変わらないもの 「ブルーさん!見てくださいよ!これ!」 レッドたちは、ジムに勝手に押しかけては、お茶を飲んで去っていく。 「それにしても、ブルーは変わったよなぁ」 変わった…。 「えぇすっごい」 昔会ったときの、人を利用することしか考えてないような、そんな表情は見られなくなった…。 「でも…なんだかいなくなっちまいそうだよな…」 ブルーは、会えば必ず抱きついてきたり、俺を見れば「好きだ」と言ったり…。 「まぁでもさ、ここ最近それも減ったろ?俺もおまえのことでの悩み事も聞かなくなっちまったし…。問題も特にないみたいだし。シルバーも、姉さんすっごい明るくなったねとか言ってたし」 ブルーがいなくなる…。 「…まぁ、ブルーがいなくなるとは俺は思ってないけどな」 「グリーン?」 ジムを閉め、彼女を家まで送る家路中ずっと、レッドに言われた言葉が頭の中をめぐっていた。 「変なグリーン」 『でも…なんだかいなくなっちまいそうだよな…』 「……っ」 俺は何をしているんだ…。 「………」 自分は本当に何をしているんだろう…。 「……」 首に回された腕が懐かしい。 「いや…なんでもない…」 だが、なんて言えばいい…。 「…もうなんなのよぉ」 情けない…。 「……大丈夫よ…。あたしはいなくなったりはしないわ」 変わったのはおまえだけじゃない…。 俺がいなきゃ、ブルーが生きられない? くそっ…やられたな…。 「…グリーン、大好きよ」 2004年11月8日 Fin
イエローが嬉しそうにブルーにモンスターボールを見せる。
「何何?」
ブルーは興味津々というよう、にボールの中を見た。
「元気だね〜」
お茶を飲みながら、レッドが呆れる。
「その言い方は親父くさいぞレッド」
軽く突っ込みを入れながら、俺はお茶をすすった。
そんな生活を、暇な日は繰り返していた…。
ジムリーダーである俺は、毎回来る彼らたちを、嫌そうな顔をしながらも、結局は迎え入れてしまう。
8つのジムのうち、一番強いとされるこのトキワジムは、ほとんど毎日、がら空きだったからだ…。
カップをテーブルに置き、頬杖をついてブルーを見つめる。
「なんだいきなり」
俺も楽しく会話をする2人を見やった。
「…ん?いや、ほんと、ブルーは変わったよなぁっと思って」
微笑ましく笑みを浮かべる。
「そうですよね!!」
嬉しそうに話す彼女達。
「……そう…かもな…」
ブルーを見つめながら、俺は目を細めた。
無理に笑うような表情も少なくて、本当に嬉しそうに笑う彼女の姿を、ここ最近良く目にする。
弱音を吐く数も少なくなり、泣いた姿も、もういつ見たかは覚えていない…。
再度カップに口をつける。
「え?」
ブルーに向けていた視線を、レッドに戻した。
「…前まではさ、なんかもうおまえがいなきゃ生きてけないみたいな感じだったじゃん」
苦笑でグリーンを見る。
「そんなことはないと思うが…」
少し顔を赤らめた。
「そんなことあるって。毎日毎日会いにきてはさ、抱きついて、『好きだ』って言って。昔はそれがブルーの当たり前みたいな感じだったけどさ、今思えば、それにも何か理由があったのかもな」
飲み終えたのか、少し乱暴にカップをテーブルに置いた。
人前だろうとなんだろうと甘えて、わがままを言い続けていた…。
まるで、子供が大きくなって自分から離れていくみたいな話し方だ。そう思ったら、少し苦笑が浮かんだ。
「たしかに…ここ最近変わったな…」
それは、俺も感じていた…。
「だろ?…元からさ、ブルーって一人で生きてるところあるじゃん?今まではおまえがいたからこうだったみたいなこともあったけど、ここ最近じゃ本当にぜんぜん一人でもOKみたいな感じでさ…どっかいっちまいそうだなぁって…」
少し寂しげに見るその姿は、まるで…
「おまえ…まさか…」
「ってイエローが言ってた」
「………そうか…」
少し胸をなでおろした。
今、イエローの隣に座り、笑う彼女。
ほとんど毎日会っている彼女。
その彼女が、いなくなる…。
いることが当たり前とまで感じるほど、長い日々を、過ごしてきたような気がする…。
そんな彼女が、今更いなくなるというのか…。
妙に…想像できなかった…。
そう笑いながら言ったレッドの言葉を、考え込んでいた俺は、聞き流していた…。
彼女が俺の顔をのぞいてくる。
「っ!?」
俺は慌てて後ずさった。
「どうしたの?ジムに居た時も静かだったけど…」
彼女は心配そうに俺を見上げる。
「……いや…なんでもない…」
簡単にあしらい、家路を歩く。
くすくすと楽しそうに彼女は笑う。
「……」
妙に遠くに感じる笑顔…。
「…あ、ありがとね、送ってくれて」
ふわりと笑い、ドアの前で立ち止まる。
「あ…いや…」
簡単に、そう答えた。
「…じゃあね」
微笑んだまま、ドアを開け、家に入る。
「っ!?」
がちゃっと閉まりかけたドアを無理矢理開け、彼女を抱き寄せる。
「…ぐ、グリーン?」
彼女は目を瞬かせ、驚いた声を上げた。
「っ!?…あ…悪い…」
俺は、慌てて彼女を離す。
いったい…何を…。
不思議そうに俺を見るブルー。
「…」
少し気まずそうに、視線をそらした。
抱きしめるつもりなんかなかったのに…。
ただ、義理で彼女を送り、そのまま家に帰るはずだった…。
はずだったのに…
「うわっ!?」
彼女が俺の腕をひっぱり、そのまま家に入れられる。
そして…
「…どうしたの?」
そっと、俺に抱きついてきた。
触れる肌からのぬくもりが懐かしい。
耳元で囁かれた声ですら、懐かしさを、覚える…。
そう、思ってしまうくらい…彼女に触れていなかっただろうか…。
なぜか、さっきまでの妙なわだかまりが、抜けていく。
「…なんでもなくないでしょう?あなたから抱きしめてくれるなんて珍しすぎるわ?」
心配そうに俺を見上げる。
「…おまえだってなんでもなくて俺に抱きついてくるだろう?」
苦笑を彼女に返す。
「あたしはいいの。毎回こうしてるから。でも、あなたみたいに、めったにしない人がしたらおかしいって思うじゃない?」
優しく頬に触れられる。
「………思うな」
「そんな無茶な」
無茶は承知だ…。
いなくなりそうだったからと言って、理解されるとは思えないし…。
何より理解されたところで、頭に乗られるのも癪に障る。
わけわかんないしぃ、と彼女は訴えるが、俺はそれをキスで黙らせる。
「なっ!?」
それ以上の言葉は、強く抱きしめて遮った…。
「…グリーン?」
彼女は不思議そうに俺の名を呼ぶ。
「……」
俺は、何も答えないまま、抱きしめる力を強めた。
自分がここまで女々しい人間だとは思わなかった…。
「っ!?」
彼女のいきなりな言葉に、思わず手を離す。
「…おまえ…聞いて…」
顔が赤くなるのが、自分でも分かった。
「あれだけでかい声で喋ってれば聞こえます」
「…っ」
くすくすと笑う彼女に、余計に頬が熱を訴える。
「……大丈夫…。いなくなったりなんかしないから」
彼女は、再度俺の首に手を回してきた。
「……」
俺はそれを、やんわりと受け入れる。
「たしかに……変わった部分もあるし、変わってしまった部分もある。でもね、あなたを好きな気持ちだけは、変わらないよ…」
優しく微笑む彼女の姿は、俺だけが知るもので…。
「…あなたを好きな気持ちだけは…決して……変わらないものだから…」
そっと、彼女の唇が自分の唇に重なる。
「…ブルー」
彼女の名前を呼び、ぎゅっと抱きしめた。
変わったのは俺なのかもしれない…。
レッドの奴…でたらめ言うなよ…。
逆じゃないか…。
こいつがいなくなるなんて…俺が考えられない…。
優しく微笑み、頬を撫でながら言葉をくれる。
「……俺も好きだ…」
そんな彼女を見ていたら、妙に、素直に言えた…。
あとがき
うわぁありえん。しかもなんか中途半端終わり?今度直しのときにまじめに書くつもりだったんですが、時間がたてばこれでしっくりきてしまうもので。続きなんぞ書こうもんならやばい方向にしか進みませんので?(えーい馬鹿)あはははは。まぁ何が書きたかったっていうと、ただ変わったらどうなっていくんかなって感じで。で、「枯れない花」という下川みくにの歌から作ってます。あれは強くなった姉さんをあらわしてるみたいで。それをネタにして書いてみました。でもきっと、姉さんが強くなっちゃったら、きっと兄さんの方が寂しくてしかたないんじゃないかしらって思いました。で、こんなへたれな兄さんに(死)ごめんね、兄さん。そんなつもりは。あはははは。まぁ兄さんは姉さんにぞっこんになってましたってことで。あははは。許せ!!!あはははは。