桜が咲いたら 後編
「あら?寝なかったの?」
本を読んでいたグリーンを、アタシは覗き込んだ。暇つぶし道具を持ってきてるなんて、さすがね。
「こんなところで寝ていられるか」
アタシを確認すると、ぱたんっと本を閉じる。
「まぁ、それもそうね」
お花見シーズンとあって、まだ8時代にも関わらず、大勢の人々がどんちゃん騒ぎを続けていた。おそらく、夜中からのオールの大人たちもいることだろう。そんな中良くこんな良い場所が取れたものだ、と関心した。
「まったく。あいつの気が知れん」
彼はうんざり、と言ったような顔をする。
あいつとは、
「レッドはぐっすりみたいね」
そうレッドだ。
「まぁこの場所を取るまではずいぶん気張っていたがな。取るからには絶対いい場所を取るとかなんとか言って、勝手に意気込んでいた」
つまり、この場所はレッドが確保して、あとは寝こけてしまったというわけだ。
「交互に眠れるように複数にしたのに、意味なかったみたいね」
人選を誤ったかしら。
「全くだ…」
彼の大げさなため息に、思わずくすくすと笑ってしまう。
「朝ご飯、持ってきたけど、寝てるならいらないかしら」
「いる!!」
レッドは慌てて起き上がった。
「なっ!?起きていたなら言え!」
その事実に、一番グリーンがびっくりしたのか、そう叫ぶ。
「いや、邪魔しちゃわりぃーかなーと」
あら、気が利くこと。
「おまえなー」
はぁ、とやっぱりあからさまにため息をつく彼に、笑ってしまった。
「まぁ、そんなことよりも、飯飯。もうすっげー腹へってさ」
話をすっ飛ばし、アタシが持ってきた食事に手を出す。
「おまえは寝ていただけだろう」
ずっと起きていたグリーンの方が、よっぽどお腹が空いてそうね。
「寝てたって腹は減るんだよ」
そんな二人のやり取りを横目に、ランチボックスを開く。
「まぁ、口に合うかどうかは分からないけど、どうぞ」
そう言って、彼らに今朝方作った、サンドイッチを差し出した。
「おっ、うまそう!うんじゃいっただきまーす」
レッドが速攻手を伸ばし、サンドイッチを頬張る。そんなにいっぱい食べると、お昼のイエローが頑張ったお弁当が食べれなくなるぞ。
「いただきます」
グリーンは少し疑いながらも、手を伸ばす。
アタシが作ったものが不思議なのかしらね?
「ど?味の方は」
とりあえず、2個3個と手を付けているレッドを見る限りでは、食べられないほどまずくはないみたいだけど…。
「あーうめぇーよ。おまえって結構料理うまいんだなー。なんか以外かも」
「失礼ね。お茶ぶっかけるわよ」
持ってきた水筒を開けてそう言う。ちなみに中身は熱い方のお茶だ。
「わぁ、ごめんなさい」
レッドは両手を挙げて、降参のポーズをとる。
まったく。
「で、グリーンは?」
一番気になるところなんだけど…。
「…まずくはない」
彼はぶっきらぼうにそれだけ答えて、また1個、サンドイッチを手に取った。
「うまいならうまいってはっきり言えってやれよー」
そうレッドがちゃちゃを入れるが、とりあえずアタシはその言葉だけでも満足かな。食べてくれてるのなら、おいしいって思ってもらえたって勝手解釈しますから。
「とりあえず、食べれなくはなさそうで安心しました」
そう言ってお茶を差し出した。
「はぁー食った食った」
そう言ってレッドがごろっと横になる。
「牛になるわよー」
食べてすぐ寝ると牛になるって言うじゃない?
「なったらなっただ〜」
もうお腹がいっぱいでどうでもいいで〜すって感じね。
「全く。これからあなたの愛しのイエローちゃんが、愛を込めて作ったお弁当がやってくるのよ?アタシの料理なんかでお腹いっぱいにしちゃって。食べられなくても知らないわよ?」
責任は一切持ちませんよ。
「おっ!?そうだった。やべ。俺ちょっくら腹ごなしにポケモンバトル挑んでくるわ!」
そう言って慌てて起き上がると、そのまま彼は走り出す。
「おいレッド!」
グリーンの制止の声も聞かず、彼は人ごみに消えていった。
「うふふ。ポケモンバトルっていうのがレッドらしいわね」
アタシはそんな光景に、思わず笑ってしまう。
「時間内に戻ってこないぞ、あいつ」
たしかに、夢中になったら戻ってこなそうだけど、
「お腹が空けば帰ってくるんじゃない?」
まるで子供みたいだけれど。
「…」
その様子がありありと想像できたのか、彼はしかっめ面を顔に浮かばせた。
でも、その予想は本当に的中。
あれから数時間後、イエローとクリス、そして必死こいてお弁当やお菓子、ジュース類などを抱えたゴールドがアタシたちに合流。
さぁお弁当を開こうか、なんていうタイミングでレッドは現れた。
愛の力ですかね?なんていうクリスの乙女チックな妄想に、アタシは食欲の力でしょ?と突っ込んでみたり。単純熱血馬鹿は読みやすくて楽だわ。
「あれ?グリーンさん寝ちゃったんですか?」
イエローが、アタシの膝の上を除く。
「あらイエロー。…うん、徹夜が響いたみたい。さっき気づいたら寝ていたわ」
レッドと違い、オールだった彼には、このどんちゃん騒ぎは疲れる元でしかなかったみたいで。気付けば彼は、木の陰でそっと横になっていた。そんな彼の頭をアタシの膝の上においても、彼は気付かずに熟睡中。よっぽど眠かったのね。さっきアタシと二人だったときも、アタシがずっと喋っていたからな…。
彼がうるさい女だ、とぶっきらぼうに言う顔が脳裏に浮かんで、思わず笑えた。
「こっちは幾分か静かなんですね」
イエローが振り向いた方では、ゴールドがどこからか持ち出したのか、カラオケセットで今流行の歌を披露中。でもなぜか、ここは静かで…。人の声や、他の人が騒ぐ音などは、少しなら聞こえるけれど、向こう側よりは幾分か静かだった。
「そうね…」
この背もたれにしている大きな桜の木が、遮ってくれているのだろうか…。
「イエローさん!何してるんですか!!こっち来てくださいよ!」
そんなのんびりした空間を、壊すような声が響く。
アタシたちは木の影に隠れて見えないのか、イエローの名だけが呼ばれた。
「あ、今行きます。じゃ」
イエローは軽く会釈すると、向こう側へと戻っていく。
「イエローさん、次歌ってくださいよ」
そうゴールドが、イエローにマイクを進める。
「ええ!?歌えませんよ!?」
慌ててマイクを突っ返すものの、
「いいじゃねーか。イエロー歌えよ」
「そ、そんなレッドさんまで!?」
乗り乗りのレッドがさらに彼女を困らせる。
「ゴールド!!」
そこにクリスの助け舟が出たか、と思いきや、
「ちょっとあんたね!!」
そう言っていきなり食いかかる。
「わぁ!?なんだクリス!」
慌てるゴールドに対し、クリスはいきなり
「ゴールド大好き!」
なんて言っていきなり抱きついた。
「わぁ!?」
そのまま支えきれずに、ゴールドは後ろに倒れる。
「おー行け行け〜」
そんな光景にレッドが爆笑。
「ねぇ、ゴールド〜」
「わぁ!?おまえ酔ってるだろ!?っていうか炭酸飲んだな!?」
どうやらクリス、炭酸に弱いみたい。炭酸で酔うなんて、いまどき稀少価値ね。
「ク、クリスさん、落ち着いてください!」
イエローが後のことを考えてか、クリスを止めようとするが、
「何!?私のゴールドを取るっていうの。渡さないわよ!」
なんて喧嘩腰。
「違いますよ!」
「何!?おまえゴールドが好きだったのか」
困るイエローをからかうようにレッドが一緒になれば、
「え、そんな、俺困るっす〜。ってそうじゃなくて!!」
乗りがいいゴールドでも、今はそれどころではない。
「ゴールドは駄目なの!」
「違いますってば!!!」
あーもう誰か止めてくれ、と言わんばかりのイエローの叫びが、その場に響いた。
「うふふ。クリスが炭酸に弱いなんて、いい弱点見つけたわ。カメラとビデオ、向こうの鞄の中に置いてきたのは痛かったわね」
くすくすと笑いながら、そんな情景を見て楽しむ。
今膝の上に彼がいなければ、あの秘蔵映像はアタシのお宝になったのに。
「また来年に期待しましょうかね」
そう言って、グリーンの髪の毛に触れる。
この寝顔を収められないのも残念だわ。
…こんなところで寝れるくらい、お疲れなんだね。
ジムの仕事終わって、速攻徹夜させて。折角の休みなのに、アタシのわがままで花見になんて巻き込んで。無理矢理アタシが誘っておきながら、ちょっと罪悪感。
「ごめんね」
そう言って、桜を舞い散らせる風が吹くと共に、彼の頬に、唇を落とした。
風が吹く。
春の風が。
桜が咲く。
春と共に。
ねぇ、桜が咲いたら…
桜が咲いたら、花見に行こう。
ずっと、ずっと、これからも…。
2004年4月10日 Fin
あとがき
あははははははは。ギャグですよ?もっぱらギャグですよ?シリアスなんて、ありません。私は、クリスの酔っ払い具合と、イエローのからかい具合が、非情に好きです(笑)あーなんて楽しいんだ。イエローを酔っ払わせるっていう話もちらほらありましたが、イエローは可愛いすぎるからな。むしろからかって遊ぶ方が楽しいです(死)あははは。クリスはおそらくこの後泣き上戸になると思います。必死に抵抗するゴールドを見て、「ゴールドは私が嫌いなのね!」って言って泣き出す。「いや、ちが、えーあー」とか困って一生懸命取り繕うゴールドの可愛そうな姿。それを見て大爆笑のレッドとか、一生懸命それをなんとかしようと頑張るイエローとか。あーなんて楽しいんだ。で、その後はおそらくまたゴールドに抱きついて就寝でしょうね。あはははは。気がつけば何もなかったかのように起きて、振舞う彼女がそこにいるんでしょうね。おそらく何一つとして覚えてないでしょうね。もしブルー姉さんが撮影に成功していたならば、クリスはもう二度と炭酸は飲むまい、と心に誓ってくださることでしょう(笑)ちなみに勝手に炭酸で酔うと設定しましたが、なんとなくそうな気がするのさ。それをゴールドが知っていたのは、おそらく施設でのパーティーか何かで、一回騒動をおこしてるからだと思います。問い合わせがあればその話も書くかも。おそらくゴークリ100%は間違いない。あははは。レッドがここまで大人でからかえるほどの余裕者だとは思えませんが、レッドもかなりハイテンションだったという方向で。うちのイエローさんはもっぱら受けくさく。もっぱら天然で。あははは。
まぁ趣旨はグリブルなのですが、だいぶはぶいてます。本当は、レッドが朝食後一人で留守番で、グリーンとブルーで桜見観光だったんですけどね。話が以上に長くなるので辞めました。あははは。ここまでいちゃつかせておけば満足だろ、光さん。はい。って方向で。とりあえず今日中にかけて良かったです。こんな馬鹿話を読んでくださって非情にありがとうございました!!!本人が楽しかったです。では!感想あったらお待ちしてま〜す!
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