ミカン科コンビ小説「ミカン科」
 

 

ミカン科

 

「よぉ!グレイっ!…っと…えーと…なんだっけ…」
久しぶりに会ったグレイと、こないだ会った嫌な女。
名前聞いたのに、すっかり忘れちまった。
「……君馬鹿?人の名前忘れるとか信じられないんだけど」
彼女はあいかわらず冷たい目でオレを見てくる。
「女のくせにかわいげのない奴だな、ほんと」
オレも負けずと睨みをきかせた。
「…まぁまぁ、彼女は…」
「いや、ちょっと待った、ここまで出掛かってんだ、自力で思い出す」
そう言ってオレは胸の辺りで手を動かす。

この、出そうで出ない感覚。
分かってるのに、分からない。
もどかしくてじれったい、嫌な感じ。

確か、柑橘系の名前だった気がする。
最初に聞いたとき、そう思ったはずだから。

「…えーと…確か…レモンみたいな…」
そう、確かレモンみたいな形してた果物だったような…。
「…」
グレイもあの女も、とくに何も言わずにオレの返答を待った。
「…緑色の……えーと…」

そういや昨日、レモンみたいな緑色の果物が、焼き魚に添えられてた気がする。
母さんにその果物の名前を聞いたんだっけ…。
確か…

「あぁ!!思い出した!!!」
オレは思いっきり叫ぶ。
「うるさ…」
彼女が迷惑そうな顔をして言う言葉を、オレの答えがかき消した。
「カボス!!!!」
「アホか!!!!」
そう答えたと同時に、ものすごい痛みが顔に走る。
「いってぇええ!!何すんだこの凶暴女!!」
彼女の荷物を投げられたからだ。
「ライムだライム!!!君馬鹿じゃないの!!信じられない!!馬鹿!!!」
思いっきり罵声を浴びせ、彼女はその場から走り去っていった。

 

 

「信じられない!ありえない!!ライムとカボス間違えるとかアホじゃないかほんと!!」
ぶつぶつ文句をたれながら、道を早歩きで歩いていく彼女。

「…グレイの名前はしっかり覚えてたくせに……こっの…馬鹿!!!」
行き場のない怒りと、訳の分からない苛立ちが叫び声になって、よく晴れた空に、消えていった。

 

 

「…オレンジ……」
彼女が走り去ったあと、残されたオレに同じく残されたグレイが話しかけてきた。
「なんだよ」
痛む顔をさすりながら、オレは彼を見上げる。
「…カボスはレモンじゃなくて、ミカンだよ?」
「突っ込みどこはそこか!?」
オレの叫んだ突っ込みも、同じように良く晴れた空に、消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そういえば、昔ライムの名前、カボスと間違えたの覚えてる?」
あれから数年、思い出したようにグレイが話しかけてきた。
「……よく覚えてんな、そんな云年前の話」
本人ですら忘れかけてたぞ。
「…今思うとさ、カボスって、ミカン科ミカン属なんだよね…」
「は?」
ミカン科ミカン族?どこの種族だ?
「でも、ライムはオレンジとおんなじ、ミカン科キトルス属なんだよ」
「…はぁ…」
今度はキトルス族?柑橘系にもいろんな種族があんだなぁ…。
つーか、あいかわらず本ばっか読んでっから、物知りだなぁ。
「…ライムは、オレンジとおんなじなんだよ?」
な、なんだよその笑顔。
「……へ…へぇ」
オレはその笑顔を見まいと、目線をそらす。
「オレンジ…」
「…なんだよ」
グレイがオレの名前を呼ぶ。
「…顔が赤いよ」
「うるさい!」

2008年1月12日 Fin


あとがき

ギャグです。笑ってもらうとこです。笑う話ですこれ。ほんとうはスダチもいいかなぁと思ったんですが、カボスにしてみました。大きさが近いから。ライムって果物はお酒を飲まないとあまり見かけない果物ですからね。普段家にいて、和食を食べるのであれば、カボスはお見かけする果物でございます。食べ物だからこそ覚えていた彼っていうのがミソ。きっと食べ物とポケモンのことは忘れない気がします。まぁ前の日のカボスが邪魔をして分からなくなっただけです。あはは。
数年後はつけたしですが、本当はカボスとライムの種類を調べるまでは別の話しでした(笑)ネット辞書ひっぱって、調べた結果、急遽こうなったのですが、レモンやオレンジ、ライムなんかは、ミカン科キトルス属という属性なんだそうです。でもカボスやみかん、ゆずなんかは、ミカン科ミカン属なんだそうです。何がどう違うのかは分かりませんが、外国産と日本産の違いですかね?まぁだから、属性からすると、オレンジとライムはおんなじなんだよっていう、数年後、二人が恋愛に目覚めていたら、顔を赤らめる理由ということで(笑)たまたま柑橘系にたとえられる名前だったからできたこと。そうなった二人がこれからどうなっていくのか、楽しみです。そう名前が決まったのがまるで運命のようだったら、おもしろいですよね。