその待ってましたと言わんばかりの声」
しかもワンコールで出やがった。
ポケギアを凝視でもしてたのか?

『ん?そろそろかと思って…』

くすくす笑う彼女。

「……」
ばれてる?
…くそ…。
「今どこだっ」
いらついて声を荒げる。
『今ぁ?今ねぇ、ハナダのマサキの家だよぉ?』
笑いながら言う彼女の声に、ますますいらつきは増すばかりで。
そのいらつきの原因が分からないから、さらに増すばかりで。
「そこ動くなよっ!」
『えっ?』
俺は乱暴に電話を切ると、リザードンに飛び乗っていた。

 

2006年2月21日 Fin


あとがき

兄さんが進化したのか、退化したのかってお話でした。姉さんへの気持ちは進化しましたけど、クールで通していた兄さんのイメージ像は退化したようなお話ですね。最初のタイトルは「進化?退化?」でした。でもあえて何にも限定条件はない状態で、始まりな感じを表したかったので、タイトルを「始まり」といたしました。恋の始まりとか書くといかにもだし、グリーンがあまりにも恋する乙女みたいになっちゃうので、そこは皆様の想像上で、タイトルの始まりの前にうっすら恋のとか思っていただければ十分かと思います(笑)あたりまえが恋に変わるとき、みたいな感じでしょうかねぇ?まぁ元から恋人設定ですけど、家の兄さんはあまり姉さんを愛してくださらないので。っていうか愛すっていうのは、どういうことをすると愛してるってことになるのかいまいち分かってない兄さんっていうか、恋の仕方をしらない兄さんって感じで、かなり不安定さんっていうか、うぶな兄さんで書いてます。コーヒーの豆か粉の場所が分からないとか馬鹿っぽくないっすか?ナナミさんや姉さんに任せっきりって感じがあって受けるし。毎日あんまりにもうるさいから姉さんがいなくなったらなんか淋しいっていうか変な感じがして仕方ないから会いに行っちゃったりとか(笑)まぁ連絡しようとして思いとどまって、でも自分がなんだかしたいと思ったから適当な理由つけちゃったりして(笑)馬鹿なんです、基本的に(笑)恋愛に関しては初心者みたいなね。まぁ頑張れ兄さん!姉さんはいつでも待ってるよ!