紙の中のあなたと目の前のあなた 「………」 今捨てられた雑誌は、ジムリーダーやポケモンリーグのチャンピョン、ポケモンコンテストで優勝した人なんかを特集した記事をまとめた雑誌だ。 何度見ても笑えてしまう。 すでに家には保存用と読む用で2冊あるし、この1冊はスクラップするために買ってきたものだ。 「拾うな」 おもしろおかしく書かれたというか、脚色されすぎたというか、なんともこう、人のイメージは恐ろしいというか。 実際のインタビューの答えは解説文に埋もれてしまっているのである。 眉目秀麗、博覧強記、完全無欠、品行方正。 あたしはこれを読んだときに、ありえないくらいの過度の表現に、読んだ当初はお腹がよじれるんじゃないかってくらい笑いまくって、彼の機嫌を損ねたのを覚えている。 「俺は絶対、もう二度と取材なんか受けん」 「…え?」 「…思ってるわけないでしょ?あなたが非の打ち所がない、完璧な人間だなんて、絶対ありえないわ」 紙の中のあなたは超がつくほどの完璧人間くん。 でも、誰が彼を完璧だなんて言ったんだろう。 目の前のあなたは、こんなにも可愛くって、欠点だらけの日々成長型人間くんなのに。 「…大好きよ」 2006年6月28日&9月30日
3ヶ月も放置しちゃった。こんなん書いたなぁとか思って。まぁなんでお蔵入りにしてたかはおちが決まってなかったから。タイトルとあまりかみ合ってなくて、タイトルごと書いて無理矢理終わらせてみたり。いつものことです(笑)
じーーーっと雑誌を見る。
「…何見てんだ」
「あ」
勝手に部屋に入ってきた彼が、あたしが見ていた雑誌を奪い取った。
「……見るな」
中身を確認した後、彼は顔をゆがめ、雑誌を閉じてゴミ箱に捨てた。
「あ!捨てないでよ。せっかくスクラップしようと思ったのに」
「やめろ!!!」
「だってぇ」
今週のその特集のキーワードが、最年少。
それで、ジムリーダーの分野からはグリーンが大抜擢されたのだ。
まぁもちろん、グリーンがそんな取材に応じるわけもなく、散々断ってはいたものの、へたなこと書かれるより、ちゃんとインタビューに答えた方がいいでしょ?というあたしの説得で、なんとか取材を受ける気になってくれた。
それがこの雑誌に載った記事だったのだ。
何度見てもにやけてしまう。
捨てられては困るから、ゴミ箱から拾い上げた。
「いいじゃない。グリーンは滅多に写真なんか撮らせてくれないし。これくらい引き延ばして家に飾るくらい」
そう言いながら手で大きく四角を描く。
「引き延ばすな!!つーか飾るな!!」
「それは冗談だけど」
「…っ…おまえ……俺でからかってるだろ…。これを計算に入れて取材を受けさせたのか!!」
本気で怒ってるのか、眉間のしわが深い。
「ちがうよぉ。だってグリーンほっといたらあることないこといろいろ書かれちゃうじゃない。だったら、ちゃんとしっかり答えてあげて、余計なことを書かせないのが一番の得策だと思ったのは本当よ!まぁ、ここまで脚色されておもしろ可笑しく書かれるとは思わなかったけどねぇ」
あはははと笑う。
「…ふざけんな…ったく」
彼がこんなにも導火線が短いのには、記事の内容にある。
言葉たらずな彼にとって、インタビューの答えももちろん少ない。
例えば、「ここ最近ジムでの仕事はいかがですか?」と聞かれても、「問題ない。」としか答えない。
これでは記事にはならない。
となると、この場合、グリーンのイメージと強さと、あとは実際ジム戦をした人の意見を参考にして考えれば、「問題ない。」という答えは、こう使われてしまう。
『ここ最近ジムでの仕事はいかがですか?とお聞きしたところ、自信満々に問題ない。と答えてくださいました。ポケモンリーグでも2位の成績を修められたグリーンさんは、ポケモンの育成の面でも非常に優れており、計算され尽くした戦術は、何者も寄せ付けない力を持ち合わせています。実際ジム戦を行った人に聞く限りでも、とても美しく、計算されたスピーディーな戦いに、目を奪われるばかりだったと話す人が多く、彼の戦い方は、より完成度の高いものなっているのかもしれません。』
他の質問も同様だ。
単調的に答えた質問は、みんなこれと同様の書き方をされている。
まぁ、言われた言葉が少ない分、内容を増やすには想像と得たイメージで構成しなければならないのが普通だ。
編集者は正しいやり方をしてると思う。
あげく後ろ盾ばっちり、地位も確立されて、お金もあって、あげく若い。
言うことなし。
えーと、つまり簡単に言えば、ルックスよし、頭よし、強さよし、周りの評判良し、地位よし、将来安泰、お金持ち、若さ十分。
どこをとっても非の打ち所がないというのはみんなのイメージだ。
そんなイメージを持たれてしまっている彼は、もちろん雑誌の中ではそのことが如実に表されてしまうのである。
その性か、この雑誌を見るたんびに怒られていた。
むすぅと彼は苛立ちを露わにした。
「周りのイメージって恐いねぇ。きっと、問題ないって言葉を、照れ隠しだと思われたんだろうね。取材とかに慣れてないだろうからって、いろいろ気持ちをくみ取ってそれ以上聞かれなかったんだろうけど、まさかこんなイメージ通りのオプション付きの文章になるなんて思わなかったねぇ」
くすくすと笑う。
「いい加減にしないと怒るぞ」
「いやん、もう怒ってるじゃない」
迫ってこないで。
「…ったく」
彼は再度怒りに顔をゆがめると、どかっとソファーに座り込んだ。
「…それにしても、すっごいねぇ。この表現は」
「…写真もこんなでかく使われるとは聞いてない」
雑誌の見開きのど真ん中に余すことなく使われた写真。
むすっとした表情はしてるものの、すごくかっこよく撮れていると思う。
さすがプロのカメラマンだ。
そんことを言ったらはたかれた。
「…まぁ、周りのイメージって恐ろしいね」
「俺をなんだと思ってんだ」
普通の人間じゃないみたいな書き方されてるよね。
「うーん、たしかに顔はかっこいいし」
そう言って彼の膝の上に乗ってじっと見上げる。
「お、おい」
彼は慌てるが、振り下ろすことはしない。
「…優しいし、勉強熱心で知識豊富だし、お金はあるし、地位はあるし、後ろ盾いっぱいだし、ポケモン育てる能力はお墨付きだし、ポケモンリーグ2位っていう称号まである。そうなると、やっぱりそういうイメージできちゃうよね」
ぎゅっと抱き付く。
「…っ…おまえもあいつらと同じように思ってるのか」
彼はむかっと来たのか、あたしを離す。
「…思ってるわけないじゃない」
そんなのものともせずに首に抱き付いてキスをした。
それはキスに驚いたの?
言葉に驚いたの?
「……なんか、複雑なんだが」
まぁ、半否定したようなものだからね。
「…だってねぇ、優しいとは言っても、恋愛関係じゃてんで駄目駄目だし、思ったことはすぐ口にしちゃってよく人傷付けるし、あげくのはてには自分の力を過信してるんだかなんだか知らないけど、やたら自信過剰なくせに肝心なとこよくうまくいってないし、物忘れすることよくあるし、2つ以上のこと同時にやると、いろいろ間違えてるし、一つのことにのめり込むと御飯も食べないことあるし、旅行くと必ずどっかケガしてるし、冷静に見せかけて実はすっごい熱い人だったりするし、レッドとのバトルになると良く我忘れてるし…」
「ちょっ、ちょっと待て!おい…」
「まぁとにかく、あげればあげるほど、あなたの欠点なんてどうしようもないくらいいっぱい出てくるわよ?」
「…………」
彼は顔をしかめた。
「周りがどう思ってようと、放っておけば?あたしがあなたを知ってれば、それでいいと思わない?」
なんて、自意識過剰宣言。
「………っ」
彼の顔が真っ赤に染まっていく。
でも、そんな目の前にいるあなたが大好きなんだ…。
「…っ!?」
真っ赤になる彼が可愛くて、愛しくて、そっとキスをして、さらに真っ赤にさせてみた。
あとがき
まぁ普通インタビューってこんな内容変えたりはしないと思いますけどね。でもあんまりにも答えが少ないとね、イメージ通りに書くしかなくなるんじゃないかなぁって思って。雑誌編集者は大変だと思う、ほんと。まぁありえないかもしれないけど、そこはご都合主義で(ええ)
姉さんはその雑誌を後々どうしたのかなぁ。やっぱり引き延ばして飾ったんだろうか。でも宝物にはなってそう。雑誌の内容じゃなくて何より写真が。だってもう姉さん大好きなんだもん!兄さんが!!(ええ)
今回勝手にグリーンのイメージを書いてしまいましたが、きっとみんなかっこいい兄さん、完璧な兄さんを思い浮かべてらっしゃいますよね。それこそ雑誌に載ってた通りみたいなさ。でもあたしはやっぱり兄さんはどっか抜けててかなり熱い男だと信じてやみません。そういう可愛い彼があたしは理想だなぁと思う。だからこそいつまでたってもうけくさくて攻めになりきれないんだけどね(死)あははは。すいません(死)