レイエ小説「そこに…」
 

 

そこに…

 

「…いてっ」
彼女を探して森を歩く。

彼女はいつも、ポケモンたちと共に、このトキワの森にいる。
こんなけもの道なんてものともせず、まるで森が、自然が彼女を受け入れるように、まっすぐ道なき道を進んでいく。
彼女の足元には、彼女専用の道があるように…。

「…っ」
何回かひっかけては、傷をつけた腕や頬の痛みを、落ち着いて息を吐くたびに脳が認識していく。
このままでは、彼女を見失ってしまいそうだ…。

 

 

 

まだ、まだ追いつけない…。

 

 

「レッドさん、レッドさん、見てほしいところがあるんですっ」
うれしそうに、幸せそうな笑顔で言う彼女がかわいくて、愛しくて…。

 

 

 

「イエローっ?」
我に帰れば、愛しい彼女の姿を、俺は完全に見失っていた。

道なき道に取り残される俺。
彼女だって同じ人のはずなのに、まるで森の妖精のように、消えそうな透明な羽が生えているように、道なき道をするすると飛んでいく。

「…っ…はぁはぁ」
歩き続けて、登り続けて、開けた場所に出たら、陽の眩しさにしばらく目が開けられなかった。
「…っ…ん」
目が慣れてゆっくり開ければ、そこには麦わら帽子をかぶった彼女が、鳥ポケモンや他のポケモン達と、会話をするように戯れていて…。

「あっ」

風が吹き抜ける。
丘の上の、雲のない青空の広がるこの場所では、風が良く吹き抜けた。
彼女の麦わら帽子が、風に乗って飛んでいく。
俺のところに、飛んでくる。

逆光に、上手く目があけられない…。
「……」
金髪の、妖精…?

「レッドさんっ、ありがとうございます。っていうか、すみません、置いてっちゃってっ…。大丈夫ですか?」
彼女は、傷のついた俺の頬に、そっと触れた。
「…っ」

 

 

 

 

抱きしめる…。
触れられる…。
感じられる…。

「え!?レッ…レッドさんっ!?」

彼女の声を、ぬくもりを、彼女自身を、俺は必死に捕まえた…。

「レッドさん?」
真っ赤になった彼女が、俺を見上げる。
「…っ…イエロー…?」

あぁ、大丈夫。
大丈夫だ。

 

 

 

いつもの、彼女だった…。

 

 

「ど、どうしたんですか?」
彼女が、まだ赤みの残る表情で、俺を心配したように見上げてくる。
「……いや、なんでもないよ…」
捕まえていた麦わら帽子を、彼女の頭に被せた。
「ほんとですか?」
「あぁ」
必死に強がるように、心配させないように、いつもの笑顔を造る。

よかった。
まだ大丈夫だ…。
まだ、まだ彼女は、ここに居る…。

「レッドさん…?」
「…好きだよ、イエロー…」
「…っ!?」

 

今度はちゃんと、笑えた気がする。

 

ごめん、ごめん。
まだ手放せない…。
まだ自由に、飛ばせてあげられないんだ…。

もう少し、もう少し待っててくれ…。
すぐ、そこに追いつくから…。

今はどうか、この腕の中にいて…。
どうか…そこに……。

 

2007年11月25日&12月8日 Fin


あとがき

そこに、は、遠い部分をさします。まだそこにいけない。でも必ず行くから、まだ、そこにいて。必死にレッドさんが追いかける話です。
これは、沙耶が漫画のネタが決まらないからと、レッドさん視点のレイエを考えた結果の話です。不採用でしたが、こんなもの漫画で描けるわけはないので、あたりまえだと思いました。まぁでもレッドさん視点でレイエを書いても、イエローがなんかひどい人。イエロー視点でレイエを書いても、なんかレッドさんがひどい人。これ切り離せないんっすね。なんだかなぁ。
まぁこれは、レッドさんが旅に行きまくる前のお話です。イエローがポケモンとやたら仲がいいのとか、一人ですいすいと生きてしまえる強さだとか、そういうのに自分が追いつけなくて、必死に追いかけてる時期です。自分も頑張ってポケモンと仲良くなって、自分ひとりの力でなんでもできるように頑張るぞぉ!!!みたいな。で、いつのまにかレッドさんの方がすごくなって、今度はイエローが必死に追いかける番みたいな。たいてい世の中のレイエはそっちでしょうね。俺はその以前を書いたって感じで。この時期はまだぜんぜんなんもない感じ。最後の方になると優勝履歴がとんでもないことになり、ポケモン図鑑完成度もすごくって、とにもかくにも、とんでもない人になりそうです。で、イエローが必死に追いかけてきてることに気づいて、振り返って待って、抱きしめて捕まえて、「結婚しよう」って言うんだと思う。あーもうバカ!!!(えええ)結婚したら、子供ができるまでは、一緒に旅とかしてみたりね。あはは。バカっでぇーーーー(ええええ)子供できたらむしろレッドさんが産休を(どこに休みとるんだ)まぁこの二人は最初だけだと思うすれ違い。あとはきっとうまくいくよ。うふふ(ええ)