グリブル小説「マニキュア」
 

 

マニキュア

 

「くさ」
「…入って第一声がそれなのはどうかと思うわよ」
部屋の主のお帰りに、ただいまもおかえりもあったもんじゃない会話が繰り広げられた。
「なんだこのにおいは」
部屋の主であるグリーンが、顔をしかめて、辺りを見渡した。
おそらく、部屋のどこからかのにおいか探しているのだろう。
「あーごめん。たぶんこれ」
そう言って、アタシは右手に筆のついたキャップを持ち、彼に見せた。
「…なんだそれは。っていうかなんでおまえがここにいるんだ」
においの元を見るなり、彼は最初に思うであろう疑問を、今投げかけてきた。
「え?ホントはね、オーキド博士に用があったんだけど、ナナミさんがグリーンならもうすぐ帰ってくるから、部屋で待ってるといいわ。ってここに押し込まれちゃったからさ」
包み隠さず理由を説明する。もちろん、ナナミさんの真似も忘れない。
どうやらナナミさんはアタシがグリーンに会いに来たんだと思ったみたいで。
「はぁ」
彼は頭を抱えてため息をついた。
「まぁ、で、待ってるのにも飽きちゃったから、ここへ来る途中買ってきた新色のマニキュアを塗り始めたら、あなたが帰ってきたってわけ」
そう言いながら、さっきの続きをする。彼が帰ってくるまでに、左手の薬指までの色付けが終わっていた。
ちなみに新色というのは、メーカーが出した新しいものという意味ではなく、アタシが持っていなかった新しい色、と考えてもらいたい。
「…人の部屋でやるな。ったく…窓開けるぞ?」
このにおいに耐え切れなくなったのか、彼は窓際へと向かう。
春の風が吹くようになったとはいえ、まだまだ冬の抜け切らない中途半端な今日この頃の風は冷たい。それを察してか、彼はわざわざ断りを入れてきた。
「どうぞ。ごめんね。何も考えなかったわ。におい残ったらアタシのせいね」
申し訳ないと思いながらも、くすくすと笑ってしまうのはなぜだろうか。
「つーかいつまでいる気だ!さっさと帰れ」
しかめっ面がアタシを見る。
「いーじゃない別に。それに乾くまで動けないわ」
マニキュアの難点だ。当分帰ってこないと思ったから、長期戦のつもりでやったことだったが、どうにも裏目に出たみたいね。
「…まったく」
彼は諦めたのか、椅子にどかっと座り込んだ。

「ねぇ」
静まり返った部屋の空気を、アタシの言葉が崩す。
「なんだ」
そんな中、彼は簡単に言葉を返した。
「マニキュア塗って」
「はぁ!?」
椅子の背もたれに寄りかかっていた体を、がたっと起こす。
「アタシいちお右利きだからさ、右手には塗りづらいのよね」
塗り終わった左手を振って乾かす。
「…そんなの知るか!!自分でやれ!」
呆れたと言わんばかりの顔で怒鳴るグリーン。
「けち〜、いいじゃない。シルバーはやってくれたのに〜」
「…」
彼は一瞬眉間に倍のしわを寄せるが、それ以上のことはしてくれないようで、しょうがなく自分で塗ろうとするが、やはりうまくはいかない。もともとあまりマニキュア、自体を使うほうではないから。
「…」
「…」
「…」
「…あ」
「…」
「…うわわはみ出る」
「…」
「うわ」
「あーもう。貸せ!」
アタシの危なっかしい動きに痺れを切らしたのか、彼が立ち上がり、アタシの手を取った。
「何?妬いた?」
さっきの言葉に反応したかとからかってみるが、
「誰が!指に塗りたくってやろうか?」
「やんごめんなさい」
それは勘弁だな〜。今除光液持ってないし。
「ったく、仕方なくだ。このままじゃいつまでたっても部屋のにおいが取れんし、汚されそうでかなわんからな。だいたい終わるまで居座る気だろう」
そう言うなり、アタシの爪に色を付けていく。
たしかにあの危なっかしい手つきじゃ、いつこぼしてもおかしくないし、終わるまでここにいる気だったから、においも残ったままだ。
「あったり〜。よくわかってらっしゃる」
くすくす笑いながら、手を彼に預けた。

「…それにしてもすごい色だな」
彼はもくもくとアタシの右手の爪に色を塗っていく。
「爪に塗るとすごさ増すわよね」
自分で塗った左手をかざしながら答える。
「こんなの本当に使うのか?」
彼は不思議そうな表情を浮かべた。
「まさか。飾りよ。今塗ったのは暇つぶしと興味本位」
もともと、可愛い小物なんかを集めるのがアタシの趣味だった。今回はたまたまマニキュアだっただけ。
「何もない青っていうのは、ある意味不気味なもんだな」
そう。アタシが今塗ってるマニキュアの色は青。自分の名前にちなんで買ってきたっていうのもある。けれど、このラメもパールも入ってないただの青に、無性に魅かれたのが買った理由だ。普通に見たら、マニキュアというよりただの絵の具に見えそうだけど。
「青っていうか瑠璃色なんだけどね」
色名はLapis Lazuli。(ラピスラズリ)
「足も塗るのか?」
手が終わったのか、そうアタシに問いかける。
あら、よくご存知で。
「…お願いできる?」
少し笑みを浮かべて、彼を見上げた。
「…はぁ」
彼は諦めたのか、少し身をかがめた。
「足は上げられないわよ?」
本当は足を上げるべきなんだろうけど、この状態で足を上げたらパンツ丸見えになるわ。
「……向こうへ座れ」
あげられない理由を理解したのか、再度しかめっ面を浮かべると同時に、アタシへそう支持をする。
あごで託されたその場所は、彼の机の上だった。
「いいの?座っちゃうわよ?」
アタシは今まで座っていたベッドから立ち上がり、いちお気にしながらも彼の机の上に座る。
彼はそれを確認すると、私の足の爪にも色を付けていった。
「グリーンって、案外器用なのね」
彼が塗った右手の爪を、しげしげと見ながらそうつぶやいた。
5本の指に塗られた青は、綺麗に爪の上に彩られていて…。
「案外ってなんだ」
アタシの言葉に反応したのか、顔は上げずに、言葉だけが返ってくる。
「いっつもぶっきらぼうだから、不器用なのかと思ってた」
なんて言いながらくすくす笑ってしまう。
「ぶっきらぼうと不器用は関係ないと思うがな」
そんなアタシに、的確な突込みを忘れないあなたに、再度笑いがこみ上げた。

青。

どうして海は青いの?
それはね、空の青が映ってるからなんだよ。

誰かがそう言ってた。
どこかでそれを見た。

「…うなじ」
「!?やめい!」
彼は慌てて後ろにさがった。
思わず見えた彼のうなじに、手を伸ばしたのが気に食わなかったらしい。
「うふふふ」
そんな反応に、私は思わず笑ってしまう。
「ったく。触るな!マニキュアがつくだろうが」
勘弁してくれその青は。とでも言いたそうだ。
「大丈夫よ。もう左手は乾いてるから」
一番最初に塗った左手は、すでに乾ききっていた。
「…はみ出しても知らんぞ」
「それはいやだな」
再度触ろうとした手を引っ込める。

そうこうしている間に、右足も終わり、左足の爪に色が塗られていく。

「…青の色は好きなのか?」
アタシが喋らなくなったのが気になったのか、珍しく彼から話題を振ってきた。
「嫌いじゃないわ?」
「は?」
なんとも情けない顔が私を見上げる。

まぁ、普通は好きな色だったから買ってきたと思うのが普通だろう。
ましてや、自分と同じ名の色ならば。
「嫌いではない」
納得してなさそうな顔だったから、再度言葉を返してあげた。
「…好きでもないのか?」
まじめに聞いても無駄と判断したのか、再度足へと視線を戻す。
「嫌いじゃないわ」
「…わけわからんぞ」
嫌いじゃない、の一点張りに、彼の方が値を上げた。
「うふふ。微妙な乙女心なのよ」
「は?」
女は海よりも深いって言うでしょう?

でもね…

「でも、緑は好きよ?」
青は微妙でも、緑は好き。

「は?」
彼はびっくりしたように、顔を上げた。
「緑は好き」
そんな彼に、笑顔を向ける。
「アホか」
「いたっ」
彼はいきなり立ち上がり、私の額をたたく。
「なっ!?」
「終わったぞ」
「わっ」
何すんのよ!と言うつもりだったが、いきなりな彼の言葉と、マニキュアの小瓶を渡されたことで、その勢いもマニキュアのにおいにかき消されてしまう。
「なんなのよもう」
いきなりな展開に、プリンみたく頬をふくらませた。
なんだかさらりと流されちゃったみたいね。

でも、

「…グリーン耳赤い」

とりあえず言いたいことは伝わったみたいで安心したわ。

青は微妙だけど、緑は好きなの。

少し彼をからかったら、うるさい!って怒られちゃった。

 

2004年3月14日 Fin


あとがき

あはははははは。うわぁ。ありえん。いいんだ。もう。これならいいと思ったから。わ〜ん1時間かかっちゃった。つーか6ページにもなるとは思わなかった。4部分塗るのに4つの話考えたらこんなに長くなってしまった。うわん。まぁとりあえず何がしかったかって言うと、青は微妙だけど緑は好きよって言わせたかっただけ。察しがいい人なら分かるとは思いますけどね。わかんなかったら聞いて。教えてあげるわ(死)グリーンはするどいってことで、気づいてもらいました。赤面グリーンとか絶対ありえないから(笑)ちなみにシルバーが塗ったって話はブルー姉さんのホラではないですよ?実際本当にやってもらったって設定です。今度その絵を描こうかなって思いました。ちなみにそのときは赤でした。血みたいな赤ですけど。今回は瑠璃色で。ブルー姉さんの趣味疑っちゃうかしら(汗)まぁでも飾りならそれだけはでっちぃー方が私はいいと思うんだけどね。私の趣味か。右利きかどうかはなぞいけど、たぶんそうだと思います。そして好きな色の話ですが、これはべつにブルー姉さんの本当に好きな色が緑だって言いたいわけじゃないですからね?そこんとこは察してください。私は彼女の好きな色なんて知りません。青がものすごく好きかもしれませんが、そうだったとしてもこの場合は微妙でなくてはいけないんです。はい。しかしグリーンは妬いたかはなぞ。びみょいとこだな。うむ。
しかしまぁ、漫画読んで浮かんだネタがこれってどうかな。うわぁ。っていうかグリーンて妙なとこで不器用そうで、結構微妙なところで器用そうな気がしたので。っていうかナナミさんにやってあげたこととかあるんかな(ないと思う)まぁ姉がいたからこそできたネタって方向で(あの姉じゃありえないから)あははは。しかしあのシンナーくさいのは勘弁だよな。ああ。読んでくれてありがとうございました。いや本当まじ。下はそれのイメージ絵。それを押すと文字有り絵も見れます。きもい絵でもうしわけねぇ。