迷子の迷子の
迷子の迷子の子猫ちゃん、あなたのおうちはどこですか?
「うっわー、やっぱりカントー1のデパートってだけはあるわね」
あたしはタマムシデパートを見上げながら、歓喜の声を上げた。
「ほら、さっさと行くぞ」
グリーンは、乗ってきたリザードンを閉まい、さっさと先へと進んでしまう。
「あー待ってよ!!」
先を歩く彼を急いで追いかけ、彼の隣へと追いついた。
なぜあたしたちがここにいるのか。
それは、今から30分前にさかのぼる。
「ねぇ、タマムシシティに買い物に行きたいんだけどさ」
そんなことを、本を読んでいたグリーンに言えば、当然返ってくる表情は、嫌そうな表情で。
「だからなんだ」
「一緒に行かない?」
「嫌だ」
ほぼ最後まで言い切る前に、否定されてしまう。
「いいじゃない!!ね、ほら、傷薬とか、なんでもなおしとか、そろそろ切れかけてたじゃない?ね、行きましょうよ!」
上目遣いで彼を見つめ、そう強請ってみる。
「…なんで俺の荷物の中身を知ってるんだ」
そんなの、前に買い物に行った日を知ってれば、分かることじゃない?
「さぁ?どうしてでしょう」
でもそこははぐらかすに限る。
「はぁ。買い物ならトキワに行けば十分だろう?」
どうしてもタマムシまでは行きたくないらしい。
「あら、なんでもなおしとかは売ってないじゃない」
トキワは傷薬やどくけしとかしか売ってないし。
「だったらマサラから海を渡ってグレンへ行った方が早いと思うが?」
どうしてそんなにタマムシに行きたくないのよ!
「いいじゃない!!タマムシデパートならなんでもあるじゃないのよ!!ねっ!!」
まぁようは、あたしが、用があるってだけなんだけどね。
「…はぁ」
こうして、グリーンの諦めのため息を聞いた後、グリーンのリザードンでひとっ飛びでここ、タマムシデパートワで飛んできたわけだ。
「あいかわらず人が多いな」
彼は眉間にしわを寄せ、エントランス内を見渡す。
デパートのエントランスは、買い物をして意気揚々と帰っていく者達。
これから何を買おうか興味津々と、込んでいるエレベーターに乗り込む者達。
そんな人々でごった返していた。
グリーンは人ごみがそんなに好きではないから、本当に嫌そうに言う。
でも、たまにはいいじゃない。
「今日は平日だからまだましな方だわ。休日なんて行ったら、家族連れが多くて、もっと込んでるんだから」
前にシルバーと休日に来たとき、失敗したことがある。
「…これ以上は勘弁してほしいな」
これ以上込んでる状態を想像したのか、グリーンはさらに眉間にしわを寄せた。
「ママ?」
そんなやり取りをしている間に、その声と共に、あたしのスカートをひっぱられる何かと出会う。
「え?」
ひっぱられた方を向けば、そこには5歳くらいの少年が、不安そうにあたしを見上げていて…。
「どうした?」
いきなり止まったあたしを不思議に思ったのか、グリーンが聞いてくる。
「え?あー、なんか男の子が…」
「マーマ」
そう、今にも擦れそうな声で、言葉を出す。
「…迷子になっちゃったの?」
あたしは男の子に視線を合わせようとその場にしゃがんだ。
「マーマ、いないの〜。うわぁーーーーーーーん」
そう言うなり、いきなり泣き出す男の子。
「…こら!泣かないの!」
あたしはいきなり泣き出した子供に臆することなく、話をした。
「だって、だってママが」
「泣いてたってママは見つからないでしょう?男の子なら泣かないの」
そう言って、男の子を諭す。
「…うん」
男の子はしゃくりあげながらも、泣くのをやめた。
「…手馴れてるな」
あたしの子供の諭し方に疑問を抱いたのか、そうグリーンが聞いてくる。
「シルバーも昔は泣き虫だったから」
そんなことを言いながらくすくすと笑うと、
「…あいつが?」
と、意外そうな顔を返され、あたしはさらに笑顔を浮かべた。
「マーマ」
男の子がそんなやり取りの中、あたしのスカートを再度ひっぱる。
「…あたしはあなたのママじゃないわよ?」
できればこの年でママになるのは避けたいわね。
「マーマ」
そう呼びながら、男の子はあたしに笑顔を浮かべた。
「…まぁいいか。ねぇ、名前はなんて言うの?いくつ?」
再度目線を合わせるためにしゃがみ、あたしは男の子の名前を聞く。
「カズくん、4歳です」
カズくんと名乗る男の子は、そう言いながらあたしに甘えてきた。
「カズくんって言うのね。どこから来たの?」
そんな甘えてくるカズくんを受け止めながら、徐々に質問を投げかける。
「ん?えーっとね、木がいっぱいあって、お花があって〜」
と、次々に出てくる言葉は、全てその場所を説明するものであって、一向に町の名前が出てくる気配がない。
「カズくん、住んでいる町の名前は分からない?」
と聞いてみるが、
「ん?わかんない」
と返されてしまった。
「…。じゃあ、ここにはどうやって来たの?」
歩いてきたなら、ヤマブキか、遠くてもシオンくらいだろう。自転車ならセキチクか。リニアで来たならジョウト地方?
でも…
「うーんとね、ピジョピジョでお空をびゅーんって飛んだの!」
…やっぱり。鳥ポケモンの「そらをとぶ」を使ってきたのなら、どこからでも来ることができる。
「…お母さんとは買い物に来たの?」
デパートで迷子になってるんだから、別のところからデパートに迷い込んだとは考えにくいけど。
「ハネハネのお薬買いにきたのー」
やっぱり。
ということは、まだデパート内にお母さんがいる可能性がある。
「グリーン、とりあえずこの子を迷子センターに連れて行きましょう。まだお母さんがデパートの中にいると思うし」
今までまわりを見渡していたグリーンが、しゃがんでいるあたしと目線をあわせる。
「あーそうだな」
彼はもうどうでもいいと言わんばかりに、適当に答えた。
まぁとんだことに巻き込まれてしまったとは思う。
ただでさえいやいやつれてきたというのに。
申し訳ないとは思うけれど、この子も放っておけない。
もしかして、昔のシルバーと重ねているのかな。
「さぁ、行きましょう。迷子センターは何階かしらね?」
そう言いながら立ち上がり、デパート内の説明が書いてある看板を探そうとする。
ところが、
「マーマ」
またスカートをひっぱられた。
「なぁに?」
そう言いながら目線を下に下げる。
「だっこ!」
カズくんはそう言って、あたしの足に抱きついてきた。
「え!?だっこ!?」
いや、それは勘弁してほしいな。いくら4歳でも重いことには変わりはない。そんな男の子を抱きかかえて、どこにあるかも分からない迷子センターを探すのは、結構骨が折れる作業だ。
「ねぇーマーマ、だっこ〜」
そんなあたしの気も知らず、カズくんはあたしに甘えてくる。
「…だーめ。自分で歩きなさい」
自分で歩くべし!
「やーだー!ねえだっこ!だっこ!!」
カズくんは地べたに座り込み、駄々をこね始めた。
まぁママを探してうろうろして疲れたのだろうけど、さすがにだっこして歩き回るのはあたしでもきついしなー。
でもきっとだっこするまで動かないし…。
しょうがない…。
「だっこ!!…みゅ?」
「あ…」
「ほら、さっさと行くぞ」
グリーンがしびれを切らしたのか、カズくんを抱き上げ、肩車をする。
「グリーン…」
そんな彼の意外な行動に、あたしは目を見開いた。
「置いてくぞ?」
グリーンはそう言いながら、先へと進んでしまう。
「あー待ってよ!」
意外だった。
グリーンが子供を抱き上げるなんて。
「パパたか〜い!」
肩車がいたく気に入ったのか、きゃっきゃっと歓喜の声を上げるカズくん。
「パパじゃない」
しっかり突っ込みも忘れないわね。
「パーパ」
カズくんは嬉しそうに、グリーンの頭に抱きついていた。
「だからパパじゃないと言ってるだろう…」
はぁ、とため息をつくグリーン。
「諦めなさい。子供に何言ったって無駄よ」
そんな彼を見ながら、あたしはくすくすと笑った。
そんなやりとりを繰り返しながら、看板を探す。
「えーと、迷子センターは…4階ね」
看板を指で指しながら、目的の場所を探す。
そうして、込んでるエレベーターで4階へ行けば、あとは迷子センターを探すだけだ。
「マーマ!パーパ!」
そうカズくんがグリーンの上で喜ぶ。
「あたしたちに子供ができたらこんな感じかしらね?」
そうくすくすと笑って言えば、
「なっ!?おまえ何を…」
かぁっと思いっきり赤くなるグリーンの顔を拝めた。
「うふふ」
「ママはパパ好き?」
そうやってグリーンと話していたら、カズくんがいきなりそう質問してくる。
「え?」
あたしはカズくんを見上げた。
「ママは、パパが好き?」
嬉しそうに笑うその姿が、なんとも微笑ましくて、
「うん、ママはパパが大好きですよ〜」
なんて笑顔で言ってみたり。
「パーパ!ママ、パパが大好きだって!」
その答えに満足したのか、今度はグリーンに話かける。
「俺にふるな…」
と、ぶっきらぼうに答えるグリーンだけど、
「うふふふ、顔真っ赤よグリーン」
顔の赤みがあたしの笑いを誘った。
「うるさい!おまえも笑うな!」
そんな顔ですごんだって怖くないも〜ん。
「パパー?パパはママが好き?」
…そうきたか。
「なっ!?」
彼は慌ててカズくんの方を向く。
「ねぇ、パパはママが好き?」
カズくんは純粋に、グリーンにそう聞いた。
「え…あ…いや…その…だな」
真剣に聞くカズくんの表情に、グリーンも曖昧な答えが返せないのか、困ったように言葉につまる。
「ママもぜひとも聞きたいわね」
そんな困ってるグリーンを楽しむかのように言えば、
「おい、ブルー」
なんて怒られてしまう。
まぁ、答えてくれるなんて思ってないけど…。
むしろ「好き」と思われてるとは思ってないし。
「ねぇ、パパ?」
答えてくれないグリーンにしびれを切らしたのか、カズくんがグリーンを呼ぶ。
仕方ない、助け舟を出してあげますかね。
「残念だけど、パパはママが好きじゃないって〜」
まぁ、自分で言ってていい気分じゃないけどね。
しょうがないじゃない?
「え!?そうなの!?パパ、ママのこと好きじゃないの?」
カズくんが、そう異常な反応をする。
「…」
そんな反応に驚きながら、彼はあたしの方を向いた。
「…」
そんなグリーンに、あたしは苦笑しか返せない。
あたし、ちゃんと笑えてるかな…。
「…はぁ」
グリーンはそうため息をついた。
「ねぇ、パパー、ママのこと嫌いなの?」
心配そうに聞くカズくん。
もしかして、本当のママとパパを重ね合わせてしまっているのだろうか…。
「カズ、向こうが迷子センターだ」
グリーンはカズくんの問いかけには答えず、彼を下へと下ろす。
「…パパ?」
下におろされたカズくんが、悲しそうに、グリーンを見上げた。
「…ふぅ。…俺は、ママが好きだよ…」
グリーンは、少し微笑み、カズくんに、そう言った…。
え?
「ほら、あそこにいる人に、すいませんって言ってこい」
グリーンはカズくんの背中を押す。
「うん!」
カズくんはグリーンの答えに満足したのか、迷子センターへと駆け出していった。
あたしは、その駆け出したカズくんの背中と、それを見送るグリーンの背中を見る。
「…グリーン?」
そう、彼の名を呼べば、
u…なんだ?」
と、振り返った彼は、口元に笑みを浮かべていた。
「ママ!パパ!早く早く!」
そんなことをしている間に、迷子センターのお姉さんに話をしたのか、向こうからカズくんがあたしたちを呼んでくる。
「あー、今行く」
そう言ってグリーンが歩き出す。
そんな彼の背中を見送りながら、顔の熱さに目線をそらした。
そのあとは事情を説明し、迷子センターが放送をかけるだけ。
『本日は、当店にご来店いただきまして、誠に、ありがとうございます。お客様に、迷子のお知らせを申し上げます。カズくんという、5歳の男のお子様が…』
放送がデパート内に鳴り響く。
「ママ、見つかるかな?」
カズくんは、不安そうにあたしを見上げてきた。
「大丈夫よ…。必ず、見つかるわ」
安心させるために、ぎゅっと手を握る。
『至急、4階、迷子センターまでお越しくださいませ』
放送終了と共に、ピンポンパンポンと電子音がデパート内に響き渡った…。
迷子センターにカズくんのことが知られていないということは、ママがまだ気づいてない可能性が高い…。
買い物に夢中になっているのか…。
せめてこの放送には気付いてほしいけれど…。
「ママ…パパ…どこにいるの?」
誰?
「ねぇ?あたしのママとパパは?」
誰?あたしにすがりつくこの小さい女の子は…
「ママがいないの…。パパもいないの…」
泣きそうな声…。
この声に聞き覚えがある…。
でも、うつむいてるから顔が分からない…。
「ねぇ、あたしはママやパパに会えないの?」
…あなたは誰?
「あたしに、ママやパパはいないの?」
「っ!?」
女の子が顔を上げる。
この子は…あたし?
「おいブルー!」
「っ!?」
はっと我に帰る。
「どうしたんだ?ぼーっとして」
気づけば、グリーンがあたしの肩に手を置き、あたしを覗き込んでいた…。
「…グリー…ン?」
あたしは目を瞬かせて、彼を見る。
今のは、幻覚?
それとも夢?
「ママー平気?」
カズくんが下からあたしを心配そうに見上げた。
「…えー平気よ。大丈夫」
カズくんを安心させるために微笑み、グリーンにも笑みを返す。
すると、
「カズ!!!」
遠くから、女の人の声が聞こえた。
「あ!ママ!!!」
カズくんがその女の人に駆け出していく。
「カズ!!どこに行ってたの!!探したのよ!!」
カズくんのママらしき人が、カズくんをぎゅっと抱きしめた。
「ごめんなさい。でもね、僕、僕いい子にして待ってたよ。泣かないで待ってたよ!」
そうカズくんが、ママに抱きつく。
「…もうお母さんから離れちゃだめよ?」
カズくんのママは、ぎゅっとカズくんを抱きしめた…。
…よかったねカズくん…。
お母さんが、迎えに来てくれて…。
「ママ!パパ!」
カズくんがいきなりあたし達の元へと駆けてくる。
「?どうしたの?あなたのママはあっちでしょ?」
もうママと呼ぶ理由はないと思うのだけど。
「マーマ、パーパ、ありがとう!バイバイ!!」
そう言うと、カズくんはママの元へと駆け出していった。
「……バイバイ」
カズくんの言葉に一瞬驚き、目を見開くが、彼の幸せそうな後姿に、ふっと微笑み、手を振る。
「ありがとうございました」
カズくんを受け止めると、カズくんのママは、あたし達にお礼を言い、会釈して、その場を去っていった。
「…よかったな、お母さんが見つかって」
カズくんを見つめるあたしの肩を、グリーンがぽんっと叩く。
「……うん」
あたしは、彼を見上げて、微笑んだ。
「さっ、さっさと用を済ませて帰るぞ」
彼はそう言って、そのまま歩き出す。
「あ!待ってよ!!」
あたしは彼の後を追いかけた。
「ねぇ、そう言えばさっきのさ、ママが好きって言葉本当?」
さっきの言葉を思い出し、彼を覗き込むようにそうからかいだす。
「…なっ!?覚えてたのか…」
彼は真っ赤になって、こっちを向いた。
「ねぇ、本当?」
くすくす笑いながら、彼を見上げる。
「…あー本当だよ」
彼は何か思いついたようににやりと笑う。
「えっ!?」
いきなりな言葉にさすがにあたしもびっくりするが…
「俺は自分の母さんは嫌いじゃないからな」
「…」
そうきたかコノヤロウ。
「もう!!グリーンの馬鹿!!」
そう言ったらあいつってば、こともあろうに笑ってた。
迷子の迷子の子猫ちゃん、あなたのおうちはどこですか?
迷子の迷子の子猫ちゃん、あなたのママはどこですか?
迷子の迷子の子猫ちゃん、あなたのパパはどこですか?
迷子の迷子のあたし、あたしのママとパパはどこですか?
2004年5月13日 Fin
あとがき
なんだこの微妙なシリアス!?いや〜ん。あははは。とりあえず何が言いたかったかっていうちと、カズくんをシルバーに重ね合わせていたわけではなく、小さいころ不安に泣いていた自分と重ね合わせていたもだといいたいんですよ。カズくんはちゃんとお母さんが迎えにきてくれたけど、ブルー姉さんはまだパパにもママにも会えずにいて。ちなみにこの話は、エスケープのお母さんとお父さんが見つかったと知る前の話と考えてください。しかしまぁ、もしこのあとそれを知って、FR、LG編みたいなことになるんだとしたらブルー姉さん痛すぎだよ!?ああああ。ちなみに今のFR、LG編のブルー姉さんの痛すぎる話も考えてます。もちろんグリブルで。あははは。どうなっていくかは分かりませんが続くんです!って方向でお楽しみにしていてくださいませ。すっごいつらいシリアスですけどね(ええ)ブルー姉さんをことごとく弱くするのが好きです。はい。
とりあえずへたれ〜なグリーンさんが少しでも強気に出れるような話を書きたかったのが今回です。しかし本当は迷子のカズくんを送り届けるだけの話だったのに。こんな壮大な話になるなんて思わなかった〜い!ああああ。タイトルは適当です。一番困ったのは迷子の放送です。みなさんフルでわかりますか〜?
これは続きます。来月の小学3年生が出てから(ええ)
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