抱 「グリーン…」 それと、さみしさを消し去るため。 「…どうした?」 「…グリーンを感じていたいの…」 昔は、抱きつかれるたびに引きはがしては、無駄に鳴る心臓を抑え込むのに必死だったというのに。 「ねぇだっこぉ…」 ここ最近のブルーは、やたら甘えっ子だ。 「…はぁ」 「…大好き」 そう、まるで、俺が抱きしめられているかのような…。 頭を優しく抱えられ、彼女に抱きしめられているような感覚。 彼女を俺が抱き上げているのに、なぜか俺が包まれているような。 彼女の自由を俺が奪っているようで、俺が彼女に縛られているような…。 そんな…妙な…気分だ…。 俺は、いくらか鍛えた人間だから抱き上げられるんであって、本来なら50kg以上もある人間を、そうやすやすと抱き上げられて、なおかつ立ったまま耐え切るというのはなかなか難しい。 「そうだけどさぁ、それでも重い?って聞いたらそうじゃないって言われたいの!!女の子としては!」 俺の膝の上に乗せている分、彼女が抱きつけば、再度俺の顔は彼女の肩に埋まる。 あぁ、まどろむ。 「グリーン?」 「きゃっ!?」 あぁ、このまどろみをどうにかしてくれ。 「え?…グリーン?」 「…でも離さないんだね」 彼女がそうぽつりと呟く。 このまどろみから抜け出す方法。 でも…そんなの分かっていた。 「…っ」 彼女のぬくもりを、匂いを、誰よりも近くに感じながら。 「なぁブルー。おまえはなんでそんなしょっちゅうグリーンに抱きついてんだよ」 2009年4月13日 Fin
俺の身長より大きい高さと、部屋の壁の1面を埋めるほど幅がある本棚と睨めっこしていた俺。
そんな俺の背中に、柔らかくて温かい感触とともに、よく聞く声が後ろから聞こえてきた。
「…ブルー?」
こいつはそこがどこであろうと、誰がいようと、こうしてただ抱きつきたがる。
彼女曰く、身近に感じていたいかららしい。
俺は腹に回された腕を優しく外し、彼女の方へ向き直る。
彼女はそう言うと、再度俺に抱きついてきた。
でも、引きはがすたびに一瞬悲しそうな顔をする彼女を見るよりはと、今ではこうして、優しく髪を撫でてやれる程度にまで慣れてしまっていた…。
いや、そうすると彼女がこの上なく幸せそうに笑うからかもしれない…。
そう言って、彼女は俺に手を伸ばし、猫なで声をあげる。
普段イエローやクリス、シルバーやゴールドなんかの前では、いいお姉さんキャラを演じているようだが、俺の前ではやたら甘えたがりな子供のようだ。
俺は呆れてため息をつきながらも、彼女を抱き上げる。
まるで小さい子供を抱き上げるかのように。
呆れてるくせに、それでも願いを叶えてしまうほど、甘えられることを嫌だとは思っていない自分がいることに、妙な気分になった。
彼女は幸せそうに笑い、俺の首に腕をまわしてぎゅっと抱きつく。
俺の顔は、彼女の肩に埋まるような状態になった。
「グリーン?」
彼女の柔らかさを直に感じ、彼女の匂いをより近くに感じながら、俺は彼女の声に、思考の海から引きずり出される。
「…なんだ?」
まるで寝ぼけているような、まどろんだ声だ…。
「どうしたの?黙りこんで…」
彼女が、心配げに俺の顔を覗きこめば、彼女の温かさが遠のく。
「…べつに」
思った以上にまどろんでいたのか、若干の寒さと電気の眩しさに、眉間にしわを寄せた。
「……ごめん、やっぱり重かった?」
彼女は俺の表情を見て、不安げに俺を見下ろす。
眉間にしわを寄せたのを、重いと思われた。と勘違いしたのだろう。
「…そりゃあまぁ」
まぁ、人一人の重さというのはそう軽いものではないからなぁ。
「もうっ!そこは嘘でも“そんなことないよ”くらい言いなさいよ!」
彼女が唇を尖らせる。
「…っというか、実際ずっと立ちながら抱き上げてるのは、いくら体重が軽かろうとつらいと思うぞ」
そう言って、俺は彼女を抱き上げたままベッドに座る。
彼女はそう豪語する。
「そういうもんか?」
「そういうもんなの!」
そう言いながら、彼女は再度俺に抱きつく。
「…ふーん」
この温かさに。
この匂いに…。
彼女の声が遠い。
一番近くに感じるのに、どこかぼやけるような、遠退くような。
「…っ」
俺は彼女をぎゅっと抱きしめた。
「グリーン?」
あぁ、彼女の喜ぶ顔が見たい以前に、俺が彼女を手放せないのか…。
俺は、彼女を抱きしめたままベッドに寝転がる。
二人分の重さを一点に集中されたベッドは、文句を言うようにぎしりと音を鳴らした。
「…」
俺はただ、彼女を抱きしめ続ける。
「ちょっ、何!?どうしたの!?」
彼女は驚き、起き上がろうとするが、俺が抱きしめてるせいでそれが叶わない。
「眠い…」
驚いて暴れていたブルーが、俺の言葉に動きを止める。
「なんだかものすごく…眠いんだ…」
眠さという言葉に、確実にしたくないこのまどろみ。
彼女のぬくもりに、匂いに侵食されていくようだ…。
そうだ。離せばよかったんだ。
分かっていて、俺はこのまどろみを求めているのか…。
再度彼女を抱きしめる腕の力を強めると、そのまま目を閉じる。
レッドが呆れたようにあたしに問う。
「なんでって?…だって、グリーン、あたしが抱きつくと安心した顔してくれるから」
あたしは嬉しそうに微笑む。
「自意識過剰」
レッドは大きくため息をついた。
「うっさーい!」
あたしだけが知る、あなたの顔なのよ…。
あとがき
実際書いたのは1月とかそんなあたりかな?あれ3月8日だったかもしれません(笑)2月21日でした。まぁ最終完成日って方向で。まぁ何がしたかったのかというと、ただどっちも相手を思い合ってるんだよってそういう話。でもどっちもその気持ちを知らないままなのに、どこかで必ずそれらが機能してる。そんな話です。まぁ最初はただ抱きついたらまどろんでる兄さんを書きたかっただけなんですけどねぇ。おかしいなぁ(笑)まぁ馬鹿な兄さんを楽しんでいただければ幸いです(笑)
なんかでも最初考えたときはもう少しおぉおって思えたはずなのに、書いたらオチっぽいものがなくてなんだかどうしようって出来だったのですが、今確認してみるとこれはこれでそう言う話として流してしまえるレベルかなぁって思ったのでよしとしときます(笑)ほんと落ち着いて物事考えると全然違うとこ飛んでったりしますよね(笑)まぁそんなこんなでできましたって方向で。読んでくださってありがとうございました!