「…っ」 雨は嫌いだ。 誰かが、人は自分の生まれの月の気候を好む、って言ってたけど、そんなの絶対嘘だ。 だいたい、雨の日なんていいことなんか何一つない。 雨なんて、大嫌い。 でもそんな日に限って、外に行かなきゃいけなくって。 ほんと、最悪…。 「…っ」 しまった。もうそんな時間か…。 あたしは湿気で重たい体を無理に動かし、寝巻きの薄着のまま玄関に向かう。 「…おまえ、そんな薄着で…。というか、誰かを確認してから開けろ」 彼は結構きっちりしてるタイプだから、こういうルーズな流れが一番嫌いなのだろう。 「だって雨よ?雨の中でかけたくなんかないわ。あたしはグリーンと一緒にいられるなら、どこだっていいもん」 「俺は別に、嫌いじゃないけどな」 そりゃ農業なんかをやってる人にとっては、恵みの雨なんて言うのかもしれないけど、実際農業を差し引いて、自分個人として雨と向き合うなら、少しばかり気がめいるのではないだろうか、と思う。 そう…まるで… あたしのように…。 「…」 あたしのことを、言ってるわけじゃないのに、心の雲が晴れていくようで…。 「ねぇグリーン、明日一緒に、どこか行こうよ」
もそりと起き上がって窓の外を見れば、雨がしとしとと、窓を濡らしていた…。
雨の日
「…はぁ」
あたしはそれを確認するなり、ぼすんっとベッドに体を沈める。
そもそも、雨が好きな人なんて、いるのだろうか…。
梅雨と言われる6月に生まれたあたしが言うんだから、絶対嘘だ。
洗濯物は乾かないし、窓を開けることすら叶わない。
それに、出かけるのが億劫になる。
靴は泥だらけになるし、傘は邪魔だし。
そして何より、この湿気が嫌だ。
髪はうまくセットできないし、肌にまとわりつく必要以上の水分が、あたしの心を不快にさせる。
そこまで思考を巡らせて、あたしはインターフォンが鳴る音で起き上がった。
そして、誰かも確認せず、扉を開けた。
ドアを開けた先には、大好きな彼がいて。
「うちに来るのは、あなたか新聞の勧誘くらいよ」
あたしは髪をかき上げながら、廊下を歩く。
「その新聞の勧誘だったらどうするんだ」
彼は、傘を傘たてにしまった。
「こんな早くに来ないわよ」
早いと言っても、もう10時だけれど。
「っというか、おまえ10時に出かけると言っておいて、なんでまだそんな格好なんだ」
そう、今日は久しぶりにデートだったのに。
「…今起きたんだもん」
あたしはコーヒーを煎れるために、やかんを火にかける。
「おいっ。人の予定に勝手に組み込んだくせして、当の本人がそれでいいと思ってるのか」
彼は靴を脱ぎ、小さくおじゃましますと言うと、ずかずかと台所に入ってきた。
インスタントコーヒーの瓶を、棚から取り出す。
「おまえなぁ…出かけたいって言ったのはおまえだろうに…。あいかわらずきまぐれな奴だなぁ」
彼は呆れたようにため息をついた。
「…だって…雨なんか大嫌いよ…」
あたしはごとんっと瓶を置くと、彼にぎゅっと抱きつく。
「えっ!?」
頭の上からした言葉に、あたしはびっくりして彼を見上げた。
「…別に、雨はそんなに嫌いじゃない」
彼が優しく、あたしの頭を撫でる。
「…どうして?」
雨なんて、みんな嫌いだと思ってたのに。
それくらい、あたしは雨なんて、誰にも好かれないものだと思っていた。
だから、どうしてあなたは、嫌いじゃないなんて…言えるの?
「雨の次の日に見える、青い空を見るのが、好きだから…」
そう言って、彼はあたしを抱き上げる。
まるで、空を見上げるように、あたしを見上げながら…。
あぁほんと、彼の言葉は、あたしの心の、風のよう…。
あたしは彼の首に手を回して、ぎゅっと抱きつく。
「明日はジムだ」
そう何日も休めるか、と彼が愚痴る。
「…いいじゃない、5分くらい。一緒に空の青を、見に行こう…」
あなたと一緒なら、そんな素敵を連れてきてくれる雨の日も含めて、好きになれそうな気がするから…。
2008年5月1日&2日 Fin
あとがき
つーわけで、雪野様へお誕生日にと「雨」を題材にリクエストいただきました。昔雨の話か書いたことあったので、それにかぶらないように書くにはどうしたらいいかなぁと考えた結果の話ですが、ただの姉さんのわがまま話になってしまいましたね。すいません。決してそんなつもりはなかったのですが。どうしてそうなってしまったのやら。ただ雨で不機嫌にだるそうになる姉さんを書きたかっただけですが。
っていうか兄さんのセリフは実はユンナの「ほうき星」の歌詞から来てます。この歌詞で一回小説を書いてみたいなぁと思ったので、やっとかけてよかったです。「雨の後の夜空は、きれいに星が出る。それを考えると、雨も好きになれるよね」っていう歌詞です。そっから考えました。夜空じゃ青くならないので次の日としてますが。兄さんがいささか臭いですが、そういうことをさらりと言えて、姉さんの心を溶かしていく。いや心の雲を晴らしていく。そんな兄さんであってほしいということで。
雪野様、お誕生日おめでとうございました。