今日の空は青 ぼーっと、見上げた空は、青かった。 ぼーっと、また窓から見える、青い空を見上げる。 そんな静寂の空間に、人為的で、そして機械的な音が、鳴り響く。 「……誰だろう」 早く、玄関に行かなくちゃ。 「…はーい!」 「…どちらさまですか?」 そこにいたのは、滅多にうちには来ない、彼の姿が…。 「…………グリーン?」 彼の後ろにも、真っ青な空が、広がっていた。 「…どうしたの?何か用?」 何か、あったのだろうか。 「…おまえ……」 あぁ、そんな眉間にしわを寄せたら、おじいちゃんになったとき、戻らなくなっちゃうよ? 「どうしたの?」 まず、今日は何日だったろう。 「おまえ、今日誕生日なんじゃないのか?」 誕生日? 「…おい?」 今日、あたしの誕生日だったんだ……。 そっか、そうだったんだ………。 「……ったく。毎年祝えだ、言葉をくれだ物をくれだとぎゃーぎゃージムまで押し掛けて文句言ってくるくせに。今年は忘れてましたって、おまえなぁ」 だって、毎年どんなに言っても、仕事は入れちゃうし、プレゼントはくれないし、言葉もくれないし。 「っていうか、グリーン、今日は仕事じゃないの?」 まだ空が青い。 「…誕生日なんだろ?」 それって、あたしの誕生日のために、わざわざ休んでくれたということなのだろうか? 「…ったく。ほら」 「…まぁでも、純粋に嬉しい」 「…グリーン…」 「…ありがとう」 「…あたし、今日すっごいいっぱいもらちゃったなぁ」 「……誕生日おめでとう…」 「…グリーンは、あたしがこの世にいること、喜んでくれる?」 青い空が見える部屋に、声がこだまする。 2006年6月1日 Fin
タイトルにあまり意味はない。ただのほほ〜んとした空気が漂えばいいかなぁって。春の気候の中で、ぼーっといろんなことを、忘れてみたいなぁ、みたいな(ええ)
ここ最近の空は、まるで不安定な乙女心のように、ふとした瞬間に涙を落とす空だったのに。
たまたま、見上げた空は、すごく青かったんだ。
テーブルに頬杖をついて、煎れて時間のたった紅茶を飲んで。
ぼーっと、ただ、空を見上げた…。
それは、来客を告げる合図。
椅子から立ち上がって、玄関に、足を運ばなくちゃ。
体がなかなか動いてくれないから、とりあえず返事を一つ。
たっぷり来客者を待たせた後、ゆっくりと、扉を開ける。
「…はぁ」
しかも、毎度お決まりの、溜め息をつきながらの登場。
あたしは驚いたように、彼を見上げる。
滅多に来ない来客者に、浮かぶ疑問はそこだったり。
彼は呆れたように、眉を寄せる。
あたしは、ふわりと微笑む。
「…おまえ、自分が今日何の日か分かってないのか?」
素なのか?それとも計算か?と、彼が訝しげに表情を濁す。
「え?今日?」
そういえば、今日は何日だっただろう。
「…はぁ。おまえ…」
彼の肩がうなだれて、再度溜め息が吐かれる。
「…?」
あたしは本気で分からないというように、首を傾げた。
見たいテレビがないとき、とくに用事がないとき、ただの休みって、日付感覚がなくなる。
えーと、カレンダーが5月をさしているから、まだ5月なのかな?
彼は、あたしの素さに気圧されたのか、自分の記憶を疑うような言い方をした。
「誕生日?」
あたしはそれに拍車をかけるように、なんとも間の抜けた答えを返す。
誕生日って、あたしの?
あれ、だって5月……5月………。
そういえば、昨日は5月31日だったなぁ。
黙り込んでしまったあたしの視界が、彼の手になる。
「あ…ごめん。そっか……」
彼は呆れて物も言えないと、表情を濁した。
「だって、なんか平和すぎて。あなたに期待をするのも、無駄だと悟ってしまったし」
「悪かったな」
1人ぼっちの誕生日なんて、忘れてる方が気が楽よ…。
ということは、まだ昼間だということだ。
昼間なんて、ジムリーダーにとっては忙しい時間じゃないのか?
彼が再度溜め息をつく。
「………え、あ…うん」
日付上的には。
「…はぁ」
彼はさらに溜め息をついた。
「…え?」
彼は呆れた表情のまま、あたしに小さい物を投げ渡す。
「へっ!?あ…わっ」
あたしは突然なことに、慌ててそれを受け取り、しっかりと握りしめた。
「………何?」
今日は、びっくりさせられてばかりだ…。
「…プレゼント。毎年せがまれながら、一度もあげたことなかったからな」
「明日雹が降るのかな」
梅雨だし。
「どういう意味だこら」
「だって、グリーンがあたしの誕生日のために仕事を休んで、あげく滅多にこない家にグリーンが進んでやってきて、あげくあたしの誕生日を祝うためにグリーンがプレゼントまで用意してるなんて、これで明日雹が降らなかったらおかしいよ」
「……失礼極まりない奴だな」
「君の2年間の行動がそうまで思わせたんだよ?」
浮かべた笑顔に、最大の嫌味を込めて。
「……」
彼に嫌味は通じたようだ。
幸せそうな笑顔を浮かべて、プレゼントを握りしめる。
「…まぁ、姉さんが選んだもんだから、変なもんは入ってないとは思うけど」
「…たとえ変なもんだとしても、グリーンがあたしのために選んでくれたなら、それだけで嬉しいよ?」
そうか、ナナミさんの見立てなのかぁ。
「………姉さんも同じ事言ってた」
頼んだときにでも言われたのだろうか。
彼はばつの悪そうな顔で視線を逸らした。
あたしは小さく、彼の名を呼ぶ。
「ん?」
そんな声も、あなたには届いて…。
嬉しそうに微笑めば、彼の顔は赤。
「は?」
嬉しそうな笑顔が始終耐えないあたしを、優しく頭を撫でてくれている彼が、訝しげな表情で、あたしを見た。
「…グリーンがまず会いにきてくれて、プレゼントまでくれて、あげく、こうして時間まで貰ってる。あとは、言葉かな?」
なんて、ねだってみたりして。
恥ずかしげに目を反らした彼が愛しくて、嬉しさに顔が綻ぶ。
誕生日を祝うのは、その人が産まれてきたことを、感謝したいと思うことだから。
「……まぁ、3年目の誕生日でやっと祝ってやるくらいには思ってるよ…」
苦笑しながら頭を撫でてくれる。
でもそれって、
「え、それってどういう意味よ?」
喜んでるの?
嫌がってるの?
なんなの?
「さぁな」
「えぇえずるい!!」
春の、過ごしやすい空気の中に…。
あとがき
とりあえず姉さんの誕生日は、3年目にして報われたのですって感じで。どうしてこう、兄さんは3年もかけなきゃ姉さんを愛しちゃくれないんですかね。
私的17歳でうまくいってる設定なんで、20歳ですか。大人ですね(え)彼らが20歳って不思議かも。まぁそんな彼らが微妙にうまくいったって方向で、あたしからの姉さんへの最高のプレゼントとさせてください(おい)だって姉さんが一番欲しいものは、兄さんじゃない。俺をやるって言われたらめっちゃくっちゃ喜ぶよ(え)さてまぁ、兄さんが何をあげたかは、想像にお任せします。