グリブル小説「シアワセ」
 

 

「何やってるんだ?」
「わぁあああ!?見ないで!!」
あたしはあわてて書いてたものを手で隠した。

 

シアワセ

 

「なんだよ」
いきなり叫んだことに、彼が驚く。
「見ないで」
あたしは彼をにらみ上げた。
「…はぁ。見ないから何をしてるのかだけ言ってくれ」

ここはトキワジム。
グリーンが使うであろう机を陣取って、文字を書いていたのだ。
理由もなしに仕事の邪魔をされては困る、と言いたいのだろう。

「…七夕の願い事書いてたのよ」
あたしは仕方なく、してることを説明する。
「七夕ぁ?」
彼は顔をしかめた。
「そう。だって今日は7月7日でしょ?」
カレンダーを指差す。
「…おまえ、その年にもなって笹に願いをつるしたら願いが叶うとでも思ってるのか?」
「悪い?いいじゃない、夢はいくつになっても見るものよ?」
そんな夢も何もないような大人にはなりたくないわ。
「…はぁ。現実を見るのも大事だぞ」
「うるさいわねぇ。そんなつまらない大人になりたくないわ」
ぶぅ。
「だいたいにして笹に願いをつるしてどうして願いが叶うんだ」
理論を説明しろとぶつぶつ言い出す。
「…どうしてそう現実的に考えるのよ。昔離れ離れになった織姫と彦星がやっと出会えて、その幸せのおすそ分けに、願いを叶えてくれる。星があたしたちの願いを叶えてくれるみたいにロマンチックに考えれば夢があって素敵なイベントになるじゃない!」
もう、夢を壊さないで!
「想像だけじゃ願いは叶わん」
「もうっ!」
夢がないなぁ。
「願いは自分で叶えてこそ意味がある。そんな誰かに叶えてもらったような願いが自分のなんになるんだ」
はぁと彼はため息をついた。
「……」
確かにそうだけど。
「じゃあこう考えましょう?人はそうやって星に願いを提示することで、叶えるために努力しようとするんだと」
他力本願ではなく、こういう夢があります。自分はその夢に向かってがんばっていこうと思います。っていう意味をこめて書くってことで。
「星に提示する意味は?」
「人には言えない願いでも、星には言えるでしょ?」
人には誰しも言えないことがある。
「…まぁな」
あ、否定されない。
「まぁそれで、星に言うことで、希望をもらうの。願いを叶えるための活力をもらうのよ。そう考えれば、七夕に願いを書くことも悪くはないでしょ?」
人は背中を押してくれる何かが欲しいときがある。
それは人の助言だったり、自分の考える時間であったり。
それが、星に願いを提示すること、でもいいんじゃないかなって、あたしは思うの。
「……そうだな」
彼はいまいち釈然としない感じではあるが、否定することはしなかった。
「…」
さて、こう言った手前、この願いは書き直さなくては。
そう思いながら、願いを書き直していく。
「ところで、おまえはどんな願いを書いたんだ?」
「あっ!!!やだっ!見ないで!!!」
あたしが書き直した願いを、彼が奪って勝手に見る。
あわわ見るな!見ないで!!!こらぁああああ。
「…っ!?」
彼の顔が真っ赤に染まった。
「…うぅうだから見ないでって言ったのにぃ」
自分の顔も赤に染まっていく。
人に言えないから星に願ったのに。
「…あほ。こんなこと星に願うな」
彼は真っ赤な顔で短冊を突っ返してきた。
「がんばるぞ!っていう意気込みを書いただけよぉ」
むぅ。
「…これ以上意気込むな。俺が返してやれん」
「……え?」
それって
「…」
あ、耳まで真っ赤。
「……返してくれようと思ってくれてただけで、あたしすっごく幸せ」
口元がつりあがる。
顔がほんのり赤くなる。

あたしの願いは、

『グリーンをあたしが幸せにできますように』

グリーンが幸せでいられますようにと願っていたけれど、やっぱりやめた。
あたしがあなたを幸せにしてみせるから。
だから、お星様、彦星様、織姫様、どうか、あたしに力を貸してください。
どうかあの人を、あたしの大事な人を、この手で、シアワセにできるように…。

ではまず実行。

「グリーンが大好きだよ!」
「…っ」
グリーンという、あなたが大好きです!

 

2005年7月7日 Fin


あとがき

えーなんでしょう、七夕で、人それぞれ幸せの意味は違うものだ、という話を当初は書くつもりでした。だから幸せっていうタイトルをつけたはずなのに、いつのまにかぜんぜん違う話になってしまいました。なんでこんな七夕の夢を壊すような話を書いたんだろうか。七夕に夢を馳せているお嬢さん、おぼっちゃん。申し訳ないです。これで夢を壊されたなら謝ります、ごめんなさい。ただ、夢はあるつもりです。こんなの書いてもしょうがないしぃ、と思うんだったら、そう考えた方が書いた意味もちゃんとできるかなっていう、現実を見る方への夢の見方みたいのを書いたつもりです。もちろん、星に提示することで、叶えてくれるという考えでもいいと思います。夢があって。ほんと夢壊したらすいません。七夕だぁ、書くかぁだけで書いてはいけないと知りました(死)あああどうしよう。ごめんなさい。
いちおグリブルな甘さを出したつもり。グリーンを幸せにできますようにってことですが、兄さんはもう結構幸せです。これ以上幸せにされたら、申し訳なくて仕方がないということでね。自分は返せてるかぜんぜんわからないし。ってことで。いちおあたしには珍しく相思相愛っていうか、兄さんが姉さんを気にしてる感じですね。そんな二人が理想でございます。一生幸せでいてください。お願いします(えぇ)
そういえば、姉さんはこんな願いを隠すような人じゃないだろうという方もいそうですが、姉さんが兄さんの幸せを願うのはずうずうしいかなとか思ってる部分がありそうなので。しかも自分の力で幸せにしたいなんて嫌がられると思ったので、隠したのですって方向で。まだまだ不安も残る、そんな二人なのです。