ルサ小説「雲の上の幸せ」
 

 

雲の上の幸せ

「結局、晴れんかったねぇ」
ひみつきちから空を見上げた彼女は、残念そうにそう呟いた。
「…まぁ、毎年7月7日は晴れたためしがないからね」
ボクはとくに気にすることもなく、コーヒーを煎れる。

今日は七夕だ。
彼女が笹に願いをつるしたいと、大きな笹を取ってくるから、しかたなく昼間からひみつきちに来ていたのだが、突然の雨に、僕達はここで雨宿りをすることになる。
もちろん、ボクの服が雨に濡れるのが嫌だからだが…。
彼女はそれを聞いて呆れ顔をしていたが、それでも一緒に残ってくれた。

でもまさか、夜まで雨が止まないなんて…。

「はぁ」
彼女は、今の今まで雨が止まず、雲が晴れることがなかったことを悔やむように、大きくため息をついた。
「別に星空なんていつだって見えるじゃないか…。ここは都会と違って明かりも少ないし、空気もきれいなんだ。別に今日見えなくたって、そんな落胆するほどじゃないだろう…」
ボクはコーヒーを一口口に運んだ。
「…今日じゃなきゃ駄目に決まっちょる!」
空を見上げていた彼女がボクを振り返る。
「…なんで?」
ボクは不思議そうに首をかしげた。
「今日は七夕で、織姫と彦星が一年に1回だけ会える日なんやろう?!」

 

 

 

 

 

 


「は?」

彼女はいったい何を言い出すんだ。

「ここ最近全然晴れてんのなら、全然会えてんのやろ!?そげんなの…悲しすぎる…」
彼女は本気で泣きそうな顔をしている。

本気なのか。
これは本気なのか。
本気と書いてマジと読むのか…。

「さ、サファイア?」
そ、そんな子供でも信じないような夢物語を…。
「あたしは、ずっと会えんと思ってたルビーに会えたとき、すっごい嬉しかった…。やけど、織姫はずっと、ずっと彦星に会えんままなんやろう?そげなの……絶対悲しい…」

 

 

 

あぁ、そうか…。

「ほんと、君は原始人のようだね」
ボクはふぅと息を吐く。
ぶっちゃけるとその話、晴れていようが、晴れていまいが、天候に関係ない話だと思う。
なのに、彼女はそれにも気づかないほどの、原始人なんだ…。
「…なんよそれ!?」
彼女はきっとボクを睨んだ。
「でも…だからこそ…」
「え?」

だからこそ、そんな純粋に、人の悲しみを感じられる。
大人たちが忘れてしまった、今の子供ですら忘れてしまった、そんな純粋な、気持ち…。
だからこそきみは…

「きみは、キレイなんだね…」
心がとても、感じ方がとても、キレイなんだ…。
「なっ!?何言っとうと!?からかわんで!!」
彼女は顔を真っ赤にする。
「からかってないよ…。行こうっ」
ボクはそんな彼女の手をひっぱり、雨の上がった外へと連れ出した。

「ちょっ、ちょっ…どこ行くと?」
彼女はボクにひっぱられながら慌ててついてくる。
「織姫と彦星が、会える場所へ」
そう言って、僕は飛行ポケモンを出して、彼女を背中に乗せて飛び立った。
「っ!?なっちょっ、ルビー!」
ボクは構わず上昇を続ける。
曇り空の、さらに上へ…。

「うっ…ど、どこまで行くとっ!?」
雲の中に入ると、彼女は一瞬呻いた。
「だから、織姫と彦星が、会える場所さ」

 

 

 

 


「っ!?」

雲を抜ければ、そこはまるで宇宙のようで…。
そこでは、月がきらめき、幾億の星達が瞬いていた…。

「地上では、確かに雲に隠れて、まるで会えていないように見えるけど、雲の上は、いつだって晴れなんだよ?」

だから、心配することなんか、ないんだよ?

「そうか…そうなんね…。星に、雲は関係なかね…」
彼女は安心したように微笑む。

そうやって、何事も素直に受け止める、そんな君の心は、なんてキレイなんだろう…。

「織姫と彦星は、毎年毎年、ちゃんと会えてるよ…」
ボクは優しく、彼女の頭を撫でた。
「…あたし、ルビーに会えたとき、すっごい嬉しかった…。きっと、織姫も、今すっごい、幸せやんね…」
「っ!?」
彼女は幸せそうに、ボクに微笑む。

 


全く彼女は、そうやって思ったことをなんでも口にするから、こちらの心臓がいくつあってもたりなくなりそうだ…。

でも、ほんとに織姫がそう感じていたんだとしたら。

「彦星は、それ以上にもっと、幸せだろうね…」

ボクが、そうであるように…。

「なんか言うた?」
空を見上げていた彼女が、ボクに問う。
「なんでもないよ」
ボクは幸せだと言うように、笑みを返した。

きっと織姫と彦星も、雲の上で幸せを、感じているのかも…しれない…。
そう…思えた…。

2008年7月8日 Fin


あとがき
方言に直すってほんと大変!!!ありえなーーーい!!もうだいぶおかしいです。変換ツール使っても、いまさら思うけど、サファイアの言葉って博多弁じゃないですよね。でも宮崎弁とは違うし。変換ツールがないよぉもう!!なんかいろいろまじりな言葉で申し訳ないですが、許してください。ほんとルサは方言が邪魔!!おかげで滅多にかけないし!!絶対あたし方言さえなきゃ毎度書くのにって思う。くさい台詞はルビーがくさるほど言ってくれるので楽しいんだけどなぁあ。あぁもう!!もったいない。まぁもう当分書くことはない。
今回は、七夕に何か書きたいなぁって思ったら、ふと日本の七夕は毎回雨や曇りばっかりだし、そうなると、こういう考えを誰かしないかなぁって思って、常識人と、素直な子が出てるCP張ルサしかなかったっていうね。レイエでもよかったんですが、馬鹿にすることができなかったので。レッドさんが。馬鹿にしておきながら、ちゃんと教えてあげるみたいなのを書きたかったので。グリブルもゴークリも、そういう意味ではどっちも常識人なので、駄目なんだよなぁ。まぁそんなルサ話しでした!