ハラヤサ小説「想い」
 

 

想い

 

「ハラケン?」
私は、階段に座っている彼を、そう呼んだ。

待ち合わせ場所の神社。
夏なのに、ここの日陰はとても涼しい。

「…ハラケン?」
再度、彼の名を呼んでみるが、返事は返ってこなかった。
どうやら彼は、眠っているみたいで…。

「……疲れてる?」
連日、私たちは街を歩き回っていた。
彼の幼馴染、かんなさんの、手がかりを求めて。

「………っ…か………な」
「ハラケン?」
かすかに聞こえた彼の声に、私は耳を傾ける。
「…ご…め……」
「?」
ところどころ聞こえる、彼の寝言。
「…っ…か……ん…」
「ハラケンっ!」

どんどん青ざめていく顔。
額にじわりと浮かぶ、暑さで出たわけではない汗。
私は、彼をさっきよりも強い声で、呼んだ。

「…ご……め……」
聞き取れなかった、彼のうなされている声。

最後まで…聞かなければ良かったと、後悔した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か…ん…な………ごめ…ん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハラ…ケン…」

胸が…痛い…。
なんでだろう…。
痛い…。

そりゃ、痛い…よね?

だって、喧嘩別れしてしまった幼馴染。
本当は、明日も会えると、思っていただろう。

私だって、もし小さい頃から仲良くしていた幼馴染とケンカしたら、明日会って謝ればいいとか、明日謝らせてやるとか、明日、会えるからって、思う。
そんな、明日も会えるって思ってた幼馴染が、死んじゃうなんて、そんなこと、微塵も考えるはずがない。

大切な人が、いきなり自分の前から消えてしまう現実。

周りは、大人は、彼女の不注意だから仕方ないと、そう言った。
そう言って、彼女の想いも、闇に葬り去られてしまった。

彼女の不注意。
あの日、ケンカしたあの日、何があったのか。
もし、ケンカしなかったら、運命は、変わっていたんだろうか…。
もしかしたら…

 

「…ごめ…ん…」
彼の目に、涙がにじむ。
「っ…ハラケン!!ハラケンっ」
私は、必死に彼を、呼び起こす。

もしかしたら…自分のせいで…
自分が…あの時…

「っ」
「ハラケン!!ハラケンは悪くないよ!!大丈夫っ…大丈夫だからっ」
私は、彼をぎゅっと抱きしめて、そう叫んだ。

もしそうだったら、そう考えていたら、そんなの、悲しすぎる。
そんなの、痛すぎる。

 

 

だって、大切な人が……

 

 

 

大切な……

 

 

 

 

 

 

大切な…人……

 

 

 

 

 

 

「っ…や…ヤサコ?」
少し青ざめた表情で、彼が目を覚ます。
「…っ…良かった…ハラケン大丈夫?」
抱きしめていた腕を解き、彼を見る。
「…ヤサコこそ、どうしたんだ?」
「え?」

どうした?
どういうこと?

「…泣いてる…けど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

「…っ」
私は慌てて、顔に触れる。
汗以外の、水分の感触。

 

私…泣いてる?

 

「どうしたの?」
すっかり顔色を戻した彼が、心配そうに、私を見た。

 

 

 

あぁ…そうか…。
そういうこと…か…。

 

 

 

 

胸が…痛い…。

 

 

 

「ううん、なんでもないの…」
私は、いつものように、笑顔を浮かべる。
「…そう?」
彼は、心配そうな表情を浮かべていたけれど、フミエちゃんたちが来たから、話しはうやむやになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後まで、聞かなければ良かった。
あの日記を、読んでしまわなければ良かった…。

そんな…後悔が、胸の中に廻りだす。

 

 

 

 

胸が痛い理由。

 

それは、夏の暑い日に気付いてしまった、熱い…想い…。

 

2007年8月12日 Fin


あとがき

源造様に捧ぐために描いた1作。浮気物!おまえグリブルじゃねーのか!とか言わないで!!そんなわけで、ハラヤサ。別に、萌えたわけでもないのですが、こう先入観とはでかく、そして、あのかんなさん話で、こう考えずにはいられるか!!!って感じで。日記を読んで後悔してしまったヤサコ。ハラケンの涙を見て、何かを感じていそうだったヤサコ。その後のかんなさんの手がかり探しを、少し補完しました。また話に出てきたり、小説では解決されてるのかもしれませんが、ハラヤサになる前のお話しみたいなイメージで。無駄にシリアスですいません。こんなシリアス久しぶりに描いた。ジャンル外なんて描くもんじゃないですね。ネタが降りてきたからって書くなってね。口調もろもろさっぱりでした(死)まぁ、全話を見た感想に。こんな感じに感じましたって感じで。違法サイト万歳だ。あははは。