グリブル小説「今日の空は青」
 

 

今日の空は青

 

ぼーっと、見上げた空は、青かった。
ここ最近の空は、まるで不安定な乙女心のように、ふとした瞬間に涙を落とす空だったのに。
たまたま、見上げた空は、すごく青かったんだ。

ぼーっと、また窓から見える、青い空を見上げる。
テーブルに頬杖をついて、煎れて時間のたった紅茶を飲んで。
ぼーっと、ただ、空を見上げた…。

そんな静寂の空間に、人為的で、そして機械的な音が、鳴り響く。

「……誰だろう」
それは、来客を告げる合図。

早く、玄関に行かなくちゃ。
椅子から立ち上がって、玄関に、足を運ばなくちゃ。

「…はーい!」
体がなかなか動いてくれないから、とりあえず返事を一つ。

「…どちらさまですか?」
たっぷり来客者を待たせた後、ゆっくりと、扉を開ける。
「…はぁ」

そこにいたのは、滅多にうちには来ない、彼の姿が…。
しかも、毎度お決まりの、溜め息をつきながらの登場。

「…………グリーン?」
あたしは驚いたように、彼を見上げる。

彼の後ろにも、真っ青な空が、広がっていた。

「…どうしたの?何か用?」
滅多に来ない来客者に、浮かぶ疑問はそこだったり。

何か、あったのだろうか。

「…おまえ……」
彼は呆れたように、眉を寄せる。

あぁ、そんな眉間にしわを寄せたら、おじいちゃんになったとき、戻らなくなっちゃうよ?

「どうしたの?」
あたしは、ふわりと微笑む。
「…おまえ、自分が今日何の日か分かってないのか?」
素なのか?それとも計算か?と、彼が訝しげに表情を濁す。
「え?今日?」
そういえば、今日は何日だっただろう。
「…はぁ。おまえ…」
彼の肩がうなだれて、再度溜め息が吐かれる。
「…?」
あたしは本気で分からないというように、首を傾げた。

まず、今日は何日だったろう。
見たいテレビがないとき、とくに用事がないとき、ただの休みって、日付感覚がなくなる。
えーと、カレンダーが5月をさしているから、まだ5月なのかな?

「おまえ、今日誕生日なんじゃないのか?」
彼は、あたしの素さに気圧されたのか、自分の記憶を疑うような言い方をした。
「誕生日?」
あたしはそれに拍車をかけるように、なんとも間の抜けた答えを返す。

 

 

 

 

 

 

 

誕生日?
誕生日って、あたしの?
あれ、だって5月……5月………。
そういえば、昨日は5月31日だったなぁ。

「…おい?」
黙り込んでしまったあたしの視界が、彼の手になる。
「あ…ごめん。そっか……」

今日、あたしの誕生日だったんだ……。

そっか、そうだったんだ………。

「……ったく。毎年祝えだ、言葉をくれだ物をくれだとぎゃーぎゃージムまで押し掛けて文句言ってくるくせに。今年は忘れてましたって、おまえなぁ」
彼は呆れて物も言えないと、表情を濁した。
「だって、なんか平和すぎて。あなたに期待をするのも、無駄だと悟ってしまったし」
「悪かったな」

だって、毎年どんなに言っても、仕事は入れちゃうし、プレゼントはくれないし、言葉もくれないし。
1人ぼっちの誕生日なんて、忘れてる方が気が楽よ…。

「っていうか、グリーン、今日は仕事じゃないの?」

まだ空が青い。
ということは、まだ昼間だということだ。
昼間なんて、ジムリーダーにとっては忙しい時間じゃないのか?

「…誕生日なんだろ?」
彼が再度溜め息をつく。
「………え、あ…うん」
日付上的には。
「…はぁ」
彼はさらに溜め息をついた。
「…え?」

それって、あたしの誕生日のために、わざわざ休んでくれたということなのだろうか?

「…ったく。ほら」
彼は呆れた表情のまま、あたしに小さい物を投げ渡す。
「へっ!?あ…わっ」
あたしは突然なことに、慌ててそれを受け取り、しっかりと握りしめた。
「………何?」
今日は、びっくりさせられてばかりだ…。
「…プレゼント。毎年せがまれながら、一度もあげたことなかったからな」
「明日雹が降るのかな」
梅雨だし。
「どういう意味だこら」
「だって、グリーンがあたしの誕生日のために仕事を休んで、あげく滅多にこない家にグリーンが進んでやってきて、あげくあたしの誕生日を祝うためにグリーンがプレゼントまで用意してるなんて、これで明日雹が降らなかったらおかしいよ」
「……失礼極まりない奴だな」
「君の2年間の行動がそうまで思わせたんだよ?」
浮かべた笑顔に、最大の嫌味を込めて。
「……」
彼に嫌味は通じたようだ。

「…まぁでも、純粋に嬉しい」
幸せそうな笑顔を浮かべて、プレゼントを握りしめる。
「…まぁ、姉さんが選んだもんだから、変なもんは入ってないとは思うけど」
「…たとえ変なもんだとしても、グリーンがあたしのために選んでくれたなら、それだけで嬉しいよ?」
そうか、ナナミさんの見立てなのかぁ。
「………姉さんも同じ事言ってた」
頼んだときにでも言われたのだろうか。
彼はばつの悪そうな顔で視線を逸らした。

「…グリーン…」
あたしは小さく、彼の名を呼ぶ。
「ん?」
そんな声も、あなたには届いて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ありがとう」
嬉しそうに微笑めば、彼の顔は赤。

 

 

 

「…あたし、今日すっごいいっぱいもらちゃったなぁ」
「は?」
嬉しそうな笑顔が始終耐えないあたしを、優しく頭を撫でてくれている彼が、訝しげな表情で、あたしを見た。
「…グリーンがまず会いにきてくれて、プレゼントまでくれて、あげく、こうして時間まで貰ってる。あとは、言葉かな?」
なんて、ねだってみたりして。

 

「……誕生日おめでとう…」
恥ずかしげに目を反らした彼が愛しくて、嬉しさに顔が綻ぶ。

「…グリーンは、あたしがこの世にいること、喜んでくれる?」
誕生日を祝うのは、その人が産まれてきたことを、感謝したいと思うことだから。
「……まぁ、3年目の誕生日でやっと祝ってやるくらいには思ってるよ…」
苦笑しながら頭を撫でてくれる。
でもそれって、
「え、それってどういう意味よ?」
喜んでるの?
嫌がってるの?
なんなの?
「さぁな」
「えぇえずるい!!」

青い空が見える部屋に、声がこだまする。
春の、過ごしやすい空気の中に…。

 

2006年6月1日 Fin


あとがき

タイトルにあまり意味はない。ただのほほ〜んとした空気が漂えばいいかなぁって。春の気候の中で、ぼーっといろんなことを、忘れてみたいなぁ、みたいな(ええ)
とりあえず姉さんの誕生日は、3年目にして報われたのですって感じで。どうしてこう、兄さんは3年もかけなきゃ姉さんを愛しちゃくれないんですかね。
私的17歳でうまくいってる設定なんで、20歳ですか。大人ですね(え)彼らが20歳って不思議かも。まぁそんな彼らが微妙にうまくいったって方向で、あたしからの姉さんへの最高のプレゼントとさせてください(おい)だって姉さんが一番欲しいものは、兄さんじゃない。俺をやるって言われたらめっちゃくっちゃ喜ぶよ(え)さてまぁ、兄さんが何をあげたかは、想像にお任せします。