グリブル小説「満」
 

 

 

「料理教室でも行こうかなぁ」
ただ、同じベッドで眠る回数が増えて、あなたなしでは眠れなくなりそうなあたしが、そう呟いた。
「は?なんで?」
彼は、優しくあたしの髪を撫でていた手を止める。
「ん?そうすればグリーンもおいしいって言ってくれるかなぁって」
言葉数の少ない彼は、食べてるときはさらに減ってしまう。
感想も結局「おいしい?」と聞かない限り返事はなく、その返事も「あぁ」と単調に返されるだけだった。
「いや、おいしいが…」
彼は少し困ったような顔をする。

ぶっちゃけ料理は下手な方ではない、と思っている…。
贔屓目をつけたとしても、シルバーも毎回おいしいおいしいと食べてくれる。
レッドだっておいしいって言ってくれるし、イエローには僕もこんな風に作ってみたい、羨ましいですと言われるほど、とりあえずまずくはない。
たまに盛り付けに失敗したり、焦がしたりはするものの、味でまずいと言われたことは今までなかった。
でも、

「じゃあなんで食事中にそう言ってくれないのさ」
グリーンが食べて「おいしい」なんて言ったの、聞いたことない。
「いや、別に深い意味はないが」
あったら泣いちゃうぞ?
「まぁだからさ、料理教室で勉強して、すっごいおいしい料理を作れればさ、そんなグリーンでも食べてるときに『おいしい!』って絶賛してくれるかなぁって思って」
人間自然と出てしまう言葉ってある。
綺麗なものやすごいものを見れば「綺麗」だとか、「すごい」と言った言葉が出るし、「わぁ」という感嘆の言葉も出るだろう。
だから、ものすごくおいしい料理を作れば、「うまい」なり「おいしい」なり、自然と言葉を発してくれるようにならないかと考えたのだ。
「いやまぁ、料理教室に行くことは止めないが、別に今でも十分おまえの料理はうまいと思ってるがな…」
彼は少し苦笑して、あたしの頭を優しく撫でた。
「……なんかね、グリーン言葉にしないから、すっごく物足りないのよ!」
がばっと起き上がる。
「はぁ?!」
彼は驚きながら、あたしを見上げた。
「愛の言葉も少ないし、自然に言う言葉も少ない。聞いても単調な言葉を返すだけ!愛を感じられないっ!!」
うわーん!!!っと喚くように、部屋中に声が木霊する。
「そ、そんなことを言われても…」
彼は圧倒されたように、後ずさった。
「絶対グリーンの脳内比率って、60%が仕事、30%が家族、5%がその他、5%があたしって気がするっ」
大半がジムの仕事に盗られてるような気がするの。
「そんなことはないっ。だいたいにしてお前は30%の家族に入るんじゃないのか?」
恋人は家族なのだろうか?
身辺の大事な人という枠組みなら、入るのかもしれないが…。
「グリーンにとっての家族はオーキド博士とかナナミさんのこと!」
あたしは別枠で取ってもらいたい、というのが理想だ。
オーキド博士と一緒の場所になんて、そんな恐れ多いし。
「じゃあ、仕事60%っていうのは大げさだろう。せめてその半分の30%をおまえに足して、仕事30%、30%が家族、5%がその他で、おまえが35%なんじゃないか?」
「なんで疑問系なのよ!!はっきり言ってよ!!」
はっきりしないなぁ。
「…いや、っていうか…なんか俺すごいこと言った…」
いまさら気づいたのか、ワンテンポ遅れて真っ赤になる彼。
こういうとこ可愛いくて好きだなぁ…。
「っていうか、35%でも足りない!!!」
そう、そんな35%なんて足りなすぎる!!
「じゃあどのくらい欲しいんだよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「99%」

 

 

 

 

「はぁあ?!」
彼もがばっと起き上がる。
「1%はその他のことを考える余裕をあげるわ。でも99%あたしで満たしてくれなきゃ嫌なの!!」
ぎゅっと彼の首に腕を回して抱きつく。
「いや、それは…」
彼は困ったように眉間にしわを寄せた。
「ほかの事なんか考えて欲しくないし、他の何よりも絶対負けたくないっ。いつでもずっと、あたしだけのこと考えてて欲しいもんっ」
それがあたしの願い。
あなたの脳内を、心を、体を、全てを、あたしだけで満たしたい…。
「……」
彼はそれ以上二の句が告げないのか、言葉を発しなかった。

 

分かってる。
困らせてるってことぐらい、分かってる…。
こんな願いが叶わないことも、この願いが、100%わがままであることも。
分かってるの…。

 

「…なーんて、冗談だけど」
そう言って、あたしはいつもの笑顔でグリーンから離れる。
「冗談かよ!?」
「まぁね…」
叶わないって分かってるから…。
「…なんだよそれ…」
曖昧な…と、彼は再度困ったように顔をゆがめた。
「まぁ冗談っていうかさ、好きなら自分のことで100%満たしたいって思うのは普通じゃない?」
自分のことだけを考えて欲しい。
そう思うのは普通じゃないのだろうか…。
みんなは、それができないとわかってるから、口に出さないだけで…。
「……」
彼は答えに困ったのか、再度口を閉じた。
「まぁ無理だって分かってるけど、だけど普段が35%なんだとしても、ほんの少し、ほんの1分でも…ううん、ほんのコンマ数秒でも、あなたの脳内を、99%あたしで満たすことができれば、幸せだなぁって…思うよ…」
そのときだけは、あたしのことだけを見て、あたしだけのことを感じて、あたしだけのことで、あなたを満たすことができる。
そうできれば、十分幸せだ…。
「……それは、普通にあるだろうな」
「え?」
あたしは驚いて彼を見上げる。
「実際おまえとこうして一緒にいるときに、余計なこと考えてないし。仕事のこと気にしてたら、おまえの相手なんかできないしな…」
彼は苦笑してあたしの頭を撫でる。
「………それって、どういう意味よぉ」
あたしは手がかかるってこと?
「…まぁ、おまえといる間は、100%おまえのことしか考えてないってことだ…」
ほんの一瞬じゃなくて、こうしてあなたと居る時間が、あなたをあたしで満たす時間?
もしそうだったら、すごく…嬉しい…。
でも…

「…でもそれって、仕事のときは仕事のことだけ考えてるってことになるよね?」
そのときはあたしのことは忘れられてしまうってことだよね?
「………まぁ、おまえのこと考えてたら、仕事にならないからな…」
「それがやなの!そのうち仕事ばっかりするようになったら、あたしのことなんて忘れちゃうじゃない!!」
仕事のときに仕事のことを100%考えてたら、仕事をしてるうちに、35%のあたしもいつか消えてしまう。
それが嫌なんだ。
そうやっていつか、あたしがあなたの中から消えていくようで…。
怖い……。

「それはないよ」

 

 

 

 

 

 

「…え?」
まっすぐ射抜かれた緑の瞳が、嘘だって言葉を、飲み込ませた。
「…休憩したりするたびに、俺の脳内35%は、おまえが占めるからな」
苦笑して、あたしの髪を、優しく梳いた。

「……」

仕事をしてても、忘れないでいてくれるんだね。
35%でも、必ず思い出してくれるんだね。
そうして、あたしのそばに居るたびに、あなたを、あたしが満たす。

あぁ、言葉が続かないよ。
顔が、少しずつ火照る。
心が、温かくなって。
気持ちが、溢れ出しそうだ。

「…ブルー」
優しく呼ぶ声。
優しく触れる手。
優しく見つめる、その瞳。

どれもこれも、あたしを満たす…。

「…今だけは、あたしだけを感じていて」
優しくキスをすれば、深いキスを、返される。

満たしていく。
満たされていく。

どこまでも…どこまでも…。

 

2007年11月23日 Fin


あとがき

わけがわからないお話ですいません。最初の料理教室に行くって話となんの関連があるんですか?って話ですが、用は自然に出る言葉のように、脳内を自分の作った食べ物がおいしいと思わせたい、彼の脳内を自分だけで満たしたいという欲求を遠まわしに表現したものです。つまりは姉さんは、自然に「好きだ」って言葉を欲しいってことなんですよ。脳内を自分で満たすことで、「あぁ、こいつが好きだ」っていう感情を自然に言葉にさせるくらい、愛して欲しい。そう言う意味合いを、この小説から感じ取ってくれると嬉しいです。子供じみた独占欲なようで、でもきっと誰しもあるんじゃないかと思うんだけど、俺だけかなぁ。ただあまり束縛したり、そこまで深く愛するって難しいと思うから、人は望まないだけで。姉さんがうざいとか思うのって、人間の一番貪欲な部分の感情をストレートに表現する人間だからだと俺は思います。そうしたくたって、人はそうはしない。それがうざがられることだと分かってるから。でもそれをストレートに表現して、それをしっかりと受け止めてくれる兄さんというカプにうざく思う人間は嫉妬するのかもしれません(笑)し、ほんとにそんな女嫌だぁああと思うのかもしれませんし(笑)どっちかは分かりませんが、姉さんは自分に素直に生き始めちゃってますって感じでした。どこまでもどこまでも愛していけ!!
タイトルはなんかぴってきたの。満たされるの「み」。「まん」じゃなくて「み」。